本好きの秘密基地

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オブジェクタム/如何様/高山羽根子

今回は高山羽根子さんの『オブジェクタム/如何様』を紹介します。
首里の馬』にて、不思議な雰囲気を放たれていたので、他作品もどんな感じなのか気になっていました。

宮部みゆきさんなどがコメントを寄せていたということも、この本を読みたくなった理由でもあります。

「如何様」という言葉に、おもしろそうな予感がします。

 

目次

 

あらすじ

カベ新聞をつくる祖父、戦争に行く前と帰還後の顔姿が別人の男など、静かに進む世界の中で不思議で奇妙なことが現れる4つのお話と、ひとつのエッセイ。

 

感想

2冊目ですが、この本も奇妙で不思議……!

謎は謎のままという形が、置いてけぼりにされて途方に暮れるのですが、ただモヤモヤするのではなくて味がある

余韻が残るというやつです。

たしかに知りたいですよ、謎はどういうことだったのか、とか。読み終わった直後は特に。

でも時間が経ってくると、冷静になってくるのか、こう思う。

知りたいけれど、知らないままの方が自然なのかもしれない。

そう思える。

だって現実はそういうことの方が多いじゃないか。

うまくいかないことの方が、あとちょっとで知ることができそうなのに、惜しくも辿り着けないっていうことが、多いじゃないか。

そう思うと腑に落ちます。

でもね、お話自体は、SFやファンタジーのような不思議な要素を含んでいるので、現実に近いお話ではないのですが。笑

そこがおもしろいな〜と思うのです。

 

この短編集は連作ではないのですが、贋作、偽者、境界、坂、といったいくつかの共通した話題が登場します。

どれも不思議な体験をしているようなお話で、とてもおもしろい

どう展開していくのかワクワクする。

そんな部分もありながら、本物と偽物(贋作)とはどう判断されるのか、その区別は必要なのか、本人と偽者の境はなんなのかという、当たり前のように区別してきた真偽について、それがそれたらしめるものについて考えらせられました。

本物はどうして本物なのか。

偽物は本物とどう違うのか。

読後の今も、この境界線や意味について考え続けています。

 

『オブジェクタム』

カベ新聞という謎めいた掲示物を作っていたじいちゃん。

最終回に残したメッセージはなんなのか。

すっごく気になる。

きっと、じいちゃんは遊び心で、あとがきみたいな挨拶とか、あるいは座右の銘とかを暗号化したのかなと思います。

知る術がこの世にもうないのは残念ですが、この仕掛けに気づいてもらっただけでも、じいちゃんの暗号は意味があったようにも思います。

書けなくなった後のじいちゃんが作った不思議な石のオブジェたちも、それはそれは壮観だっただろうなと想像して、うっとりしちゃいます。

はっきり書かれていませんが、じいちゃんは偽札も造っていたのかもしれません。

新聞記事の事件の犯人は、じいちゃんなのかもしれない。

『太陽の側の島』

これ、一番好きなお話でした。

書簡形式で、お互いの無事や、身に起こった不思議な出来事を伝え合っていくのですが、興味深い出来事が続き、最後はびっくりする世界の仕組み

どこかの島(太陽の側の島)での体の再利用は不気味だけれどおもしろくて宗教的で、私好み

日本で待つ親子の元でしばらく養生していた小さな兵士も、妖の類のようで魅力的

チヅが気づいた世界の仕組みは、蜃気楼のような仕組みで、不思議でロマンチックだなと感じるのでした。

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『L.H.O.O.Q.』

終始不思議な雰囲気で、なんだか曖昧で掴みどころがないといった印象でした。

とりあえずわかったことは、奥様は特殊な体の持ち主だったのですね。

蛍かな? と思いました。笑

でも、これはこれで、おもしろい。

『如何様』

これも結局、帰還したのは本人なのか別人なのかわからないままですが、私は本人かなと思っています

でも2割がた別人説も捨てられない。

でもここで重要なのは、彼が変わり果てた本人か別人かではなくて、本物は何を持って本物なのかということが問題なのです

『ラピード・レチェ』

何を伝えたかったのか、いまいちわかりづらいお話でした。

そもそも伝えたいものがなかったかもしれませんが。

強いて言うなら、終盤で主人公の「駅伝」という競技に対するトラウマというか強迫観念みたいなものを感じました

語学があまりなくても根気よく言葉を並べて伝え続ければなんとかなる、という考察はおもしろいなと思いました。

「日本では(この国では)、ふつう、〇〇しない」という言葉が度々出てきて、このお話でも、真偽ではないけれど、それに似た普通とは何なのかということを考えさせられます。

