今回は森博嗣さんの『ムカシ×ムカシ』を紹介します。
またまたご無沙汰になってしまったXシリーズ。
河童のレトロ可愛い表紙。そして帯の言葉で、好奇心がくすぐられます。
小川×真鍋コンビのやりとりも絶好調だといいな〜。
目次
あらすじ
大正時代の女流作家を先祖に持つ資産家夫婦が何者かによって殺害された。
その後、捜査中に次々とその一家の者たちが殺害されていく。
犯人、動機はなんなのか。
それともこれは一家の古井戸に伝わる河童の祟りか。
Xシリーズ第4弾の開幕。
感想
虚しくて切ない読後感でした。
犯人の儚さがググっと押し寄せる。
犯行動機も、やるせなさや虚しさを感じて、小川がターゲットになりかねなかった怖ろしさに鳥肌が立つと同時に、犯人に同情もしてしまいます。
まさに、血がそうさせた。
秘密を知ってしまったが最後という怖ろしさと、秘密を知る者を消さずにはいられなかった犯人の儚さという異なった複数の感情が入り混じって、胸がしめつけられる不思議な読後感を味わいました。
自分の唯一の強み、自分をここまで支えてきた思い込みが、じつはそうでなかった。
それを知った瞬間の絶望感は想像を絶するものなのだろうな。
これから何を支えに、何のために、何をして生きていったらいいのか。
大事な心の支えや自信を失ったのだから、切羽詰まって思考は狂気じみた方向へ走ってしまう。
そうだ。認めなければいい。この秘密を知る人をこの世から排除すれば、それは自分の思い込みひとつで事実にできる。
きっとそう考えたのでしょうね。
その瞬間の犯人を想像すると、本当に胸が痛みます。
そして犯人の最後の行動に情緒を感じて、儚さがが最高潮に達するのでした。
トリックはわからないまま終わってしまったので、若干モヤモヤしますが、それもまたこの犯人の儚さを引き立たせるためなのかなと思うと、それはそれで良き。
女流作家の家という設定なので、樋口一葉の作品引用が作中各章に載っていて、お話の中でも度々登場します。
樋口一葉が特別好きというわけではありませんが、なんだか嬉しいです。
樋口一葉の生涯とかがお話に出てきて、樋口一葉の作品も読んでみたくなります。
河童のことも度々お話に出てきて、それもおもしろいです。
河童が妖怪なのは知っていたけれど、何をする妖怪なのかは知らなかったのでびっくりです。
かわいいものだと思っていたけれど、河童、ちゃんと怖い妖怪でした。
事件でも河童になぞらえたアレコレがあって、事件の謎を深めると同時におもしろかったです。
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タイトルにあるREMINISCENCE(レミニセンス)という言葉は「回想」「時が経つほど思い出すこと」だそうです。
今回、小川が以前のパートナーを思い起こして感傷的になるシーンが出てきます。
たぶん、自分の気持ちは、以前のパートナーを椙田に重ねて見ている結果なのだ。
本文P303より
この文が、レミニセンスの入り口です。
好きな音楽は、ずっと同じもので、思い出すシーンも、ただ一つで、その失われた一番大切なものが、今も一番大切だと思っているのだった。もしかしたら、失っていないのではないか、と思えるほどに。
本文P304より
すっごく共感。
あります、こういうこと。いつまで経っても忘れられなくて、なんならどんどん色濃くなっていく思い出。
私の初恋、まさにこれです。(お恥ずかしい)
小川×真鍋のやりとりも、相変わらずゆるゆるで、コントみたいで、テンポ良くておもしろかったです。今回も楽しませていただきました。
真鍋の辛辣な発言が、皮肉の中に愛があるので、相変わらずの仲良しなんだな~と温かい気持ちになります。普通におもしろいところを衝いてくるし。
それを受ける小川も、だんだんメンタルが強くなってきているのか上手に交わすのだけれど、強がりを見せるところがまた可愛くもおもしろいのです。
そして永田さんがレギュラーメンバー入りするのかな、これから。
永田さんが加入したことで、やりとりが更におもしろくなっていました。
真鍋の恋愛に対する鈍感さもかわいいです。
今後、2人の関係は更新されていくのかしら……?
探偵の立ち位置についての議論がおもしろくて納得したので、こちらに紹介しますね。
「実在する人物で、名探偵っていう人、誰かいる? 歴史上の人物で、そういう人って、ただの一人もいないよね。大泥棒とかならいるのに……。だから、なんていうか、名探偵という人物が出てくるだけで、もうリアリティがないんだよね。現実離れしすぎているわけ。名探偵が登場したら、もうSFだよ」
本文P226より
言われてみれば、名探偵って推理小説やマンガアニメでしか存在がないですね。
明智小五郎とかコナンくんとか。(江戸川乱歩作品読みたくなってきた)
SFという表現が妙にしっくりきて、クスッと笑ってしまうのでした。
最後に
歴史ある大豪邸に河童の言い伝え。
設定に好奇心がくすぐられて、派手なお話かと思ったら、読後は予想外の感情になり、予測不能な小説のおもしろさを再認識しました◎
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