本好きの秘密基地

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微笑む人/貫井徳郎

今回は貫井徳郎さんの『微笑む人』を紹介します。

お久しぶりです貫井さん。

表紙がもう不気味!(表紙の人に失礼)

絶対不穏だ。微笑みながら人を殺めちゃうやつだ!(先走り)

じつはこちら2020年にドラマ化されていたそうです。見たかった……。

 

目次

 

あらすじ

本を置く場所がなくなり、その場所を確保するために妻子を殺したと供述する容疑者。

理解し難い動機とは裏腹に、周囲が語る彼の印象は好印象なものばかりで、同一人物とは思えないほど。

さらに彼の周囲で謎の死や事故死があったことが次々と発覚し、証拠はないものの、偶然にしては怪しい。

容疑者・仁藤俊美は一体どんな人物なのか。

 

感想

このお話の容疑者となった仁藤の印象が章ごとに目まぐるしく変化していき、余計にわからなくなりました

良い意味で振り回されて迷子になる。調べが進むにつれて、逆に定まらない

じらされて、じらされて、気になって読み進めたのに、沼にはまったように抜け出せない

人間ってわからないなと、改めて思いました。

どんなに善人に見えても、それはその人の全てではない。それなのに、あの人は良い人だと知ったような気になって疑わない

人間誰しも裏があると、何度となく思い知らされても、性懲りなく、良い人はどこまでも良い人だと信じて疑わない。そう思いたいのかもしれないけれど。

とにかく他人の全ての面を知る人なんでいないのです。親しい間柄でも知らない面はあるし、おそらく自分自身もわかっていない面がある。

人間の心理や性質って、思っている以上に相当奥深くてデンジャラスだなと、このお話を読んで痛感しております。

 

前半は仁藤の良さが全開のインタビュー内容ばかりで、私も彼がこんなことをする人とは思えなくなり、嘘の供述をさせられているのではと感じました。

一度少し彼の怖いエピソードが出ましたが、たまたまでしょ、聞き間違えたんじゃないのかと思ってしまうほど、私も仁藤という人間に信頼してしまい、肩入れしていました(こういう単純な思考、危ないぞ自分)

あまりにも不可解な動機なので、過去に人格を歪めてしまった何かがあったのでは……と犯罪心理に詳しい方なら考えます。

ということで、仁藤の過去を遡っていくのですが、そこでやっと、彼の意味深な暗黒面が見えてきて、今までの印象との落差に混乱し、ゾッとし、でも彼のことをもっと知りたい好奇心も膨れ上がっていきました

あなたの本当の顔はどれなのよ? 全部あなたなの? (おそらく全部あなたですよね)

じつに興味深い。でもさらに遡って小学生の頃となると、また違った印象が。

当時を一番知っている同級生のお話を聞いて、いろんな感情になって感極まるも

その感情はぶち壊されます。

完全に心を持て遊ばされてしまった私……泣

なんとその同級生、とんでもないことをやらかしてくれまして、またまた混乱です

感動を返してくれ。

そんなこんなで(説明の手抜き)、仁藤という人物は余計に謎めいてしまい、現時点では誰も彼の内を理解できなくなり、ある意味伝説の男となるのでした(なっていません)

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仁藤という男に振り回されることになったのは、不可解な動機だったからというだけではありません

なんと彼は妻子殺害以前にも人を殺めていたかもしれないという疑惑が次々と浮上したのです。

どの事件も証拠はないし、動機も「そんなことで殺めるかしら?」というような些細なものと推測されるのですが、あの動機で妻子に手を下した彼ならばあり得るし、被害者との接点もある。そしてもし過去の事件の数々が本当に仁藤の仕業なのであれば、とても計画的で計算高いのです

彼の仕業かわからないけれど、そう思えてならない。恐るべし。

絶対に敵に回したくないけれど、ちょっとしたことや無自覚のうちに敵に回っちゃうのだから気をつけようもないです。

まあ、そもそも全て仁藤の仕業かどうかははっきりしていないので冤罪の可能性もあるのですが。

冷静になってみると、このお話もそうだし実際の事件でも、メディアや周囲の言葉や情報だけで、この人は悪だって決め付けてしまっているなと気づきます。

反省。色眼鏡を外さねば。

でもやっぱり、見聞きしたことを真に受けちゃうのよね……笑

 

先ほどもチラッと書きましたが、このお話は真相がわからないまま幕を閉じていきます。事件のことも、仁藤のことも。

もちろん解決篇がないまま、謎は謎のままなのですから、モヤモヤな読後感です

でも私は、これはこれでおもしろいし、考察し甲斐があるし、むしろこのモヤモヤこそが、このお話に大きな意味をもたらしているのではと思います。

このモヤモヤな読後感こそが仁藤の気味悪さを存分に際立たせていると思うのです。

そして貫井さんは、このラストに他人のことを全部知ろうなんて無理だし、その行為は傲慢でもあるのだという意味を込めているのかなと、勝手に受け取りました。(違っていたらごめんよ)

 

最後に

人間の心理や印象の落差がこんなにも混乱を招くのか。楽しかったです。

興味深くて考えさせられるお話でした◎

 

さてさて、次回はついにニードルとの企画『本好きのタイマン』の第1回を!

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