お気に入り作家さんのひとりである森見さん。
ちょっとずつ全作制覇を目指しており、せっかくならば宵山の時期にと温めていた積読本。
ちなみに宵山とは、祇園祭のメインである山鉾巡行の前夜祭のようなものだそうです。
京都を舞台にしたお話が得意な森見さん。
本作はどんなおもしろい世界なのでしょう!
目次
あらすじ
宵山を舞台に起こる、不思議な怪奇と奇想天外が跋扈する連作短編。
感想
賑やかな宵山が、幻想的でひんやりとした場所に感じる。
ぶわっと鳥肌が立つようなものではなくて、ほどよく涼しくなるくらいの風情ある怪異。
見惚れてしまうような怪異。
かと思えば、森見さんお得意の奇想天外はちゃめちゃで阿呆の、なんでもあり系のお話もあり、そこではニヤニヤしてしまいます。楽しませてくれます。
幻想的で魅惑的な静寂の宵山と
真逆な雰囲気だけれど、全て宵山という同日の出来事で、繋がっているのです。
不思議な感覚だし、おもしろい構成です。
魅惑的な品の良い系の森見ワールドと、阿呆大学生が巻き起こす奇想天外系の森見ワールドを同時に楽しめるというお得な連作短編。
そして京都や宵山への羨望が大きく膨らみ、行きたくてたまらなくなります。
奥州斎川孫太郎虫が何度か登場するので調べてみたら、本文説明通りのムカデ系でしたので、調べる際は閲覧注意です。(まじで青ざめた)
『宵山姉妹』
なんて可愛い姉妹!
特に主人公は、臆病でありながら大好きな姉上を守ろうとする気持ちが健気で可愛いです。
最後のシーンはヒヤッとしましたが、神秘的で、きれいだなんて呑気に思っていました。
神隠しってこうして起こるのかな。
京都という舞台だからか、怖さにも風情が漂います。
ちなみにバレエ教室の休憩時間に抜け出して見つけた奇妙な空間と物は、2・3話目に伏線回収されますよ~!
『宵山金魚』
一番笑わせてくれたお話です。ワクワクとハラハラです。
目まぐるしく変わる展開。その一つ一つが意味不明過ぎて最高です。
あまりのスピードと奇妙さに振り落とされそうでした。皆も気をつけたまえ。
金太郎がずっと睨みを利かせてくるところから、おもしろくなる期待と、笑いをこらえるのに必死でしたよ。
冒頭から乙川という男を魅力的に感じていましたが、読み終えた後は違う意味ですごい男だなと思いました。
スケールが違う。
「一つ聞きたいんだけれども、こんなことをして何の意味があんの?」
「よくぞ訊いてくれた。意味はないね、まったく」
本文P83より
乙川氏、最高かよ。
こんな大掛かりなことをしておいて、意味がないとな。かっこいいではないか!笑
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『宵山劇場』
『宵山金魚』の舞台裏、サイドストーリーです。
あの奇想天外に満ちた世界は、彼らが情熱を燃やして、時に衝突し、血と汗と涙を流して作り上げられたものだったのか!笑(良い感じに言えば)
といっても、しょうもないことで言い争って、とんでもない路線に走って行って、その連続で生み出されたのだから、そりゃ意味不明なものに仕上がるわ……という感じです。逆によく形にできたなという、彼らの執念にニヤニヤしながらも感心。
でも彼らはまぎれもなく、宵山の日のために青春を謳歌していました。
『宵山回廊』
幻想的怪異に戻ります。(頭の切り替えたいへん)
1話目にチラッと登場した柳さんが抱える画伯(叔父)と姪(主人公)のお話です。
叔父がなんだか、様子がおかしいぞ。
なんと宵山に閉じ込められているだと……!
ずっとずっと宵山を繰り返す。叔父は抵抗などしない。むしろ望んでいる。
十五年前の事件に囚われている叔父が、切なくて苦しいです。
柳さんは全てを知っているっぽい。
なぜなのかは次のお話で語られるのです。
『宵山迷宮』
じつは柳さんも、知らぬ間に宵山に閉じ込められて、もがいていたそうで。
この怪異の原因を知っており、解決のために接触をしてきたのは
なんとあの乙川!
乙川何者なんだよ。ただ者ではないことは確か。
それにしても宵山迷宮という怪異、地味に厄介で怖ろしいです。
『宵山万華鏡』
トリを飾るのはなんと、1話目の姉さま!
妹を見失っていた間、彼女は宵山が見せる神秘的でちょっぴり怖いファンタジーワールドを大冒険していたようです。
妹が連れ去られそうになった時に「ついてったらあかんでしょう」と断言するように言ったのは、このことがあったからなのね。
そして森見さんファンとしては、「なーる」という言葉の登場に歓喜。
ここでも、いや、この頃から存在していた言葉なのね。
なーる。
これは若干ネタバレになるかもしれませんが
その映しだす部分を紛失し、『宵山迷宮』で無事回収。取り付けて、宵山をその万華鏡で覗き楽しむという趣向です。たぶん。
最後に
宵山初心者は、ひとりで行動したら危ないぞ。
おもしろさと京都らしい神秘さを兼ね備えた宵山、いとをかし◎
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