『ホテル・マニラの熱と髪』

とても短いエッセイなのですが、ホテルで働く少女の

「ロングブラックヘア、タッチ、OK?」

本文P283より

が、なんだかとても印象に残りました。

紙をすいてくれるサービスがあるのかと驚いたし、高山さん同様、最後に誰かに髪をすいてもらったのはいつだろうと物思いに耽りました。

 

最後に

今作も不思議でした。不思議すぎて、考えさせられて、なかなかこの世界から抜け出せないくらい、余韻の残るお話たちでした◎

 

妻が椎茸だったころ/中島京子

今回は中島京子さんの『妻が椎茸だったころ』を紹介します。

奇妙なタイトルで、ずっと気になっていました。

あることを機に思い出し、そうなったらもう読みたくてたまらない。

ということで、ほのかに気になっていた不思議な一冊を。

 

目次

 

あらすじ

人、植物、石などに執着や愛着を抱く人たちの偏愛物語5篇。

 

感想

この世界観、良い!

静かに偏愛による狂気を抱いているような不気味な感じとか

ちょっと受け入れがたいような奇妙さだけれど愛おしいとか

言葉にすることが難しいけれど、要は不気味なんだけれど興味深くて、おもしろくて、不思議な読後感をくれる一冊でした。

 

偏愛。そう、偏愛のお話です。

その対象は人間であったり、植物であったり、食べ物であったり、石、動物であったり。

ここに登場する人たちの、ある存在に対するフェチみたいな。

癖のある愛。

私も気になったものや、一度ハマったものなんかには、とことんな姿勢で極めたり愛したりするので、わからないでもないです。

ただ彼らは、その先を行ってしまったような感じ。

愛しすぎて、一線を越え続けたり、存在すべきでないものを生んでしまったり、ありもしないものを感じたりしている

その危うさにハラハラさせられて、その愛が行き着く先を見てみたくなる。見届けたくなる。

そんなクセになるお話たちでした。

 

表題作の『妻が椎茸だったころ』は、やはり一番読みやすくて、この中で一番毒気がなく、シンプルに愛おしいお話でお気に入りです。

ハクビシンを飼う』もロマンチックだったり、ラフレシアナ』は目をかっぴらいてしまうほど仰天な景色だったし、……って、結局全部良かったなと、こうして書いていると実感します。

とりあえず、順番に書いていこうと思いますので、どうぞお付き合いください。

 

『リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い』

恋多き女性だったのね。そして今も、まだ乙女心を色褪せずにずっと抱いているのね。

そこにいるリズ・イェセンスカは、姿は老婆でも恋する少女よのうでした

そこに、差し出された飲み物に洋酒が少し入っていたこと、それによって主人公が酔いを感じたことに、ちょっと嫌な予感がしました。

洋酒を少し入れたことに関しては、体を温めるためなのでそこまで警戒することではないけれど、意識がぼんやりするのはちょっと怪しい

結局何事もなかったけれど、現在流れているニュースの内容に一気に鳥肌が立ちました

彼女の猟奇的な趣味なのか、それとも次の恋の邪魔になったのか。

もし前者なら、やっぱりあの時、主人公は危なかったのかもしれません。

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ラフレシアナ』

ん!? 比喩? 本物?

いやでも情景描写的に、本物……?

