今回は小川洋子さんの『ことり』を紹介します。
平成24年度芸術選奨文学科学大臣賞(文学部門)受賞の作品です。
書店でポップに名作だよ~みたいなことが書かれていたのがきっかけで購入した記憶があります。(なんせかなり積読状態だったので詳しく覚えていないのである)
小川洋子さんだし。絶対外れないと思っています。
目次
あらすじ
小鳥をこよなく愛した兄弟がいた。
兄は人間の言葉が話せず、ポーポー語を使う。
唯一、兄のポーポー語を理解できた弟である「ことりの小父さん」。
そんなことりの小父さんの人生の物語。
感想
ことりの小父さんの人生、世界は、とても静かで穏やかで、どことなく切なさや寂しさを纏っていました。
けれど、優しくて温かい。
切なくなったりするのだけれど、心が陽だまりの中にいるように温かくなる。
そして優しい気持ちになれる。
心の栄養剤みたいな物語でした。
心が荒んでいる時なんかに読んだら、心が洗われて、じんわりして、もしかしたら涙するかもしれません。
小川洋子さんの作品って、このような静寂な世界が印象的なのです。(まだ数冊しか読んでいない知ったかぶり)
そしてその世界は時に残酷で、時に優しくて、時にぶっとんでいる。(!?)
今回はちょっぴり残酷なスパイスと、穏やかながらもガツンと心揺さぶる優しさといった感じの類でした。
お兄さんはもちろん、ことりの小父さんも、正直申し上げると変わり者で社会不適合者です。
お兄さんは働いたことがなく、ポーポー語なる特殊言語でしか会話ができない。
ことりの小父さんも、他者との交流を苦手としていて、勘違いされやすい。
きっと生きづらい。
けれど、2人はお互いに良き理解者で、小鳥を愛していて。
それだけで、もう十分じゃないかと本人たちは思っているように感じるから、なにも痛々しくない。
むしろこの兄弟、魅力的で可愛らしいとすら思うのです。
ポーポー語はね、気になるけれど笑
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お兄さんがいなくなった後の、ことりの小父さんの人生に登場する何人かの人たちも印象的でした。
その中でも司書さんとの対話が好きです。
お兄さん以外で唯一、ことりの小父さんに歩み寄ろうとする感じがあって、そしてプロ意識もあって素敵。
あ、そんなこと言ったら、園長さんもだ。好き。
お兄さんは小鳥を誰よりも愛したけれど、飼おうとはしなかった。
その理由が素敵。
「小鳥は幼稚園にもいる。庭にもいる。世界中、どこにでもいる。どれが自分のかは、決められない。だから、自分の小鳥はいらない」
本文P93より
この発想が、当たり前なのだけれどできないから、ハッとさせられる。
飼うということは、その動物たちを責任持ってお世話できるかが大事だとは思っていたけれど、飼うということが、動物たちからしたら傲慢な考えなのかもしれないと、初めて感じました。
飼うことは悪いことじゃないんだけれどね。
小鳥を愛しているからこそ、小鳥と対等になって考える。そんなお兄さんの姿勢が感じられる持論でした。
ラストシーン、穏やかに、しかし力強くグググっと感動の波が押し寄せてきました。
ことりの小父さんがかっこよすぎた。
「私のためになど、歌わなくていいんだよ」ですって。イケメンすぎる。
メジロちゃん、恋始まっちゃうよ。
なにがなんでも、無事にこのメジロを自然に帰す。
お兄さんから引き継いだ使命のように。
そこから、パトラッシュ疲れたよ……みたいな、神々しくも切ないシーンに流れて、冒頭のメジロが飛び立つシーンが頭で繋がった時、私は、すごいものを読んだ心地になりました。
ポップを書いた書店員さんよ、たしかに名作でした! 出会わせてくれてありがとうございました(嬉泣)
最後に
穏やかでいて、とても情熱的な愛らしい変てこ兄弟の人生。
癒されて、感動して、読後は心がポカポカでした◎