本好きの秘密基地

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夜の国のクーパー/伊坂幸太郎

今回は伊坂幸太郎さんの夜の国のクーパーを紹介しします。

伊坂さん好きなのですが、嬉しいことにたくさん作品がありまして、何から読もうかと迷ってしまいます。

その中でも今回は、表紙の可愛らしさと、帯の言葉に期待が膨らみ積読していたこちらを選びました!

 

目次

 

あらすじ

気が付いたときには、知らない地で、蔓で縛られていた。

そこに猫が「ちょっと話を聞いてほしいんだけど」と話しかけてきた。

猫が語ったのは、猫の住む国での戦争後の状況、ネズミとの対話、そして国に語り継がれるクーパーとクーパーの兵士のお話

そして見えてくる、その国の秘密についてのお話

 

感想

異国の戦後のお話

猫とネズミの世界のお話

クーパーなる怪物退治のお話

といった感じで、ファンタジーな内容がおもしろくて興味深く、わくわくしながら楽しんでいたの

だが

なんとなんと

そんなカラクリ(世界の秘密)が……!( ゚Д゚)

間違いなくファンタジーだった。でもミステリーでもあったのです。

たしかにちょこちょこと謎は置いてありましたよ。

クーパーの兵士が透明になるとか、誰かが乗っていた感じのある無人の馬とか、鉄国の兵士を殺めた犯人とか。

なんならクーパーの存在自体も謎。

でもファンタジー世界の特殊設定ってあるじゃないですか。なんでもありみたいな。

だからそんなに、気にはなるけれど、そんなにナゼナゼどういうことって深く思わなくて。

でもこの奇妙な謎は特殊設定でもなんでもなく、意図的に生まれたものだったという驚き。

そして納得。

そして、かっこいい。

 

基本的には猫の視点で進むお話なので、そこもおもしろいです。

猫の心理や思考、猫から見た人間の滑稽さ、ネズミとのあれこれ

描写が猫そのもので、かわいらしくもあり、気まぐれ具合も絶妙、冷静なところも、まさしく猫

いたずらでもなんでもなく、ネズミを襲ってしまうという本能のことを「太古からの指令」と呼ぶところも、お気に入りです。

そしてトムとジェリーのオマージュを感じる部分もあって、そんな遊び心も嬉しいです。

いやあ、もうとにかく終始、猫君たちが可愛すぎた。

猫好きにはたまらないのでは……!?

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さてさて、クーパーの兵士が透明になるという伝説は本当なのか

透明になった彼らはどこに行ってしまうのか

クーパーというのは、白い杉の怪物と言われているものなのですが、退治すると液体が飛び散って、それがかかると透明になってしまうという言い伝えです。

死ぬのではなくて、透明になる。

「透明になる」という表現としては、本当でした

でも思っていたのと違うっていう透明のなり方で、ああ、たしかに、透明になっているようなもんかあ……という感じです。(読んでみてね)

 

このお話で考えさせられたというか、深いなと思ったことがあります。

ファンタジーやミステリーという物語的楽しみ方も強いですが、メッセージ性も強い作品なのです。

提示された事実を信じるか信じないかは自分で判断せねばならない

誰かに指示を仰がないと動けないということは、時に危険で、自分の理性(意思や考え)で動く勇気が必要である

ということを、このお話から感じ取りました。

だって世界は広いじゃないの。偉い人ひとりの言葉が全て正しいとは限らないのよ

先入観や思い込みで、視野が狭くなってしまうじゃないの。

なかなかそういうのって抜けないけれど、思い出せるようにしておきたいものです。

 

最後に

ファンタジーとしても楽しいのに、どんでん返しにたまげました。

世界の秘密のお話、ぜひ読んでみてください◎

 

ことり/小川洋子

今回は小川洋子さんの『ことり』を紹介します。

平成24年芸術選奨文学科学大臣賞(文学部門)受賞の作品です。

書店でポップに名作だよ~みたいなことが書かれていたのがきっかけで購入した記憶があります。(なんせかなり積読状態だったので詳しく覚えていないのである)

