今回は千早茜さんの『人形たちの白昼夢』を紹介します。
ジャケ買いです。
タイトルもかっこいい。
人形たちは、静かにいろんな世界を見てきているという感じなのかな?
ではでは、人形たちが見てきた白昼夢を覗かせていただこう。
目次
あらすじ
人形たちが見てきた様々な世界の、美しく、時に残酷な出来事を集めた12のお話。
感想
思いもよらず、良作すぎてテンションがあがりました。読み応えがありすぎる。
あまり有名な一冊ではなかったので油断していた。
なにこれ、おもしろいし毎話感動する。
だけれど、どれにも不穏と残酷も鎮座している。
詩的、上品、そしてうっとりする。
けれど世界の厳しさも教えてくれる。
そんなおとぎ話の詰め合わせという感じでした。
『モンデンキント』はおとぎ話ではなく紡ぐ側ですが。
人形と青いリボンが繋いでいくおとぎ話。
この2つのキーワードを各お話の中から見つけるのも醍醐味かと思います。
いつも短編集は、特にこれがおもしろいな〜というように選べるのですが、捨て話が全くない。
全部語りたいので、早速1話ごとの感想へ!
『コットンパール』
正反対の2人。
彼女は嘘をつくみたいだけれど、あながち嘘ではなかったりして、と期待しています。私は。
そうだったら面白い。
そうでなくても面白いけれど。
それにしても彼女は魅力的、いや魅惑的。
『プッタネスカ』
重いお話だけれど、魅惑的で、すぐにこの世界に引き込まれました。
ファンタジーの、こういう設定の街なのか国なのか、とにかくこういうの好みです。
陰で生きる女の強かさと儚さ。
説得力があって、かっこよくて、でも切ない。
『スヴニール』
きれいで美味しそうで、心がじんわりと温かくなって満たされるお話でした。
千早さんの得意とする食べ物の描写が余すことなく披露されていて、知らない不思議な料理なのに、輝いて見えて、そして私も味わっているような感覚になる。
それに加えて、料理を機にジワジワと蘇る記憶と、スヴニールへ招待した(招待ではないけれど)人の招待への繋がり。
グッときちゃった。
日々に疲れている人には効果抜群そうです。
『リューズ』
一見ホラーなのだけれど、イッツアスモールワールドやトイストーリーの一場面を彷彿とさせるようなシーンが最後に出てきて、やっぱり幻想的。
そして戦争の怖ろしさも伝わってきて、殺めることや傷つけることの罪深さを感じずにはいられません。
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『ビースト』
もののけ姫のような世界感。
でも神話のような静けさ。
とっても悲しくて切ない、怒りさえ感じる結末なのに、それでも残酷なまでに美しい。
自然を壊す、自然に手を出すということは、取り返しのつかない程の何百倍もの仕打ちが返ってくるということ。
人間の欲に目が眩んだ末の行動はどんな世界でも残酷なものです。
『モノクローム』
男だけが希望を最後まで待ち続けていて、思想もかっこよかったです。
男がいたから、言葉と文字を魔法の武器にして戦ってくれたから、他の人たちも正気を取り戻していった。
それが彼らにとって幸か不幸かは、それぞれ。
でも、とにかくかっこよかった。
この洗脳された異様な、小さな箱庭をぶち壊した勇者だ。
『アイズ』
2人の会話には、ハッとさせられます。
「ぼくらのかたちに枠はいらない。どんな言葉もいらない。言葉を知る前に、ぼくはまるのいる世界を知っていたんだから、言葉なんて追いつかないよ」
本文P133より
友だちだとか、恋人だとか、家族だとか、仲間だとか。
相手との関係を自然と枠に当てはめてしまう。
なんでもいいじゃないって言えるなんて、かっこいいな。
私はどうしても、曖昧が苦手だから。
どうしても、相手との関係を明確に言葉として表したくなるし、表してほしくなる。
ほんと、どんなんでもいいのに。
そんなことを思い知らされたのだけれど、最後は急に寂しい終わり方。
え、まじかよ。(つらい……!)
な、終わり方。やはり単純には終わらないのね……!最高オブ最高である。
『ワンフォーミー・ワンフォーユー』
最高すぎて最後うるうる……!(感涙)
幸せな時間も、最悪の事態も、全部含めて愛してるって感じ。
2人の親愛が強すぎて、濃密なドラマを観た後のような胸の満腹感。
ワンフォーミー・ワンフォーポットの「ポット」を「ユー」と呼んでくれるなんて、そりゃ愛しちゃうし、敬いたくなる。
いつかは別れる時が来るのは仕方ないでけれど、ポットの最後のお願いの切実な感じが、もう、しんどい無理泣いちゃう……!
愚かなことと仰せですが、気持ちすごくわかります、ポットさん……!!
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『マンダリン』
今までとは違う雰囲気のお話に戸惑いました。
拷問系なので、なかなかグロい描写が丁寧に紡がれていて……。
でも、あれだな、『デモナータ』を思い出しました。中学生の頃ハマっていたダレン・シャン作の。(これはたしか悪魔のお話です)
そこで最後に雰囲気が一変。
なんだか悲しく切ない。
彼にとっては、何を選択しても失うという自分の性質が拷問みたいなもの。
どこか孤独のよくな寂しさを感じる最後でした。
『ロゼット』
切ない……!
少女が亡くなったことも、その後の男の狂気も、愛がないという現実も。
それなのに美しく感じます。
『リューズ』と同じ世界線なのかな。時計職人で、殺戮人形が出てくる。
時系列でいえば、こちらのお話が先っぽい。
少女の代わりは、何を作っても埋められないことに気づいた絶望感が最後のシーンですごく伝わって、胸が痛いです。
そして戦争の惨さ卑劣さを、また目の当たりにした気分です。
『モンデンキント』
作家になった理由が尊い……!
初恋は色褪せないですね。ずっと甘酸っぱい。
すっごく切なくて、悔しいけれど、素敵な初恋じゃないのさ。
中学時代って異性と仲良くしているだけで、勝手にそういう仲だと決めつけられますよね。わかる。
さらに面白がって、ありもしない下品な噂を流されるし。
そのせいで、友人関係が無くなってしまうことも。
冷静に考えたら、これ、かなり酷いことだと思うんです。
無責任に冷やかして、どちらかがそれを気にするから仲良くできなくなる。
2人の仲を割いてしまっているんだもの。
友情を壊しているんだもの。
この歳のこういうのは仕方ないのかもしれないけれど、そういうお年頃なんだけれども、残酷だなと思ってしまいます。(話が逸れていく)
でもやっぱり、りっちゃんの好きな子は翠ちゃんだったという事実と
姿を消しても、2人だけの暗号で、気持ちと贈り物を隠して届ける粋な計らい
さいっこうでした!(ごちそうさまです♡)
2人がお互いを信じているから成立する術でもありますね。信じるって大事。
『ブラックドレス』
この一冊を締めくくるに相応しい詩でした。
終わりのようで、でもこれからもまた続きがあるような、期待をメラメラと残す言葉。
人形たちが見せてくれた物語たち、どれも素晴らしかったです。
最後に
短編なのに、人形の見てきた世界に入り込んでしまうくらい魅力的な世界でした◎