今回は一穂ミチさんの『光のとこにいてね』を紹介します。
第168回直木賞候補作、2023年第20回本屋大賞ノミネート作です。
キラキラしたタイトルが素敵で、そのタイトルが可愛らしくもあり、温かくもあり。
表紙の印象だけで、中身も知らないのに心がほっこりする不思議。
この時点で大作の貫禄が溢れ出ているのですが、やはりちゃんと読んでから、それを改めて断言したい。
丁寧に丁寧に読んでいきたい。そう思わされる表紙をいざ、めくっていきます!
目次
あらすじ
正反対の2人の少女が、大人の事情に振り回されながら、唐突な出会いと別れを繰り返していく。
別れても、また別れても再会を夢見る、忘れることのできない友だち。
それぞれの環境と成長を感じながら、変わらずお互いを愛する彼女たちの大きな愛の物語。
感想
彼女たちも、その2人の運命も、切なく、愛おしくて尊い。
2人を引き裂いては繋げる運命が、胸が痛いくらい苦しいのに、愛おしい気持ちが充満する物語です。
胸が熱くなる。痛くて熱いのか、愛おしくて熱いのか、もはやわからない。
ひどい別れ方をさせておいて、忘れた頃に(忘れてないけれど)引き合わせる運命の神様、あんまりだよ。振り回し過ぎだよ。
どうしたいのよ……!
と感情的になってしまいます。再会は嬉しいんだけれど。
でもこれがこのお話の醍醐味なので文句はないです。(どっちだよ)
このお話を読む中で『光のとこにいてね』というタイトルが秀逸だなと何度思ったことか。
この言葉が2人の運命のキーワードになっていて、その時の状況で意味合いは変わるものの、「光のとこにいてね」が出る度に、来たぞという気持ちと、言わないで……という気持ちが渦を巻きました。
本当に、この言葉をタイトルに持ってきたのはセンスが光る。眩しい。
※ここからはネタバレ要素に触れています。盛大なネタバレではありませんがお気をつけください!
2人が出会って別れるまでの一連を第一章から第三章に分けてお話が進行していきます。
私は第一章のお話が好きです。
大人の事情が不穏に謎めいていてゾワゾワする中で、2人も大人たちには秘密の関係を築いて、支え合って、限られた短い時間を一緒に過ごす。
大人の事情が怖そうだけれど気になるし、コソコソ遊ぶ2人の関係にスリルがあってドキドキするし、果遠の家庭も謎めいているし。
ハラハラドキドキ要素が満載です。
そしてまだ小学二年生の彼女たちが、お互いの家庭事情を知らないフラットな状態で、探り合いながらでも確かに交友を深めていく様子や、自分と正反対なお互いを尊敬したり助けようとする様子が素敵です。
大人にはできない関係の築き方。
そして、もうそこには既に友情を超えて愛情が芽生えてきていて、2人の関係が普通の友情とは比べ物にならない特別なものであることが、ひしひしと伝わってきます。
お互いを支えにしてきた2人の密会は、唐突にあっけなく終わりが訪れて、苦しかったです。
お別れを惜しむ時間も与えられず、お別れの言葉も言えず。
このお話の中で、子どもの無力さを今までも感じてきましたが、ここで一層その無力さを呪いたくなりました。
「光のとこにいてね」という果遠の無邪気な言葉を、その言葉を放つ姿を思い浮かべると胸が痛くなります。
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第二章は、果遠の行動力と愛が溢れんばかり。
そしてまたも「光のとこにいてね」と言い残して、姿を消すという悲しい展開。
シチュエーションも、言葉の重みも前回とは違う。
だからこそ冗談は止してと言いたくなってしまう。
今回は果遠側の大人の事情で引き裂かれる2人。
せっかく再会できたのに。しかも今度は、自ら別れを下さなければならないなんて。
またも違う痛みを伴う第二章でした。
第三章はもう、2人は大人だから親の大人の事情に振り回されて引き裂かれるなんてことはないはずだった。
それなのに。
ああ、こういうのが運命っていうんだな。
と変に納得してしまい、その運命を憎たらしく感じてしまいました。
大人になっても、運命は変えられない。絶望感がほとばしる。
と思うじゃん?
なんと、今回は違う動きを見せました!
え、どうするの? どうなるの?
どうなったのかまでは描かれていませんでしたが、大人になった結珠は「引き裂かれる運命」に身を任せず、逆らい、その運命を変えようと、止めようと必死に体を動かす。
その姿に感動しました。
そうだ! 逆らえ! 運命に逆らうんだ!!(熱くなってしまった)
どうかこれからは、2人ずっと一緒に生きていけますように。
もう離れるなよ。(決めゼリフ)
果遠という名前を、ピアノ曲の「カノン」にかけたり、お母さんの呼び方の「かーさん」にかけたりする言葉遊びみたいなしかけも良き。
そしてお話の中にココアが何度も登場するので無性に飲みたくなります。
光は希望の象徴だけど、照らされたら逃げも隠れもできない。嘘やごまかしを許してくれない。そして足下に影を生む。
本文P318より
光は神のような存在で希望だけれども、良くない部分までも浮き彫りにしてしまう少し怖ろしい面もある。
一緒に暮らしているからこそ通じる些細なサインをいくつも積み重ねて、パイみたいに「家族」ができ上がっていくんだろう。
本文411より
このお話に登場する「家族」はどこかぎこちない。
そんな中でのこの気づきは、説得力があるし、実際そうだなと思わされます。
温かくて美味しいパイみたいな家族を築きたいですね。
最後に
友情と呼ぶには足りない、恋人以上に深い愛と絆を持つ2人。
どうかもう二度と離れませんように◎
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