本好きの秘密基地

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木挽町のあだ討ち/永井紗耶子

今回は永井紗耶子さんの木挽町のあだ討ち』を紹介します。

第169回直木三十五賞第35回山本周五郎賞を受賞した作品です。

表紙が可愛らしいのにあだ討ちという内容のギャップに惹かれ、当時直木賞ノミネートと聞いていたので手に取りましたが、読み進めている最中に直木賞受賞のお知らせ!

大きな賞をダブル受賞した時代小説、僭越ながら感想を書いていきたいと思います。

 

目次

 

あらすじ

木挽町の芝居小屋の側で、菊之助という若武者による一件の仇討ちがなされた

目撃者は皆、見事な仇討ちだったと評する。

目撃者それぞれに当時の菊之助のことや彼らの生い立ちなどの話を聞いて回り、浮かび上がった真相とは

 

感想

拍手喝采の見事な、立派なあだ討ちでした!

みんなすごい。かっこいい。最高。

恩義や情を感じるけれど、討たねば武士道に反する

この矛盾する葛藤に苦しくなって、悲しくなって、切なくなる。

運命的にこのあだ討ちと関わり、支えることになった人たちの粋な計らいに江戸人情の熱さを感じます

時代小説の魅力的な部分が盛りだくさんに詰まっていて、構成の仕掛けもあっぱれな傑作です。

読み進めれば読み進めるほど、どんどん内容が濃くなっていき、木挽町のあだ討ち」の真相も少しずつ見えてきます。

ただのあだ討ちではないのです。

ミステリー要素があって、私たちは読む前から気持ちいいくらい騙されているのです

そしてこのあだ討ちには、苦しくて切ない経緯が存在していて、討つ側も討たれる側も本心ではお門違いだとわかっている。それでも、自分の意思は差し置いて、定めとなってしまった以上、決行するしか……。

という訳アリなあだ討ち

あなたは私の大切な人を殺めたから、つまり仇だから討つね。

そんな単純なことじゃないのですよ。

かつての優しい下男は何故、父を殺める次第に至ったのか。

仇討をする気のない菊之助は何故、仇討を成すことにしたのか。

下男は何故、江戸に来て人が変わったようになってしまったのか。

死に際の父のご乱心は何だったのか。

真の仇は誰なのか。

こんなにも謎が浮かび上がるのです。

奥の深い木挽町のあだ討ち」の真相が、その場にいた人たちの口から明らかにされていきます

特に第四幕から大きく動くので、油断禁物です。

 

一幕ごとに一緒に語られる目撃者の人生も見どころのひとつです。

様々な種類の感動する人生でグッときます。

それぞれの身分のそれぞれの苦労。芝居小屋に辿り着いた経緯。

身分は違えど、皆辛く苦しい過去を乗り越えてここにいる。

全部胸打たれる感動ですが、特に私は第二幕~第四幕を語る人たちの人生に圧倒されて、目頭を熱くしました。

その中で素敵だったお言葉を少し紹介します。

「私ら町人の道理は、御侍様よりも簡単です。人を傷つけたら謝る。殺生したら地獄に落ちる。あの人殺し野郎は勝手に地獄に落ちる。御侍様が手を下せば、私の理屈で言うならば、御侍様も地獄行きだ」

本文P73より

昔から教えられているシンプルなこと。憎くても勝手に地獄に落ちるようになっているのだから、自分が手を汚すなんて無駄だ

今までそれを忘れていたような気がします。

「御侍様の世は一筋縄では行きますまい。しかし、まずは御身を大切に。腹を満たして笑うこと。それでも割り切れぬ恨みつらみもありましょうが、そいつは仏にお任せするのも、手前どもの処世術というもので」

本文P75より

温かい言葉ですね。

こちらもシンプルなのですが、忘れがちで大事なことです。

仏に任せるという最終手段も理性を保つことにおいて役立ちます

隠亡を下賊の者だって蔑む。そんな風に人を見下す野郎だっていずれ焼かれて骨になるって笑っていれば、俺はどうってことねえ」

本文P105より

威張っている傲慢な人もいつか皆と同じ骨だけになる。

そう思うと、威張っている姿が滑稽に見えてきます。おもしろいおまじないです。

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どの方も個性的で強くて、見どころのある方々で、菊之助たちを思いやっていて、頼れる戦隊ヒーローのような存在です。

彼らがいなければ「木挽町のあだ討ち」は成功しなかったのですから、とても大きい存在です。

 

些細な点ですが、物語の鍵ともいえること。

タイトルはなぜ「仇討」ではなく「あだ討ち」なのか。

それは

討つ決意を固めた矢先に、芝居小屋の方たちがある提案をし、それを実行したからです。

その提案は、菊之助の矛盾する二つの気持ちを両方叶えることができる賢くて平和的な、でも鍛錬や覚悟が必要な作戦

芝居小屋の方たちだからこそ考えつき、実現できる作戦だったのです。

それは徒討作戦

ここで芝居小屋が舞台だった意味が繋がって、それすらも伏線だったという

感動しました。お見事すぎる。

どうにも避けられない苦しい結末だと思っていたのに、心から喜べる展開に運ぶなんて。

さすがプロ。その後も抜かりない。

彼らは日本一の芝居者たちです。

 

いくらこの時代でも人殺しは大罪なのに仇討は無罪なのかと常々疑問に感じていたのですが、国や奉行所に「誰をこういう理由で討つよ」という免状を取って行われるそうです。

役所に届を出す感覚の事務的な感じだったことに驚きと納得です。

宣言したからにはしっかりやれよという厳しさも武士道からくるものなのかしら。

 

最後に

読後の感動がすごくて、一気にブログを書きあげられるほどの熱量。

読んだらあなたもきっと、誰かと熱く語り合いたくなるのではと思います◎

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