本好きの秘密基地

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時計泥棒と悪人たち/夕木春央

今回は夕木春央さんの『時計泥棒と悪人たち』を紹介します。

2023年本屋大賞ノミネート『方舟』がおもしろかったので、夕木さん新刊のこちらも読んでみたくなりました。

タイトルと表紙の雰囲気から、おもしろそうな予感が漂っています。

そして『方舟』よりはマイルドそう。

しかしですね、単行本で辞書並みの厚さなので(523ページなのですが紙質のせいで厚く見えるのかしら)、読書中ちょっと腕がしんどくなりそうです。笑

 

目次

 

あらすじ

画家の井口と、その友人で泥棒の前科がある蓮野。

二人が関わる先で起きる不可解な難事件を名探偵並みに推理していく連作七編

 

感想

全話もれなく難解事件です

毎度のことですが、見破れなかったです。レベルが高いなあ。

ほとんどのお話の真相が特殊で、そんな可能性を考えつかなくて、ミステリーはまだまだ可能性が深いのだなと感じ、このド派手ミステリーを楽しませてもらいました

この時代だからこそできるド派手さなのかしら。

ミステリーに常識なんてありませんが、今までの概念を越える感じで、予測不能のおもしろさです。

今度は何をしてくれるのだろうか……という期待をしながら次々と読み進めちゃいました。

 

お話の舞台がロシア革命後、つまり大正時代なので、レトロな雰囲気が素敵です

外国の漢字表記とか、文書の言葉遣いとか。

大富豪や華族とか、建造物や船とか。

設定が大正ロマン漂いまくりで最高です

 

泥棒に転職した前科を持ちながらも、名探偵級の推理を涼しい顔で難なくこなしてしまう蓮野

人嫌いだけれども、頭脳明晰で無駄もない。

空気を瞬時に読むし、気遣いもできる。

こんな魅力的キャラが終始登場してくれるとは……!

今ではもう蓮野ファンです。

おかげでちょっと井口が霞んでしまうのですが、彼も頑張っています(雑だな)

事件を持ってくるの井口だしね。(それってトラブルメーカーでは?)

 

私の好きなお話は『晴海氏の外国手紙』です。

この読後感は予想外でした。

 

『加右衛門氏の美術館』

さすが大富豪。発想がすごい。スケールが違う

財力があるからこそ考えつく大胆な発想で、そりゃ見破れないわけだ。(財力があろうが思いつくまい)

加右衛門の行動、美術館の造りや配置などに些細な疑問はたくさんあって、それがしっかりした意味を持つことは察しがつくけれど、何がしたいのかは全く見当つきませんでした

この時代らしいド派手な計画に、少し余韻に浸ったりして。

 

『悪人一家の密室』

動機が怖ろしすぎる……!

そんなことで。人を。殺めてしまえるの……。

もう道具扱いじゃないのよ。

さすが悪人一家の血筋。命を軽んじているわ。

このお話の教訓は善人だからって狙われないとは限らないということですね。(教訓なのか……?)

人間の心理ってわからないですね。単純じゃないですね。

主人公も自分の悪癖のおかげで命拾いしたわけです。

悪癖のおかげで標的にならずに済んだのです。

もしその悪癖が一家に知られていなかったらと思うとゾッとします。

事件よりも動機に衝撃を受けるお話でした

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『誘拐と大雪 誘拐の章』

「章」とあるように二本立てです。前編です

要求がちょっぴり不可解な誘拐事件

あえてお金をすぐに動かせない時間帯を狙って交渉した意図はなんなのか。

だって、お金が欲しいなら矛盾しているでしょうよ。

そう。これはお金目当てではなく、大ごとにせずにあるものを取り返すために起こされた事件なのです。

でもそれを何故取り返したいのか

犯人と娘さんの居場所はどこなのか。

その謎をあのナイスコンビが危険を冒しながら探っていきます

ここでも蓮野はすこぶる冴えていて、かっこいいです。

 

『誘拐と大雪 大雪の章』

誘拐事件の後編は、先ほどの謎に加えて新たな事件が発生

謎を解明するために動いたのに、また違う謎に頭を抱えなければならないの

新たなる事件は、密室ではないけれど、状況証拠的にそれに近い状況です。

娘さんしか成しえない。でも彼女が実行するとも思えない。

娘さんに罪をなすりつけるトリックの種明かしを知り、真犯人なかなか賢いではないかと感心してしまいます。

ここで、前編でも謎であったあるものを製造していた理由も明らかになり、そういう使い方があったか……! と拍子抜け。

あの背徳感は気のせいでもなんでもなく、今になって本物になりました

 

『晴海氏の外国手紙』

外国から亡き妻宛に手紙が届くのですが、夫である彼には身に覚えがない。

生前の妻は何かしら秘密を隠していたのでは……?

その秘密は、夫婦の一風変わった結婚の馴れ初めが関係していたのですが

めちゃくちゃややこしい!笑

家柄や経営の関係で結婚することはよく聞きます。

でも晴海氏、なんか

コンプリートしてるじゃん! (人生RPGか!)

まあ、そうなっちゃったのも、のっぴきならない事情があったのだけれども

そんなこんなで、妻の秘密は判明したのですが

壮大で、かっこよくて、感動的な秘密だったんです。

人生を捧げて大仕事を成し遂げたことに、彼女たちの人生に拍手を送りたいです

夕木さん、感動ミステリーも描けるとは。しかも完成度高め。

グッときました。尊い秘密に乾杯。

 

『光川丸の妖しい晩餐』

クローズドサークルです。(『方舟』再来か!?)

殺人鬼がこの中にいるとわかっているのに、逃げられない。

みんな怪しいし、ドキドキです。

さっきのお話とは全然温度が違って、温度差のせいで余計にドキドキです

いろいろムゴいので、悲鳴が上がるタイプのお話です。気をつけて。

そして、他のお話にもチラッと登場する連続殺人事件も、ここでついに絡んできます。

そしてまた一段と蓮野が男前になっている。(結局そこなのです)

 

『宝石泥棒と置時計』

最後にして、なんと振り出しに戻ります

あの置時計は、まだ一件落着ではなかったのですよ。(計画に気を取られて忘れてた)

ルビーだけを集める宝石泥棒

ルビーに執着し過ぎていて、それがわかりやすくて、おもしろい泥棒さんだなと思っちゃいましたね。

置時計にもルビーが装飾されていたので盗まれちゃったんです。

どのルビー盗難事件も荒らされた形跡無しで、まっすぐに在処に直行したっぽい

なぜそこにルビーがあると知っているのか

そんなにルビーが好きなのか

真相は意外にもマヌケなもので、可愛らしかったです。

泥棒だから可愛いだけじゃ許されないけれどね。

 

最後に

自分で推理を予想できないくらいに隙がなく難解でしたが、それがおもしろいのです。

きれいに騙されて驚かせてくれるお話たちでした◎

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