今回は森沢明夫さんの『夏美のホタル』を紹介します。
SNSのフォロワーさんが「お気に入りで大切な本」と紹介していた作品で、せっかくならば夏に読もうと企んでいた作品です。
学生さんたちが夏休みに入ったこの時期に相応しい作品。
私もこの物語の世界にて夏休みを感じてまいります!(夏休みがないならば、こうして作るのだ!)
目次
あらすじ
自然溢れる房総へ出かけた彼らは、トイレを借りるため「たけ屋」というお店に入り、そこで素敵な老親子と出会う。
仲良くなり、夏休みの間に離れに住まわせてくれることになった。
夏休みが終わり、離れを去る頃、老親子のどかな暮らしが急変する。
親子の愛情や絆、年齢を越えた友情の絆を、強く熱く描いた感動の物語。
感想
前半まではのほほんとした雰囲気と流れで、ふ~ん、へえ、ほう……といった感じでした。
私もその場に混ざりたいな。楽しそうだな。
と思いながら読み進めていきました。
ただただ癒されて、自分も山へ行って自然の中へ飛び込みたくなる。
後半からは次々と展開があり、ソワソワしながら慎重に読んでいきました。
そうなのです。
後半に物語の見どころというか、すごさがぎゅっと詰まっていたのです。
前半は呆けた顔でページをペラペラめくり、後半に差し掛かったところで険しい顔、時々泣き顔にもなって、ゆっくりとページをめくる。
周囲から見たら「こいつ、後半から急に感情が忙しくなっているな……笑」という感じに見えたであろう。まあ本当にそうなのだから異論はない。
物語の展開が動き出してから最後まで、心を揺さぶってくる上出来なな構成でした。
そう持っていくのか……!感涙
と、何度もサプライズ的感動を味わいました。
読めるようで読めなくて、予想よりも間違いなく最高な展開たち。
特に泣いたのは、あるお方を看取るところです。
苦しくて辛くて、でもおばあちゃんを突き動かした感情(愛情)に感涙。言葉にできない。(小田和正状態)
この場面が個人的感動ピークなのですが、その後も感動する奇跡のような展開にくぎ付けです。
墓前での展開は、読者としては最高のサプライズだったのではないでしょうか。
感動はもちろん、嬉しくてニヤニヤで、こちらまで幸せな気持ちになる。
情景も最高。愛する恩人の前で、そしてその恩人が本当に今そこにいるようにタンポポが佇んでいて、空もきれいで。
きっと、いや絶対、あの穏やかな笑顔で彼らを祝福しているのだろうなと想像できる。
想像したらまた泣けてくる……!
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自然がたくさんの、のどかな風景描写も素敵ですが、登場人物もみなさん魅力的で愛しいです。
ゆったりした優しい口調と穏やかな表情で、誰にでも親切なおじさんとおばあちゃん。
無邪気で元気な子供たち。
不愛想で感じ悪いけれど、情が熱くて根はとても優しい堅物な仏師。
みんながみんなを愛していて温かい。
人との縁の大切さを考えさせられます。
地蔵さんと呼ばれるおじさんは特にすごいお方で、苦難を乗り越えてきたからこその、この穏やかさでもあるのかなと思います。
そんな素敵でチャーミングな地蔵さんの名言をちらっと聞いてくだされ。
「たんぽぽは、いい花だよぅ~省略~花が終わっても、たくさんの命を飛ばせるなんて、なんだか素敵だからよぅ」
本文P67より
冒頭でもこの一節が載るくらい、このお話の一番の言葉です。
この感性を持っている地蔵さんが素敵です!
たんぽぽの魅力が更に深まりました。
「人間ってのは、何かと何かを比べたときに、いつも錯覚を起こすんだってだから、自分と他人をあまり比べない方がいいって」
本文P153より
他人と比べるのは良くないっていうのはよく聞きますが、こんなシンプルな言葉なのにズシンときます。
錯覚のせいか。だからどうしても、自分の方が劣っているように見えちゃうのですね。
こちらは堅物の仏師、雲月さんのお言葉です。
「どんなに器用な人間でもな、成し遂げる前に諦めちゃったら、そいつには才能がなかったってことになる。でもな、最初に肚をくくって命を懸ける覚悟を決めて、成し遂げるまで死に物狂いでやり抜いた奴だけが、後々になって天才って呼ばれるんだぜ」
本文P229・300より
才能や器用さにも勝る武器は覚悟と努力。
雲月さんが言うと説得力があります。やっぱり無謀なことでも努力って大切だ。
最後に
お噂通りの心温まる感動作で、ほっこりしました。
夏休み感ある情景と温かい人たちに癒される良作でした◎
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