今回は恩田陸さんの『七月に流れる花/八月は冷たい城』を紹介します。
タイトルに沿って7月の終わりから8月を跨いで読みたいと思って、楽しみに積読していたお話です♪
ダーク・ファンタジーということで、絶対おもしろいじゃんかと期待値アゲアゲです。
目次
あらすじ
どこか謎めいた夏流(かなし)という町にある夏流城(かなしろ)という古城での林間学校に招かれた選ばれし少年少女。
彼らはなぜ夏流城の林間学校に招かれたのか。
夏流城での謎めいたルールは何のためなのか。
彼らを導く全身緑色の「夏の人」の正体は何なのか。
感想
恩田さんの作品である理瀬シリーズと同じような雰囲気で、不穏な空気と不思議で魅力的な世界に、あっという間に引き込まれました。
何が起こっているのか見えなくて、その得体の知れない何かがジワジワと確かに背後に忍び寄ってくる気配。
怖いけれど、正体や取り巻いている事態を把握したくて、知りたいという好奇心が勝ります。
全身緑色の「夏の人」や夏流城の正体。
夏流城での謎めいたルール。
突如姿を消した少女の行方。
男子側の城で勃発する怖ろしい事件の数々。
結末までずっと、たくさんの予想できない謎に包囲されて、魅惑的な世界です。
さらに読みやすくてきれいな文章で誘われるのだから、ぐんぐん読み進められます。
読了して感じた印象は、帯やあらすじそのままです。
超ダーク・ファンタジーでした。
男子側のお話となる『八月は冷たい城』は、それに加えてミステリー感が強くありました。
読みやすく、中学生の子供たちが主要人物なので、お話にどこか易しい部分があるのではと思いがちなのですが
真っ黒です。
どこまでも残酷で生々しさも感じる世界でした。
「夏の人」と皆に呼ばれている「みどりおとこ」の存在と夏流城の存在がファンタジー味を強くしていて、残酷具合も容赦なくこの存在たちが一層強くさせています。
怖ろしさや残酷さを演出する設定がこれら以外にもうひとつ。
このお話(世界)の核ともいえるある病気のパンデミックがコロナ禍を想起させて、下手したら今頃、現実もこの世界と同じことになっていた可能性があるよなとゾッとさせられます。
まぎれもなくこれはファンタジーなのだけれど、コロナ禍を経た今、他人事とは思えなくて若干リアルです……。
先ほども触れましたが、ミステリー要素もあります。
この謎めいた不穏な世界だけでも引き込まれるのにね。ミステリーも置くなんて最高な環境! 贅沢~!! (静かに舞い上がっておりました)
犯人も意図も全くわからなくて、明かされた時は、これまた悲痛なもので、どこまでも残酷なお話だなと感じました。
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『七月に流れる花』
こちらは女子側の夏流城。
この町のこと、夏の人のこと、夏流城のことなど、何もかも知らない主人公は、読者の私たちと同じ「無知」というハンデを持ったままこの世界に放り込まれます。
同じ目線や同じ違和感を彼女と共有しながらページをめくるので、とっても読みやすいです。
しかし、その無知ということがどんなに怖ろしいことか。
今、自分の周囲で何が起こっているのか理解できない。
すなわち、得体が知れない物事だらけで怖い。
違和感ばかりを感じて、その正体が掴めなくて怖い。
そんな状況下で何日も過ごすなんて気がおかしくなりそうです。
さらにさらに、自分以外のみんなは全て知っていて、それを隠されている実感も感じてしまう疎外感。
知らない何かを隠されることって気味が悪い上に孤独な気持ちにもなる。
居心地が悪いし、みんな信用できなくなる。
でも最後に全てを知ることができて、そのことで彼女がひとまわり成長したような、一皮むけたような印象になって、酷なお話ではありましたが少しスッキリした結末でした。
『八月は冷たい城』
七月とは違って冒頭から不穏。
急にサスペンスミステリーに舵を切ったのかと思うくらいガラッと雰囲気が変わりました。(でも同じ世界なんだな)
大体定まっていた夏の人の印象や正体が揺らぎます。
え、何を企んでいるの? もしかして人間ではなくなってしまったの?
何者なの……!? (怯え)
若干ホラーです。
夏の人の正体が白紙に戻されてしまって、得体が知れなくて、怖い。
それはさておき(置いておけないよという苦情はお断りします)
終盤の怒涛の展開で、今までの不穏な事件が種明かしされていきます。(急な舵切り)
犯人は君かよ~。人騒がせだな~。
と思いつつも、彼の気持ちを考えると正気でいる方が無理だよなとも思います。
こうなるという現実を知っていても、心の準備があろうと、こんな現実は受け入れられないし、受け入れたくないですよ。ましてや、彼らはまだ中学生だぞ。大人の私でも受け入れたくない酷すぎる現実だよ……。
夏の人が最後にまた口にする言葉も、主人公に現実(事実)の追い打ちをかけてきてことごとく残酷だけれど、そこがまた物語の凄さを一段と凄くさせているように思い、大事な一幕。
冒頭の4輪のひまわりは、彼らへの生きるための鼓舞と捉えると、こんな世界にも光は差すのだなと少しほっこりします。
最後に
想像以上に容赦ない重いひと夏でしたが、読み応えばっちりでお気に入りです◎
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