今回は町田康さんの『猫のエルは』を紹介します。
ヒグチユウコさんのイラストに一目惚れ。
そしてあの『告白』という大作の作者さんではないか!
あの雰囲気でねこのお話とは、想像がつかない。気になる。
というわけで、今作はボリュームも可愛らしいので読んでみることに。
目次
あらすじ
猫がテーマの、リアルさとかわいさ、おもしろさが備わった5編。
感想
『告白』は時代物だったから、難しい言葉が多かったのかな? と思っていましたが、町田康さんのスタイルだったみたいです。
内容題材が全然違うのに、独特な文章で『告白』を思い出して懐かしくなりました。(ちなみにこちら大作傑作でした)
その独特な難しめの言葉や言い回しを動物が話しているのだから、なんだかおかしくて面白い。
このクセのある世界観が、やみつきになります。
アニメになったらもっとおもしろい気がします。
町田康さんは猫さんがお好きなのか、何作か猫関連の本が出ています。
なので猫の描写がリアル。
小説などによく登場するファンタジーで人間みたいな所作をする猫じゃなくて、私たちが現実に愛でる猫そのもの。
そういうのも物語としては新鮮で、猫好きにはたまらない一冊なのではと思います。
ヒグチユウコさんの絵も、もちろん最高。
しかもしかも、挿絵まで全てフルカラーという豪華仕様!
お話だけでなく、絵にもニヤニヤが止まりませぬ。
『諧和会議』
諧和とは、協調、調和という意味です。
その名の通り参加者は協調しながら平和な会議をします。
猫以外は。
猫がね、もうそのまんま猫なんですよ。
さすが町田康さんだ。猫を熟知していらっしゃる。
描写が上手なので簡単に頭にリアルな猫の様子が描ける。
このマイペースな感じ、何を考えているか分からない感じ。
そんな猫に他の動物たちは振り回されるのです。
おもしろいほどに振り回されるのです。
人間も猫に振り回されているのに、その他動物も猫のそんな姿に「かわいいな♡」と思っちゃう。
猫以外は皆ドMなのかな? とか考えたり。
他の動物たちも、難しい事を言っているように聞こえるけれど、自虐ネタやギャグ、ダジャレなどなど茶目っ気たっぷり。
でも、たまに自然の摂理がサラッと起きて、いくら諧和社会でもこの世界は弱肉強食だもんね……と現実を突きつけられます。
微笑ましいんだか、残酷なんだか。
このお話の顛末には痺れました。
諧和会議をしている動物たちではなく、猫の方が一枚上手だったという……!
言葉は諧和だけをもたらすと思っている彼らは、まだまだ浅いということ。
言葉は諧和をもたらすだけではないということ。
彼らが使っている言葉は全てではなく、他にもたくさんあるのに、得意げに言葉を使っている。
そんな彼らの姿が、猫には滑稽に見えたのかもしれません。
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『猫とねずみのともぐらし』
な、なんてかわいいお話なの……!
『諧和会議』とは打って変わって、童話のような、そしてクスッとなる微笑ましいお話でした。
なーる。だから猫はねずみを追っかけるのですな!笑
かわいい2匹。愛おしい。
そして見かけや先入観が頼りにならないことも、よーく理解しました。
でもマリア様の一言は、ギャップなのか、絶妙なタイミングだからか、一番笑っちゃう。
『ココア』
猫と人間が逆転する世界。
恐ろしいことばかりでした。
つまり野良猫の日常は危険と死が隣り合わせということ。
野良猫の擬似体験、いや体験を読んで、猫は好きだけれど一層大事に接さなければと思いました。
逆転世界で、飼っていた猫に救われて、その猫は命をかけてまで守ろうとしてくれる。
ちょっと感動して泣きそうでした。
『猫のエルは』
素敵だった……泣
すっごく短い、詩のような作品でしたが、エルの存在を圧倒的に愛して、尊重しているのが伝わってきます。愛がすごいです。
冒頭では、エルは猫なんでしょ? なんで猫はいないって言うの?? と思いましたが、「それ以前にエルである」という言葉に、疑問を持った自分を恥じました。
そうよね、エルはエルだよね。
エルという、愛おしい存在だよね。
猫のエルは生きてるだけで儲け
本文P93より
エルは奇跡を起こして、すごいことを成し遂げて、だから何をしていても良い
も、もちろんそうだけれど
単純に生きているだけで良いと思える気持ちって、愛が溢れていて、幸せで、尊い感情だなと思うのでした。
私も実家の犬猫にそう思うし、家族や友人にも思う。大事で大好きな人には、そう思います。
『とりあえずこのままいこう』
奇跡的で感動する……と思いきや、おお、そうなるか。
なんだか切ないけれど、とりあえずこのままいこうと思えるなら、そんなダメージないのかな。
なにはともあれ、生まれ変わる前の犬の
そしてそのとき家の人は、「生まれ変わって戻ってこい」と言った。「戻ってこい」と言われれば私はなにをしていても戻った。だから私は戻る。
本文P100より
という気持ちは、かっこよくて感動しました。
どこまでも従順なのね……!泣
生まれ変わりのしくみがおもしろいのですが、犬と猫の違いもおもしろかったです。
同じ魂でも、同じ気持ちを持っていても、やっぱり感じる世界が変わるからか、猫らしい思考になる。
猫は好きなところにピョンと行けて器用だから、人間に頼らずとも自分でできちゃうから、従順ではないマイペースな生き物になるのですね。
おもしろい。
最後に
可愛いもあったけれど、現実の痛いところも突いてくる。
予想外な雰囲気でしたが、だからこそおもしろいお話でした◎