小川洋子さんだし。絶対外れないと思っています。

 

目次

 

あらすじ

小鳥をこよなく愛した兄弟がいた。

兄は人間の言葉が話せず、ポーポー語を使う。

唯一、兄のポーポー語を理解できた弟である「ことりの小父さん」。

そんなことりの小父さんの人生の物語

 

感想

ことりの小父さんの人生、世界は、とても静かで穏やかで、どことなく切なさや寂しさを纏っていました

けれど、優しくて温かい

切なくなったりするのだけれど、心が陽だまりの中にいるように温かくなる。

そして優しい気持ちになれる。

心の栄養剤みたいな物語でした。

心が荒んでいる時なんかに読んだら、心が洗われて、じんわりして、もしかしたら涙するかもしれません。

小川洋子さんの作品って、このような静寂な世界が印象的なのです。(まだ数冊しか読んでいない知ったかぶり)

そしてその世界は時に残酷で、時に優しくて、時にぶっとんでいる。(!?)

今回はちょっぴり残酷なスパイスと、穏やかながらもガツンと心揺さぶる優しさといった感じの類でした。

 

お兄さんはもちろん、ことりの小父さんも、正直申し上げると変わり者で社会不適合者です。

お兄さんは働いたことがなく、ポーポー語なる特殊言語でしか会話ができない。

ことりの小父さんも、他者との交流を苦手としていて、勘違いされやすい。

きっと生きづらい。

けれど、2人はお互いに良き理解者で、小鳥を愛していて。

それだけで、もう十分じゃないかと本人たちは思っているように感じるから、なにも痛々しくない

むしろこの兄弟、魅力的で可愛らしいとすら思うのです。

ポーポー語はね、気になるけれど笑

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お兄さんがいなくなった後の、ことりの小父さんの人生に登場する何人かの人たちも印象的でした。

その中でも司書さんとの対話が好きです

お兄さん以外で唯一、ことりの小父さんに歩み寄ろうとする感じがあって、そしてプロ意識もあって素敵

あ、そんなこと言ったら、園長さんもだ。好き。

 

お兄さんは小鳥を誰よりも愛したけれど、飼おうとはしなかった。

その理由が素敵。

「小鳥は幼稚園にもいる。庭にもいる。世界中、どこにでもいる。どれが自分のかは、決められない。だから、自分の小鳥はいらない」

本文P93より

この発想が、当たり前なのだけれどできないから、ハッとさせられる。

飼うということは、その動物たちを責任持ってお世話できるかが大事だとは思っていたけれど、飼うということが、動物たちからしたら傲慢な考えなのかもしれないと、初めて感じました。

飼うことは悪いことじゃないんだけれどね。

小鳥を愛しているからこそ、小鳥と対等になって考える。そんなお兄さんの姿勢が感じられる持論でした。

 

ラストシーン、穏やかに、しかし力強くグググっと感動の波が押し寄せてきました。

ことりの小父さんがかっこよすぎた。

「私のためになど、歌わなくていいんだよ」ですって。イケメンすぎる。

メジロちゃん、恋始まっちゃうよ。

なにがなんでも、無事にこのメジロを自然に帰す。

お兄さんから引き継いだ使命のように。

そこから、パトラッシュ疲れたよ……みたいな、神々しくも切ないシーンに流れて、冒頭のメジロが飛び立つシーンが頭で繋がった時、私は、すごいものを読んだ心地になりました。

ポップを書いた書店員さんよ、たしかに名作でした! 出会わせてくれてありがとうございました(嬉泣)

 

最後に

穏やかでいて、とても情熱的な愛らしい変てこ兄弟の人生。

癒されて、感動して、読後は心がポカポカでした◎

 

鏡の中は日曜日/殊能将之 ※ネタバレ要素あり

今回は殊能将之さんの鏡の中は日曜日を紹介します。
第2回本格ミステリ大賞候補作です。

ハサミ男が衝撃的で、殊能さんの他作品も読んでみたく、まずは私の好きな北見隆さんの表紙であるこの作品を!

