本好きの秘密基地

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掃除婦のための手引き書/ルシア・ベルリン 岸本佐知子 訳

今回はルシア・ベルリンの『掃除婦のための手引き書』を紹介します。

2020年本屋大賞 翻訳小説部門 第2位第10回 Twitter文学賞 海外編 第1位の作品です。

作者さんの死後10年が経ってから、このように話題になったそうです。

時が経って発見されたベストセラー。

どんな作品なのか想像できないけれど、すごさだけは理解できるので、わくわくしながら表紙を開きます……!

 

目次

 

あらすじ

自身の人生経験を題材にしたインパクトある短編集24篇。

 

感想

どれも衝撃作。

短編という短い時間の中で、爪痕をしっかり残される

淡々としたものは一つもなくて、全部が濃ゆいです。刺激が強いです。痺れます。

顔を顰めてしまうものから、笑えるものまで。

主な設定は自身が経験した掃除婦、4人の子を持つシングルマザー、看護師、教師、電話交換手、アルコール依存症などなど。そして舞台としてよく出てくるのはコインランドリーや鉱山町、刑務所。

全体的に壮絶で、ということはルシア・ベルリンの人生も壮絶だったんだろうなと想像してしまいます。

 

魅力は物語が奇抜な衝撃的展開をするというだけじゃないんです。

ジョークやユーモアがたっぷりでおもしろいです。

重くて過酷で苦しい内容のはずなのに、そのユーモアたっぷりな言い回しやジョークで、陽気な雰囲気に感じてしまう錯覚

重いのに、重くないのです。

壮絶な人生を笑い飛ばして語っているような軽快さがあるのです。

他人の苦しみがよくわかるなどと言う人間はみんな阿保だからだ。

本文P13より

この言葉にはスカッとしつつ、その気持ち良く潔い言い方に笑いがこぼれました。

当店ならいつでもDIE(死ねます)。

本文P14より

コインランドリーの宣伝文句なのですが、染色(DYE)の間違いなんでしょうね。一番笑ったかもしれません。

天井には<こんなとこ見てなんになる?>のプレート

本文P168より

ささやかに人を小バカにする仕掛けがあって、こういうのもおもしろい。

挙げるとキリがないのでここまでにしますが、このように情景描写にも細かくおもしろさが仕掛けられています。好き。

 

言葉選びや表現もおもしろいです。

詩的なものもあれば、ここにもユーモアが駄々洩れしていたりして。

道路の舗装を固める音を「おおぜいの人が拍手するみたいな音」と表現したり。(たしかにそんな音が聞こえてきそう)

腕の痣の多さを「北斗七星や小びしゃく座や竪琴座」と表現したり。(ロマンチック)

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どのお話も映画を見ているような感覚になります。

描写が脳にダイレクトに伝わってくるからなのか、内容がそうさせるのか。

脳内で24ものフィルムが鮮明に上映されている

私の場合は何故か白黒映画。(表紙の影響かしら)

若干トラウマになりそうなお話はあるものの、また何度でも見たくなる。クセになる。

これ本当に映像化してくれないかなあと淡い希望を抱いております。

短いから無いかな。じゃあ、ひとつのフィルムに24のお話を断片的な感じでまとめてくれてもいいのにな。

読み終わった今、また読みたいです。

できれば今からでも読み返したいのですが、積読が山のようなので、ここはグッと我慢して、でも必ずいつか再読したいです。

ああ、もうほんとクセになってる……!

 

個人的に好きなお話

24のお話の中で、まあ全部印象に残っているのだけれど、特にこれ好きだなって思うお話を並べます。

『掃除婦のための手引き書』

表題作さすがです。一番、情緒ある映画でした(脳内映画ね)

つまり中でも一番映像化してほしいお話ということです。

掃除婦たちへのアドバイスが載っていて、それもまたおもしろいことを言っているのです。

掃除婦をする日々の中で、失った愛する人を思い出しては想いを馳せて、最後の「わたしはやっと泣く」という一文で、私まで泣きそうになりました。こみ上げました。

ついに愛する人の死を自覚して、やっと泣くことができたのだな。

『今を楽しめ』

コントを見ているみたいでおもしろかったです。

コインランドリーの主のお節介感が最高です。

更年期を迎えた時に、このお話をまた読み返したいです。

『どうにもならない』

アルコール依存症の母に対する息子の言動が親みたいで、逆転していて、息子しっかりしてるなって感心するお話。

母と子のやりとりに生活感と愛があって、読後感が好きです。

『セックス・アピール』

爆発に爆笑しました。

大人の男女っていい意味で単純でおバカさんだなと思いました。

『喪の仕事』

家はいろいろなことを語りかけてくる。本を読むのに似ているのだ。

住人の好きなものや暮らしぶりが読める。たしかに。

思い出もほいほい出てきて、それが家族をまた繋げてくれる。

最後の全てが無くなって静寂だけが残る感じが、人が亡くなったという事実と、そこで生まれる虚無感をぎゅっと凝縮されているように感じて哀愁が漂います。

『さあ土曜日だ』

舞台は刑務所だけれど、快活で和やかな雰囲気……と思いきや。

最後の3行に衝撃が走る。急に独り置いていかれた気分です。

少し文章を戻って、……あ、これってそういうことか、となりました。

唐突なオチに驚いて、状況を理解するのにちょっと時間を要しました

『巣に帰る』

カラスのお話からいつの間にか過去の話に誘われていて、そしてここでも最後の1ページで衝撃を受けました。というか、誘導されていたというか、騙されたというか。

もしもだった。そうだった。

ルシアにまんまと言葉巧みに操られてしまいました。おもしろい。

このもしもも、あのもしもも、結局は起こるはずのなかったことだ。わたしの人生に起こったいいことも悪いことも、すべてなるべくしてそうなったことなのだから

本文P274より

過去を悔やんでも、振り返っても、それはどの道存在しないできごと

こうなるように世界線は決まっているのだから、足掻いたって同じ結果だ

この言葉を聞いて、なんだかホッとしちゃう自分がいます。

後悔しても意味はないし、そんな道はもともと歩く運命ではないと思うと、今までの選択は何も間違っていないんだなと思えます

 

『ドクターH.A.モイニハン』『わたしの騎手』はかなり爪痕残るくらい、衝撃的でした。

 

最後に

全てが映画のワンシーンのような、過激的だけれど華やかさもあるお話たち

一気に読むのはもったいなかったので、次に読む時は1日1篇ずつ、ゆっくりと噛みしめながら読みたいです

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