
今回は有吉佐和子さんの『青い壺』を紹介します。
発刊から約50年も経つ本作ですが、2025年上半期文庫ベストセラー1位を獲得。
テレビやラジオでも何度か取り上げられているのだとか。
有吉佐和子は『非色』もリバイバルヒットしていて、時代が変わっても違和感なく読まれ続ける作品を書くことができる方なのかなと感じます。
こちらも数年前から気になっていて、今年リバイバルヒットして思い出し、やっと読んでいこうと思います。
目次
あらすじ
職人の手で偶然にも美しく仕上がった青い壺。
青い壺は売られ贈られ盗られを繰り返しながら、そこで起こる人間模様を目撃していく。
感想
題材が良いのもあるけれど、読みやすくておもしろかったし、その都度考えさせられることもあって、有意義な読書とはこのことだと思いました。
青い壺と一緒に旅をしているみたいで楽しかったです。
ほとんど波乱な場面に出くわすことが多いのですが、つまり人生はいろんな波乱が起こるということなのでしょう。
定年退職後の夫婦生活、お見合い、遺産相続、老後の体や心や家族のことなどなど。
人生は試練の連続なのだと、青い壺の見る景色によって思い知らされました。
でも、それを乗り越えていく姿が興味深く、おもしろく、楽しかったです。
次はどんな人の元へ行くのかなというワクワクもありました。
一話ずつ感想を書いていたら長くなってしまったので、総括はここまでにして早速、細かく見ていきましょうぞ。
『第一話』
自分の作品に古色をつけてほしいなんて言われたら、そりゃ怒るよ。
そのままで綺麗なのに、まだ足りないというのか。勝手に私の作品に手を加えようとするな。って。
まあ彼も興奮のあまり、相手の気持ちを考える余裕なく、自分の良いと思う考えを言っちゃったのかもしれませんが。
そんな青い壺があっけなく、不在中に引き渡されているというのも、奥様すごいなと思うのです。
知らないうちに引き渡してしまえば、もうどうにもならないし、考えても無駄なのだし。
こういう時は、もうさっさと目や手の届かないところにやってしまうのが得策なのだなと勉強にもなりました。
『第二話』
定年退職して、ずっと家にいる夫との生活の、居心地の悪さ。
とってもわかる。
別に監視されて咎められるわけではないけれど、いるというだけで、監視されているような気持ちになって、悪いことしているわけではないのに、何かとやりづらい。
掃除したくても、そこをどいてほしいと言いづらい。
一服したいのに、しちゃいけないような気がする。
夫には趣味持っていてほしいですね。
そうすればお互いに自分の時間や世界を、定年後でも謳歌できるのですから。
仕事だけが取り柄は、定年退職後には夫婦共に絶望的なことになる、と改めて感じる話でした。
『第三話』
強烈でした。良い意味で。
これも世代間の価値観の違いなのでしょうね。
「男が先に別の女を見付けて別れると言いだしたら、女はいつまでも許してくれませんよ。ところが同じことを女がしたら、男には自由と解放が与えられるんです」
本文P66より
的確すぎて、クズ男と思っていたのに感心してしまいました。
この考えは結構前からあったということにも驚きです。
芳江の頭が痛くなってくるのも、わかります。
価値観の違う人からしたら、意味わからないことおっしゃってるわって感じですよね。それに仲人役なのだから、そんなこと言われちゃったらもう、悩ましい。どうしたらいいのって感じです。
『第四話』
遺産相続の揉め事はよく聞きますが、本当に醜いですね。
ここではさらに、恐ろしく感じることが。
実の娘に、暗に、死ぬ前に財産を欲しい、お父さんより先にお母さんが亡くなれば遺産取り分が増えるから、先にお母さんが亡くなってほしいというようなことを言われる。遠回しにだけれど。
悲しい。ゾッとする。
お金が絡むと、近しい人間でも醜くなるということを、より感じたお話でした。
でもそれを聞いて、長生きしてやる、長生きして財産も売って使い潰してやる、という二人の姿勢に、心がスッキリしました。
悲しいけれど、逆に思い通りにさせないというか、私らの財産を当てにするなという姿勢がかっこいい。
悲しんでいるよりも、ずっといい。
『第五話』
兄も嫂も冷たい人だなと思い、お母さんが低姿勢だから余計にかわいそうで。