一体どこから現れたの、この化け物は。(化け物なんて言ったら一郎に怒られるね)

人間じゃない時点で不気味なのだけれど、一郎の生活を一変させ、あんなに愛でていた植物たちを手放させるって……。

それだけ一郎は彼女に首ったけなのはわかるけれど、化け物に取り憑かれているようで不気味でした

一郎の愛が、強すぎる愛が、彼女を具現化したのか。うまれたのか。

特に興味のなかった主人公が、一郎と入れ替わりに育てることにハマるところもおもしろかったです。

『妻が椎茸だったころ』

奇妙なタイトルに期待と、期待をしたせいでイマイチに感じてしまったら……という不安とが入り混じっていましたが、心がほっこりし優しい気持ちになる、でもちゃんと不思議なお話でした

このお話を読むと、なんだか私も椎茸や植物だった頃があったのかもしれないと思えてきます。

素敵な感性をお持ちの先生と奥様なんだな。

主人公の干し椎茸調理は可笑しくて、でも奇跡的にできあがって、そうか順序が違うだけで一応同じ形になるのかと驚きましたが、よく考えてみれば、料理をしたことがない人は、干し椎茸を水で戻すという方法を知らないのだよなとも思うのでした。

料理教室で作るちらし寿司、ツヤツヤで鮮やかなんだろうなと想像して、美味しそうで食べたくなりました。

そして孫ちゃんの言い間違いがキュートで癒されます。しいたこ!

『蔵篠猿宿パラサイト』

パラサイトって石のことだったんですね

宿部屋の上から響くジャラジャラ音に、私は祈祷みたいな宗教的な不気味さを感じましたが、違ってホッとしました

でもだからといって、普通ではないのです。

おもしろいことになっていました。

翌日の鍾乳洞で、二人の目が金色に光ったことには、少しゾッとしました。

石、あるいは鍾乳洞の力か。

それとも伝染するものなのか。

蔵篠猿宿パラサイトに魅せられた人に宿るのか。

神秘的で、少し不気味な、おもしろいお話でした。

ハクビシンを飼う』

ハクビシン、害獣のようですが、かわいい。

困るけれど、かわいい。

数えるほどしか面識のなかった叔母の、生前の意外な生活。それを想像したらほっこりしました。

そして叔母たちと交流のあった青年が魅力的な雰囲気を放っていて、最後の方はうっとりしました。

一度きりの出会い。一度きりの関係。

こういうのも、悪くないなと思いました。

ハクビシンは当初、害獣として現れましたが、最終的には幸福をもたらしてくれて、愛らしくて、このお話が愛おしく感じました

 

最後に

どの偏愛も本人たちの本気の愛を感じる、不気味で奇妙で愛おしいお話たちでした◎

 

ツミデミック/一穂ミチ

今回は一穂ミチさんの『ツミデミック』を紹介します。

第171回直木賞受賞作です。

毒々しい装丁が目を惹き、ずっと気になっていたのだけれど。

シーシーさんの感想を目にして、やっぱりおもしろそう……! と再び火が付きました。

火が付いているうちに読まないと、また先送りしちゃうのでさっそく!!

 

目次

 

あらすじ

コロナ禍によって変化した日常や人生をハラハラドキドキに仕上げた、パンデミック×罪の犯罪短編集。

 

感想

期待はしていたけれど、期待以上で、ひとつひとつ読み終わるたびに満、足、感

『スモールワールズ』のような、いやそれよりも過激だけれど、系統としてはそんな感じでおもしろかったです。

最後にゾワゾワが最高潮に達するお話から、ゾワゾワっとするけれど最後は幸せな読後感というお話まで。

ゾワゾワはどれもあって刺激的だけれど、どのオチも大満足。

全部楽しかったです。

 

罪×パンデミック(コロナ禍)が題材となっているお話なので、犯罪や犯罪紛いな部分にハラハラドキドキな刺激と、コロナ禍の非常事態宣言やマスク必須な世界を振り返ってみたりできる(?)おもしろいお話たちです。

 

スリル満点なお話で緊迫感はあるのですが、一穂ミチさんのイマドキなワードセンスがおもしろくて、そのおかげでクスッと笑えるところもあります

こんなグロテスクな不具合は受け入れられない。

と言った感じに。

こういった感じのものがいくつも。

なんだろう、語感というか、もうツボにはまる。

ここだけ読んだらコミカルなのかなと思っちゃうくらい、おもしろさにグッとくる。

さらにテンポも良いので、さらりと読めちゃうのも、おすすめポイントです。

 

私は『ロマンス☆』がすごすぎて印象に残っています。

多分一番好き。

でも、これとは真逆タイプなのですが『祝福の歌』も、最後がすごく良くて好きです。

まあどれも好きなのですが、強いていうなら、この子たちを推したいです。

 

『違う羽の鳥』

「同じ羽の鳥」は「類は友を呼ぶ」の意。

そして、その逆の意味のタイトルのこちら。

ちょいちょい不穏なドキッとする展開が連続して、ついに終盤で大きな爆弾

亡くなったはずの人が目の前にいて、彼女の口から当時の家庭状況を聞いて

こうして大阪出身の人に声をかけているのも、こうして踏切ババアの話をするのも、復讐だったなんて想像すらしなかったです。

踏切ババアの当時の様子に胸が苦しくなって泣きそうだったのに……!