後になって知りましたが、こちらシリーズものだったらしく、でもまあ良い。どこから読んでもわかるでしょ。

 

目次

 

あらすじ

14年前に起きた既に解決済みの梵貝荘事件を再調査してほしいと頼まれた探偵の石動戯作

調査の最中、石動は殺された。

でも石動はここに生きている。

14年前の推理は本当に間違っているのか。

冒頭のアルツハイマーの人物は誰なのか。

そして石動が殺されたことになった経緯とは。

続編『樒/榁』も収録。

 

感想

またしても! またしてもスカッと騙されたぜ!!

ハサミ男で学習しなかったのか私はあああああ!笑

大興奮です。こんな騙され方されたらもう、嬉しい悲鳴が止みません

笑っちゃうよ。こんなの、笑っちゃう。

そしてユーモアたっぷりでおもしろい文章もご健在

殊能将之さんの虜になったことを、ここに宣言する。

殊能将之さんが亡くなられていることが、とにかく悔やまれますが、まだ未読作品はあるから希望は潰えていません。うん。

 

鏡の中は日曜日

まず、第一章「鏡の中は日曜日」の異様さに不安感と好奇心が掻き立てられます。

え、なになに。一体これは何。

読み進めて徐々に感づく。

主人公はアルツハイマーなのだと。

アルツハイマー病の人の世界なのだと。

鏡の中から何者かが、過去の事件を思い出せと語りかけてくるシーンなんかは、さらに魅惑的な謎に誘われているようで、じらさないで教えておくれ〜とウズウズしてしまいます。

そして思い出したかは置いといて。(置いとくんかい)

なんと、とんでもない新たな事件起こしちゃうのよ。(なかなかのすごい悲鳴ものです)

待ってくれよ。第一章にして、あなたもう殺されちゃうの?!

新しい。冒頭の方で主役級が殺されちゃうなんて、今までにない。

こっから先まだまだお話ありそうだけれど、どうなるの?!

 

第二章では、名探偵石動戯作に例の梵貝荘事件の再調査依頼があり、事件の詳細が現在と過去を交互に行き来することで見えていきます

動機おもしろいけれど、これ、間違った推理なんでしょう……?(再調査依頼ってことは、そういうことでしょう?)

そしてついに、石動が殺されて……!?

 

はい、第三章は驚きの連続です。

私のあの興奮状態は、この章の全てが原因です。

ここのことに関してはネタバレ区域にて!

 

『樒/榁』

鏡の中は日曜日続編にあたる短編です。

「しきみ/むろ」と読みます。どちらも植物の名前です。

お察しの方もおられると思いますが、木へんを取ると「密室」。そう、密室もののお話です。(遊び心最高)

個人的には鏡の中は日曜日が強烈だったので、この2篇はライトな読み応えでした。

でも、レベルはすごい。

その手があったか~と、またまた虚を突かれた気分

そして水城と石動の交錯もおもしろいです。嬉しい気持ちになります。

 

※ネタバレ区域※

ここからはネタバレが盛大にありますので、未読の方は、読んだらまた来てね!

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おあずけにしておりました鏡の中は日曜日の第三章。

まず最初のドッキリがこちら。

石動生きてるの!? どういうこと!? 

じゃあ殺されたの誰よ。なぜ石動が殺された錯覚が起きちゃっているのよ

……身元は鮎井だと!? ますますなぜ!?!?

種明かしはこうでした。

梵貝荘事件関係者に話を聞くべく、全員に石動の名刺を送っていた

その送られてきた名刺を、身元隠しのために鮎井が勝手に使用したため、加害者側は鮎井を石動だと思い込んだ

なるほど、そんなからくりが……。

そして2つ目のドッキリがこちら。

奥さん、水城なの!? (智子じゃなくて!?)

いや待てよ。水城って男なんじゃないの……?

水城優臣、ではなく本名は水城優姫だったという。女を取って優臣、というわけか。

またもやられました。

鮎井がややこしくするから! こんなことに!!

