今回は早見和真さんの『笑うマトリョーシカ』を紹介します。
今期(2024夏ドラマ)ドラマ化されましたね!
ずっと温めていたのですが、ドラマ化を聞いて慌てて読み始めました。
原作を読んでから映像化作品を見たいのだ。
早見さんは『店長がバカすぎて』を読んだことがあって、そちらはコメディ系だったので、ミステリーな早見さんはどんな世界なのか楽しみです。
ちなみにまだまだ冊か気になるものがある早見作品。
目次
あらすじ
周囲を惹きつける、話題の若き官房長官・清家一郎。
彼のインタビューをした道上は、清家に対して、ある違和感を感じる。
この男は、誰かに操られているのではないか。
清家一郎とは、一体どんな人物なのか。
”笑うマトリョーシカ”は誰なのか。
感想
いやぁ……、私の思考は完全に早見さんの思うツボでしたね。
早見さんの手のひらで転がりまくりました。
目がクラクラです。
ブレーン絶対こいつ!間違いない!!と自信満々に鼻息荒く読み進め、えぇ……!?となる。
一冊読むのに、このくだりを何度繰り広げたことか。(単純脳内による学習能力のなさ)
ドラマで清家を演じる嵐の櫻井翔くんが、この物語を「万華鏡のよう」と例えたことが、しっくりくる。
そして、なんて上品な例え方なのでしょう。
くるくる視点が変わって、くるくる見え方が変わる。
本当に模様がくるくると変わる万華鏡のような物語。
これを刺激的でおもしろいと捉えるか、着いていけないと難しく捉えるか。私は前者ですが、人によって意見が分かれそうかなと思います。
頭脳系小説です。たぶん。
あ、でも前半は青春小説。
正直その前半は退屈しちゃってダレちゃったのですが、第三部からは圧巻というか、もう目が離せなくなるくらい夢中になりました。
人間って多種多様な生き物ですが、このお話を読むと人間の心理って怖いなと感じます。
全員が登場人物みたいな人たちではないし、ほんの少数存在する程度なのはわかっているけれど……
マインドコントロールとか
コントロールしていると思ってたら逆にされていたとか
信頼されていると思っていたら表面上だけだったとか
容易い人物だと軽んじていたら足を掬われるとか
(やばいやばいネタバレになりそうだからここらで止まれ私!)
なんだか人間不信になりそうです。ホラーです。
でも、それだから人間っておもしろいのさ。
蚊帳の外で、安全地帯で見ている分には。
とにかく、人間の心理の怖しい穴を見せてくれたお話でした。
そして冒頭の印象とは全然違う景色を見せられるのも鳥肌が立って楽しかったです。
ゆっきーポイントを差し上げたい。(用途不明の謎ポイント)
作中に、深くグサっときたお言葉があります。
「僕には嫉妬こそが世界を狂わせるという持論があります。嫉妬が束縛を生んで、その束縛が憎しみを生み、憎しみが戦争を生むのだと若い頃から考えていました」
本文P213より
おぞましい負の連鎖。
本当にその通りで、ぞわぞわする名言でした。
嫉妬って身近な感情ですが、こんなにも怖しい連鎖に発展していく。
こわいですね、嫉妬の破壊力。
※ネタバレ区域・考察※
ここから先は、マトリョーシカ的複雑構造のまとめと考察を私なりに書いていきますので、自分で考えたい人は立ち入らないでくださいね!
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読んだ方は、いろんな謎が次々と入れ替わって混乱したことでしょう。
混乱なんてしなかったぜという強者は、優しい目で見ていってください。
清家を操っていたブレーン(笑うマトリョーシカ)は誰なのか
このお話一番の謎です。メインです。
はっきりと書かれていませんでしたが、ブレーン年表はおそらくこんな感じ。
幼少~高校時代:浩子(母)
高校時代 :鈴木
※鈴木自体が浩子に操られ、利用されていた。
大学時代~43歳:美和子(恋人)
※本名:亜里沙
43歳~ :不在?
エピローグの清家の独白から読み取ると、彼女らは清家を操っていた気になっていたのでしょうが、実際は清家が彼女らを操っていたというか利用していたっぽいです。
そう、操っていたつもりが操られていた。
ホラーです。清家、こわいです。
こんな人物が日本の次期トップの位置に君臨しているなんて、もうこの国は終わった……と絶望せざるを得ないぞ。
ということはよ。最後に笑うマトリョーシカって、清家ってことかしら。
作中に登場するマトリョーシカの一番外の人形と、一番内側の人形は、表情が違うけれど同じ姿だという描写がどこかに描かれていたのも思い出す。
やっぱり、そういうことなのではあるまいか。
一番外(表面)は清家。その中に浩子や鈴木、美和子と続いて、最後の人形は不気味に笑う(または怒っている)清家の真の姿。
私はそう解釈しました。
歴代ブレーンはなぜ捨てられたのか。
これはエピローグで語られていましたな。
浩子・鈴木:恋人との仲を裂こうとした。
それなのに自分たちは何年も愛欲に溺れていたから。
美和子 :武智と愛人関係にあったことを知った。
清家を27歳で政治家にするためだけに武智を葬った。
この事柄に対して裏切りや軽んじられていると感じ、見くびるな!と怒っちゃった清家くん。
怒らせたら怖い清家くん。
誰がなんのために鈴木に卒論を送ったのか。
自分は絶対に捨てられないと思っていたのに捨てられてしまった美和子、改め亜里沙。
納得いかないし、どうにかしたいと焦る亜里沙。
そこで、もう誰でもいいから、このよくわからない現状を打破してほしくて、突き動かしてほしくて、鈴木に動いてもらおうと送ったのです。
結果的には予期せぬ形で動きましたが。
不自然な交通事故の真犯人は誰なのか。
清家の父:おそらく浩子かな?
武智 :おそらく美和子(亜里沙)かな?
鈴木 :主犯は清家。実行犯はおそらく坂本、いや佐々木もラストに怪しい雰囲気がプンッとしたな。
鈴木の事故は、指示をしたという発言があったので確実に清家ですが、手を下した人物、他の事故に関することは、はっきりと言い切られていないので、想像が膨らみます。
最後に
考察しがいがあり、考えれば考えるほど怖ろしい人間の心理。
そして実際に政界でこんなことが起きていたらと思うとゾッとする、爪痕ガッツリ残されたお話でした◎
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