目の前にいる女性は、どちらなのか曖昧なまま終わりましたが、やっぱり友達の方かな〜。

いやでも、友達になりすましてっていう線も消えない。でもどちらかと言ったら、友だちの方な気がします。

『ロマンス☆』

強烈だった……!

デリバリーにハマっていく主人公の危うさにハラハラして、でも彼女が配達員をガチャに例えるところはおもしろくて。

彼女の言う不具合には肝が冷えました。

そっか、そういえば……!怖

こんな場面を読んでしまうと、こんなことが起こりうると知ってしまうと、デリバリー常連になるのが恐ろしくなります。

でも衝撃展開はこれで終わらなかった。

むしろそれを越えた衝撃展開。

たしかにこれは精神鑑定案件ですね。

正当防衛だとしても、その後の対応や思考が普通の精神状態とは思えない。

でもこの狂気が、小説上だからだけれど、おもしろい。

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『燐光』

主人公と先生の関係性は、先生の親身すぎる言動で察しがついていたので、やっぱりね〜と得意顔で読んでいきましたが。

主人公を死に追いやった事件は悲しすぎて人間不信になりかねないし、その事実を切り札に攻防する2人は迫力あったし、最後の親友の見当違いな怯えに不穏さを感じてゾワっとしました

けれど主人公のワードセンスがおもしろいので、重くてこわいはずなのに、どこかライトな印象もある不思議なお話でした

特別縁故者

主人公ダメダメだけど、そうなってしまった経緯を知って、悔しさとか辛さとか痛いほど伝わり、見え方が変わりました。

でも、そんな事情を聞いても佐竹さんは甘ったれていると言っていて、佐竹さんの言うことも正論だから、この世の中のうまくいかなさにモヤモヤしました

「かわいがってくれたのにクビにしやがって、っていう発想がそもそも恩知らずだよ。かわいがってきたのに、泣く泣くクビにせざるを得なかったんだ。言い渡すほうだって、そりゃきついもんだぞ」

本文P146より

 

佐竹さんは意外と人を見抜くことがすごくて、その鋭さに修羅場では私までビクビクしました。

泳がせるみたいな、試すみたいな感じだったのか。おそろし。笑

でも小さなスパイと大きなスパイの活躍で素敵な方向へ進んですごく嬉しいです

『祝福の歌』

詳細わからなくても絶対不幸なこと間違いなしな、お隣さんの秘密

さらに五十歳にして知る自分の真実。

この要素はおもしろいに決まっている。

でもお隣さんの秘密は予想外で、それはそれで胸が苦しいくらい悲しい状態で、こういうことってどんなに頑張っても、そういう運命なのかなとも思ったり

最後の場面は感動しました。

記憶になくても、まぎれもなくその人も母で、愛のこもった歌声なんだろうな〜。泣けてくる。

『さざなみドライブ』

先客がいるという展開に、こ、これはどうするんだ彼らは……! と、これまた不謹慎にもワクワクしてしまいました。

実際に私がその場にいたら、ハラハラと恐怖でおかしくなりそうですが。

興冷めみたいな感じでハッピーエンドみたくなるのかと思ったら、なんや、おじさんこのタイミングで飲み物出してくるのは怪しくない……?

ここまでずっと忘れてたとか、ある?

しかも飲み物のチョイスが邪道すぎない?

