本好きの秘密基地

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夜はおしまい/島本理生 ※ネタバレ要素あり

今回は島本理生さんの『夜はおしまい』を紹介します。

表紙のデザインがきれいで、タイトルの響きも個人的に好きで手にとりました。

帯の言葉にも惹かれます!

 

目次

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あらすじ

金井先生(神父)の周囲にいる、男性や性のことで心に傷を負った女性たちの4話からなる短編集です。

 

感想

島本理生さんの書く小説の心理描写や情景描写、喩えは詩的できれいです。好きです。

今作も描写がきれいで、言葉を噛みしめて読んでいました。

私は性描写が苦手で流し読みして逃げるのですが、島本さんの性描写は生々しくなく、さらっと読めて、目をそらすどころかのめり込んでしまうくらいです。

 

ページ数としては厚くなく、短編なのですぐに読み終えるかと思ったのですが、内容が思ったよりも重く(オヤジギャグじゃないよ)、それは今の私には合わなくて、読み進めるスピードが明らかにダウンしました。それでも意地になって読了しました。(えらい)

きっと、もう少し経ってから再読すればまた違うかもしれません。私はまだここまでの境地に辿り着けていないのかもなと思いました。

完全なる大人の恋愛小説でした。響く人には響くやつ。

 

4話に共通しているのは、キリストはもちろんですが女の性に対する男の傲慢さや概念がテーマ

この世の全ての男性が傲慢というわけではなく、登場人物たちが関わってきた男性の傲慢さです。その傲慢さを彼女たちは訴える。疑問に思う。理不尽を感じる。

性において、男は女より優勢で、女ばかりが被害に遭い、傷つけられていく。その被害者たちの物語という感じだなと思いました。

金井神父は、そんな彼女たちの訴えを受け止めて、イエスの話を少々交えつつ救おうとしていました。

 

『夜のまっただなか』

4話の中で一番わかりやすく、腑に落ちたお話でした。

好きなのかもよくわからない男性と関係を持ち、適当で粗末な扱いを受けた女性の話。

「どうしてあなたたちは、自分の体を誰かの好きにさせてはいけないのか」

「自分の体を守るという考えは、本来はあなた方への抑止力ではなく、取り巻く環境に対するものです。イエスが姦淫は罪であると言ったのは、本来、無秩序な欲望から女性を守るためであったように」

本文P32、33より

自分の体を守るということは当たり前と思っていて、その事に関して深く考えたことがなかったので、この金井先生の言葉は印象的でした。

 

『サテライトの女たち』

ただただドン引きしながら読んでいました……。

愛人をして稼ぐ女性の話で、その女性に対しては「そういう人もいるよな」と理解はできたし、そんな現実にもがき苦しんでいる気持ちも、経験したことないけれどわかります。

何にドン引きしたかというと、愛人のおじさんの性癖

やばすぎて無理すぎて気持ち悪くて怖くて何度か休憩を挟みました。(めちゃくちゃディスるじゃん)

主人公の母親も少し異常だけれど、そういう考えをさせたのは男だし、母親の最大の防御と訴えなんだろうなと思うと、ただ「異常」と片付けるには違う気もします

カソリックプロテスタントも仏教も神道も男がいるかぎりだめだって言って、女性信者たちだけで、マリアの住処、ていう教団を立ち上げて、母が教祖になって」

「同姓でいくら傷をなめ合ったって、結局、愛されない女たちが集まって自己肯定してるって馬鹿にされるばかりで。神様は、やっぱり男の人じゃないとだめだと思う」

本文P95より

同類ばかりが集まったって何も変わらないですもんね。ただ自己満するだけで解決はしないですもんね。わかっているんですが、女って共感を求める生き物だからなあ。(自分もそう)

 

『雪ト逃ゲル』

個人的には一番よくわからなかった話でした。迷子になりました。この女性は結局どうしたいんだろうと考えこみました。(わからなくてもう諦めた)

既婚者で子持ちの女性作家が愛人と旅行するお話。

後々気づいたんですが、自覚ない同性愛者だったのかな。だから、自分の収まるところがわからないままに、男性と付き合うし結婚もするし愛人も男性だった。そして、あるきっかけによって、自分は女性を好きなのかもという可能性に気づいた感じかな。(憶測です)

シスターになる条件は「男のいない女であること」という事実に対して

それでは永遠に女は男の付属物ではないかと思った。

本文P121より

この文からも、彼女が男性への呪縛から逃れられず悶々としている様子が感じられました。

 

『静寂』

他のお話にもちらっと出てきていた精神科医の女性のお話。

この人も同性愛者なのかな。そんな感じの描写が度々ありました。繋がれなくて、そんな気持ちも外に出せなくて、すごく苦しいんだろうな。

金井先生は彼女を妹と重ねているから深入りしていたという繋がりも、この話で分かりました。金井先生が神父となったきっかけも。

「たしかにこの世には永遠はない。それを期待していたら、よけいに絶望するだけだから。その代わり、大抵のことは急激に変化したりもしないの」

本文P179より

このセリフ、ちょっぴり刺さりました。

 

最後に

今の時代は男女平等が叫ばれていますが、男女は根本的に違うから完全平等は難しいかもしれないなと考えさせられました。

難しかったし重い内容でしたが、女性の現実と向き合わせてくれる価値ある作品でした◎