そこから始まる母娘の生活は互いにとって穏やかで素敵でした。
さら手術でお母さんの視力が回復するとなっても、まあ介護の必要もなくなるし、自分でやれるようになるので、少し関係性というか態度が互いに変わるけれど、それでも、それはそれで楽しそうで、とても微笑ましかったです。
お母さんの古い価値観は、すごいなとも思うし、行き過ぎると厄介でもありましたが……笑
『第六話』
先生、勝手に中身をお酒と勘違いなさるとは。
たしかに御礼に壺を貰うとは思いもよらないし、まだお酒の方が無難ですものね。
海軍の大尉の読み方についての議論、おもしろかったです。
たしかにどっちでもいい。もう解体されているのだから。
でも、こだわる気持ちもわかる。
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『第七話』
戦時中でも、工夫して贅沢する気分を演出し味わう。
なんて素敵なのだろう。
並ぶのは、ワインや肉肴ではなく、それに見立てた日本酒、芋料理。
それでも、素敵な食器とドレスで嗜めば、うっとりする気分でしょう。
つらい中でも工夫して楽しむことが、どんなに大事か、素晴らしいかを感じるお話でした。
『第八話』
ずっと家事育児介護で目まぐるしく生活していた人にとって、唐突に訪れる静寂の寂しさ。
経験したことはないけれど、きっと虚しい気持ちに苛まれてしまうのだろうと想像はつきます。
前話でも感じていたけれど、夫は素敵な方ですね。
時代背景もあって亭主関白ぶりは否めないですが、でも、妻を労る気持ちが素敵でした。
誰もができることではない。
同時に厚子も、夫に労りの気持ちを感じさせるほど、最高の妻なのでしょう。
『第九話』
こうしてお泊まり旅行の先でたくさん語り合う楽しさ。
話題は変わっても、乙女心は幾つになってもあるんだなと、私まで楽しくなりました。
「私はね、去年七十の誕生日のとに、子供や孫たちの前で、はっきり宣言したのよ。七十まで生きれば立派なものだって、ね。もう我慢も辛抱も何もしないから、そう思えって言ったの」
本文P212より
こんなにたくさん生きて立派な人なのだから、もう好きにさせてくれという宣言。
自分からそう言えるのもすごいし、好きに生きていいと私も思います。
今まで頑張ってきたのだから、好きに生きていったらいいと思う。
歳を取ること憂うよりも、こうしてポジティブな方に考えられるって良い生き様だし、真似したいです。
案内人が「お婆さん、お婆さん」と連呼することに対して、あなたもお爺さんよって悪態をつくところは、その光景を想像して笑っちゃいました。
それにしても、私も京都行きたいな〜。
涼しくなってきたから余計にそう思うのかな。
『第十話』
嫌いなものを食べさせる術、すごく参考になりました。
息子も最近は野菜をあまり食べなくなってしまって悩んでいたところです。
でも無闇に姿形を変えるだけではいけないという失敗も参考になって、食べ物によって料理の相性があるということも肝に銘じなければいけませんね。
『第十一話』
修道女たちの決まりの改訂によって、もう一生会えないはずだった親子が会えるようになったことは喜ばしいことだけれど、互いに美しい姿のままだったものが、幻想が崩れ去り、互いの老いにショックを受ける様は、とても複雑な気持ちでした。
『第十二話』
第九話のおばあさま……!笑
幾つになっても、体は健康でいたいなと、つくづく思います。
健康でなくては何もできないし、生活も毎日きついし、周りも鬱陶しく感じるだろうしね。
『第十三話』
こんな形で再開するとは……!
ロマンチックだな〜とうっとりするのも束の間。
え、名乗り出るのかな。それとも話合わせるのかな。
やっぱり職人には意地があるのですね。
相手が先生だろうと、プロの鑑定人であろうと。
でも先生だって意地があるから譲れないよね。
これはモヤモヤな終わり方になりそうと思ったのだけれど、修造は本当に大人だな、この出来事を昇華できるんだもの。
最後に
青い壺の旅は波瀾万丈でしたが、いろんな人の人生の一部を垣間見れて、とっても楽しく、そして考えさせられるお話たちでした◎
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