と思っていたら悪い予感的中で、鳥肌が立ちました。

でもなんと、聡明な彼女による逆転劇で、ほっと胸を撫で下ろすのです

二転三転する状況にハラハラドキドキさせられて、こちらのお話もおもしろかったです。

 

最後に

刺激的でハラハラドキドキ、スリルたっぷりでおもしろいお話たちでした◎

 

青い壺/有吉佐和子

今回は有吉佐和子さんの『青い壺』を紹介します。

発刊から約50年も経つ本作ですが、2025年上半期文庫ベストセラー1位を獲得。

テレビやラジオでも何度か取り上げられているのだとか。

有吉佐和子『非色』リバイバルヒットしていて、時代が変わっても違和感なく読まれ続ける作品を書くことができる方なのかなと感じます。

こちらも数年前から気になっていて、今年リバイバルヒットして思い出し、やっと読んでいこうと思います。

 

目次

 

あらすじ

職人の手で偶然にも美しく仕上がった青い壺。

青い壺は売られ贈られ盗られを繰り返しながら、そこで起こる人間模様を目撃していく。

 

感想

題材が良いのもあるけれど、読みやすくておもしろかったし、その都度考えさせられることもあって、有意義な読書とはこのことだと思いました。

青い壺と一緒に旅をしているみたいで楽しかったです

ほとんど波乱な場面に出くわすことが多いのですが、つまり人生はいろんな波乱が起こるということなのでしょう。

定年退職後の夫婦生活、お見合い、遺産相続、老後の体や心や家族のことなどなど。

人生は試練の連続なのだと、青い壺の見る景色によって思い知らされました

でも、それを乗り越えていく姿が興味深く、おもしろく、楽しかったです

次はどんな人の元へ行くのかなというワクワクもありました。

一話ずつ感想を書いていたら長くなってしまったので、総括はここまでにして早速、細かく見ていきましょうぞ。

 

『第一話』

自分の作品に古色をつけてほしいなんて言われたら、そりゃ怒るよ。

そのままで綺麗なのに、まだ足りないというのか。勝手に私の作品に手を加えようとするな。って。

まあ彼も興奮のあまり、相手の気持ちを考える余裕なく、自分の良いと思う考えを言っちゃったのかもしれませんが。

そんな青い壺があっけなく、不在中に引き渡されているというのも、奥様すごいなと思うのです。

知らないうちに引き渡してしまえば、もうどうにもならないし、考えても無駄なのだし。

こういう時は、もうさっさと目や手の届かないところにやってしまうのが得策なのだなと勉強にもなりました。

『第二話』

定年退職して、ずっと家にいる夫との生活の、居心地の悪さ。

とってもわかる。

別に監視されて咎められるわけではないけれど、いるというだけで、監視されているような気持ちになって、悪いことしているわけではないのに、何かとやりづらい

掃除したくても、そこをどいてほしいと言いづらい。

一服したいのに、しちゃいけないような気がする。

夫には趣味持っていてほしいですね。

そうすればお互いに自分の時間や世界を、定年後でも謳歌できるのですから。

仕事だけが取り柄は、定年退職後には夫婦共に絶望的なことになる、と改めて感じる話でした。

『第三話』

強烈でした。良い意味で。

これも世代間の価値観の違いなのでしょうね。

「男が先に別の女を見付けて別れると言いだしたら、女はいつまでも許してくれませんよ。ところが同じことを女がしたら、男には自由と解放が与えられるんです」

本文P66より

的確すぎて、クズ男と思っていたのに感心してしまいました。

この考えは結構前からあったということにも驚きです。

芳江の頭が痛くなってくるのも、わかります。

価値観の違う人からしたら、意味わからないことおっしゃってるわって感じですよね。それに仲人役なのだから、そんなこと言われちゃったらもう、悩ましい。どうしたらいいのって感じです。

 

『第四話』

遺産相続の揉め事はよく聞きますが、本当に醜いですね。

ここではさらに、恐ろしく感じることが。

実の娘に、暗に、死ぬ前に財産を欲しい、お父さんより先にお母さんが亡くなれば遺産取り分が増えるから、先にお母さんが亡くなってほしいというようなことを言われる。遠回しにだけれど。

悲しい。ゾッとする。

お金が絡むと、近しい人間でも醜くなるということを、より感じたお話でした。

でもそれを聞いて、長生きしてやる、長生きして財産も売って使い潰してやる、という二人の姿勢に、心がスッキリしました。

悲しいけれど、逆に思い通りにさせないというか、私らの財産を当てにするなという姿勢がかっこいい。

悲しんでいるよりも、ずっといい。

『第五話』

兄も嫂も冷たい人だなと思い、お母さんが低姿勢だから余計にかわいそうで。

そこから始まる母娘の生活は互いにとって穏やかで素敵でした。

さら手術でお母さんの視力が回復するとなっても、まあ介護の必要もなくなるし、自分でやれるようになるので、少し関係性というか態度が互いに変わるけれど、それでも、それはそれで楽しそうで、とても微笑ましかったです

