本好きの秘密基地

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悪い夏/染井為人

今回は染井為人さんの『悪い夏』を紹介します。

第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞の作品です。

書店でよく見かけており、帯の中毒者続出・鼻血が出るほど興奮したというコメントに何度も興味をそそられ、ついに手に取りました!

一体どれほどの悪い夏が描かれているのでしょうか。わくわくです。

 

目次

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あらすじ

生活保護受給者とケースワーカー、そしてその両者を利用して悪事を働こうとするヤクザ。それぞれの醜い悪行が交錯して、どんどん物事が大惨事に、悪い方向へと進んで行くとある夏のノワール(どす黒い)サスペンス

 

感想

「全員がクズとワル」という情報を先に目にしていたのですが、善人と真面目もいるじゃんかって思っていたんです、途中までは。しかし、後半からオセロがどんどん黒にひっくり返るように正義感強めさんがクズに、真面目くんがクズに変貌していきました。

結果ほぼみんなクズとワルに

人って簡単に、一気に落ちるところまで落ちちゃうんだなと恐ろしさを感じました。

そのトリガー(きっかけ)は出来心だったり、恋に盲目になったり。

本人も、まさかほんの少し道を誤っただけでこんな大惨事になるとは、取り返しのつかないことになるとは思いもしないし、想像もしないだろうと思います。

こわい。他人事じゃないよなと思うとこわいです。

信頼している人、好きな人に騙されたら、当分は気づかないで騙され続けて、気づいた時には手遅れなんてこと普通にあると思います。人間不信になりそう……(大袈裟)

 

クライマックスはいろんな意味ですごかったです。カオス状態で笑っちゃいました

実際その場に居合わせたら笑えないですが。こわくて笑い事じゃないですが。

でも傍観してみているとコントを見ている感覚なんです。誰も全てを把握していない状態で登場人物が大集合しちゃったので「お前誰だよ」「言っている意味がわからない」「あんたに聞いてない」「これどういう状況なの」「誰だか知らんけど、邪魔」とかもうカオスな会話と喧嘩でした。(会話はニュアンスです)

しまいにはみんなノックアウトだし。なにこれ。(褒めています)

 

エピローグは納得する締めくくりでした。

立場が逆転という、ちょっと鳥肌の立つ終わり方。でも、それくらいのことを彼は犯したわけだから仕方ないのかも。後味は悪いですが、話としては良い着地でした。

絵が送られてくるというエピソード、ちょっと胸が苦しくなりました。彼女はきっと今も彼のことを好きでいるんだなと。しかし彼は彼女のことをよく覚えていなくて、でも絵に惹かれるということは潜在意識にはあるのかなと

「悪い夏」の意味が、このエピローグで上手に集約されていたように感じます。

ほんとに悪夢のような夏でした。一生こんなことに巻き込まれたくないよ私は。

 

恋模様も、なんとも言えないモヤモヤ感がありました。ちゃんと愛し合っていたはずなのに。お金や脅迫って恋心まで操れちゃうのかと思うと本当にこわいものです。

 

読む前に期待のハードルを上げ過ぎてしまい、物足りなさを感じてしまいましたが、クライマックスからはおもしろくて一気に読みました

結末は最高だし、登場人物のキャラも濃くて楽しめました!個人的に宮田さんが好きです。おもしろい狂い方。

たぶん、読む前に物語の情報を全く知らずに読めばもっと楽しめたかもしれません。

 

そして生活保護受給についても考えさせられました

本当に苦しんでいる人が受けられない事実や、一生懸命働いている人の方が所得が低いという矛盾と理不尽さ。

クズとワルが得をする社会

そりゃ、こういう人も出てきますよね……。

 

最後に

人の心の闇や醜さがわかりやすくリアルに描かれていて、考えさせられる作品でした。

染井為人さんの他作品も読んでみたいです◎