ちなみにアルツハイマー病の方は、瑞門先生かと思っていたら、次男の誠伸の方でした

だから「若いのに」って言われていたのね。腑に落ちた。

 

14年前の推理の方はおそらく正解ですね。

常軌を逸した動機。

もはや言葉遊びによって犠牲になったという、被害者のツイてなさ……。

 

『樒/榁』「樒」編の密室トリックには唖然。

ただの事故じゃん!

というか被害者、運悪すぎじゃん。欲張ろうとするからよ!笑

寝てたら盗んだ斧が落ちてきちゃったって

亡くなったからこんなこと言うの不謹慎だけれど、人騒がせな。

「榁」編は、意外も意外な目的で作られた密室で、こちらも人騒がせな事件。

自分の失態をカモフラージュするために、あたかも密室を破った時に破損したと見せかけるために

まあ、誰にも危害が及ばなくて良かったよ。

 

最後に

殊能将之さんのすごさはハサミ男だけではない。

こちらも負けず劣らずのおもしろい傑作でした◎

 

希望が死んだ夜に/天祢涼

今回は天祢涼さんの『希望が死んだ夜に』を紹介します。

タイトルに悲哀の色が浮んでいて、でもどんなお話なのか気になる。

装丁もどこか魅力的です。

希望に満ちた季節に、あえて逆を行くお話を今回は読んでいきます!

 

目次

 

あらすじ

同級生殺害の容疑で現行犯逮捕された少女。

容疑は認めるものの、動機については黙秘を貫く

2人の少女の間に何があったのか。

この事件は、本当に彼女が犯人なのか。

貧困家庭の子どもたちの過酷な現実が突き刺さる切ないミステリー。

 

感想

読み終わった後、語彙力を失うほどに圧倒されました。

ミステリーとしても、社会問題の深刻さとしても。

少女たちの力強い覚悟をこうして目にすると、私なんて生ぬるくて能天気に日々を過ごしているのだなと痛感してしまいます。

同時に、社会問題である貧困家庭の現実も思っている以上に深刻で、そんな中で生活をする子どもたちにとって、まさにこの国の社会現状は「希望が死んだ夜」でした。

好きなものや夢や目標が、貧困家庭であるが故に、どう足掻いても叶わなくて抜け出せない。

自分だけの力では、現状を変えられない無力さ。

国が、大人たちが、向き合わないから、そんな子どもたちは未来に希望が持てなくて、持てたとしてもことごとく奪われていく

少女たちが貧困家庭でなかったら、この悲劇は起きなかった。

このお話だけでなく現実にも、貧困家庭でなかったら起きなかったはずの悲劇はたくさんある

やるせなくて、もどかしい気持ちになりました。

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ミステリー要素の方の展開も壮絶でした。

真相の二転三転がすごかったです。

二転目が真相かと思いきや、なんと三転目があり、それがあまりにも予想外すぎて、考えもしなかった展開で一気読みでした。

なるほど、そういえばいくつか伏線回収されていなかったわ

ここで回収されるためにあったのね……!

でも、とにかく胸が苦しくなる。

こんなオチある……?泣

どうせ死ぬんだからとか、そんなの、意味が違ってくるから、一緒じゃないよ……。

運命の悪戯にもほどがあるってくらい、残酷に感じました。(個人的見解)

少女が「自分が殺した」と言い張っていた理由が、強くてかっこよくて、愛が溢れ出ていて。

でも、この手段でしか真相と戦えなかったという事実は、苦しくて切なくて、悔しい。

 

少女ととことん向き合って、その結果思わぬ真実を見つけ出した蛍さんの存在もすごく大きかったです

こういう人が捜査陣の中にいてくれたら、間違った解釈は起きない。

でも、現実なかなかそうもいかないのでしょうね。

ちなみにシリーズ化されているみたいなので、蛍さんの活躍はこれからも見ることができそうです。

読むの楽しみ!(いつになることやら)

 

最後に

よくある青春ミステリーかなと思って挑んだら、とんでもなく深い爪痕を残してくる読み応え抜群なお話でした◎