お母さんの古い価値観は、すごいなとも思うし、行き過ぎると厄介でもありましたが……笑

『第六話』

先生、勝手に中身をお酒と勘違いなさるとは。

たしかに御礼に壺を貰うとは思いもよらないし、まだお酒の方が無難ですものね

海軍の大尉の読み方についての議論、おもしろかったです。

たしかにどっちでもいい。もう解体されているのだから。

でも、こだわる気持ちもわかる。

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『第七話』

戦時中でも、工夫して贅沢する気分を演出し味わう

なんて素敵なのだろう。

並ぶのは、ワインや肉肴ではなく、それに見立てた日本酒、芋料理。

それでも、素敵な食器とドレスで嗜めば、うっとりする気分でしょう。

つらい中でも工夫して楽しむことが、どんなに大事か、素晴らしいかを感じるお話でした

『第八話』

ずっと家事育児介護で目まぐるしく生活していた人にとって、唐突に訪れる静寂の寂しさ

経験したことはないけれど、きっと虚しい気持ちに苛まれてしまうのだろうと想像はつきます。

前話でも感じていたけれど、夫は素敵な方ですね。

時代背景もあって亭主関白ぶりは否めないですが、でも、妻を労る気持ちが素敵でした

誰もができることではない。

同時に厚子も、夫に労りの気持ちを感じさせるほど、最高の妻なのでしょう

『第九話』

こうしてお泊まり旅行の先でたくさん語り合う楽しさ。

話題は変わっても、乙女心は幾つになってもあるんだなと、私まで楽しくなりました

「私はね、去年七十の誕生日のとに、子供や孫たちの前で、はっきり宣言したのよ。七十まで生きれば立派なものだって、ね。もう我慢も辛抱も何もしないから、そう思えって言ったの」

本文P212より

こんなにたくさん生きて立派な人なのだから、もう好きにさせてくれという宣言。

自分からそう言えるのもすごいし、好きに生きていいと私も思います。

今まで頑張ってきたのだから、好きに生きていったらいいと思う。

歳を取ること憂うよりも、こうしてポジティブな方に考えられるって良い生き様だし、真似したいです

案内人が「お婆さん、お婆さん」と連呼することに対して、あなたもお爺さんよって悪態をつくところは、その光景を想像して笑っちゃいました。

それにしても、私も京都行きたいな〜。

涼しくなってきたから余計にそう思うのかな。

『第十話』

嫌いなものを食べさせる術、すごく参考になりました。

息子も最近は野菜をあまり食べなくなってしまって悩んでいたところです。

でも無闇に姿形を変えるだけではいけないという失敗も参考になって、食べ物によって料理の相性があるということも肝に銘じなければいけませんね。

『第十一話』

修道女たちの決まりの改訂によって、もう一生会えないはずだった親子が会えるようになったことは喜ばしいことだけれど、互いに美しい姿のままだったものが、幻想が崩れ去り、互いの老いにショックを受ける様は、とても複雑な気持ちでした。

『第十二話』

第九話のおばあさま……!笑

幾つになっても、体は健康でいたいなと、つくづく思います。

健康でなくては何もできないし、生活も毎日きついし、周りも鬱陶しく感じるだろうしね。

『第十三話』

こんな形で再開するとは……!

ロマンチックだな〜とうっとりするのも束の間。

え、名乗り出るのかな。それとも話合わせるのかな。

やっぱり職人には意地があるのですね。

相手が先生だろうと、プロの鑑定人であろうと。

でも先生だって意地があるから譲れないよね。

これはモヤモヤな終わり方になりそうと思ったのだけれど、修造は本当に大人だな、この出来事を昇華できるんだもの

 

最後に

青い壺の旅は波瀾万丈でしたが、いろんな人の人生の一部を垣間見れて、とっても楽しく、そして考えさせられるお話たちでした◎