今回はまさきとしかさんの『あなたが殺したのは誰』を紹介します。
前作の『あの日、君は何をした』『彼女が最後に見たものは』がすごくて、このシリーズの最新作が出ると去年知った時、大興奮しました。
今回はどんな衝撃を与えてくれるのでしょうか!
目次
あらすじ
女性が自宅で何者かに殴られ意識不明で発見された。
さらに彼女の幼い子どもの姿が見当たらず、誘拐されたと見て捜索が始まる。
現場には、謎の便箋が残されていた。
時は遡って1990年代、北海道の島ではリゾート地「リンリン村」の建設が進んでいたが中止になり、それが原因で不穏な事件が起きる。
現在の東京での事件と、バブル期の離島での事件。共通点の見当たらない二つの事件にはどのような繋がりがあるのか。
三ツ矢&田所シリーズ第三弾。
感想
期待値高めで読んだのに、その期待に応えてくれるおもしろさでした!
なんならおもしろさが更にアップデートされている。重厚感すごい。
さすがだ。もうこのシリーズは裏切らないと確信しました。
共通点のない違う時系列の事件がいつ繋がるのか、どう繋がるのかと、今回もドキドキわくわくでした。
ほんとギリギリまで、なかなか点と点が線にならない。
新事実や情報が発覚しても、また新たな疑問が登場して、解決どころか謎と興味が深まっていく。
そして繋がった瞬間の、ぞわぞわっとする感覚。
これよ、これ。この感覚がやみつきになるの!
だからこのシリーズ大好きなの!!
そうして線になって、事件の全貌が見えた気になるのですが、いやいや、もっともっと根が深いのですよ、この事件。
そんなよくある動機や展開じゃないのよ。
目が覚めるくらいのびっくりな真実が、ギリギリまで二転三転して
人物相関図が終わり際にうごめくのよ……!
ああ、なんたること。
こんな悲劇が起こってしまうなんて。
運命の残酷さに、胸が苦しくなりました。
(感想を連ねている間に興奮再来してしまい、暑苦しく語ってしまいました)
今回のお話のテーマは親子と呪いかな。(ホラーじゃないよ)
まさきとしかさんといったら、母親の狂気を描くのがお上手だと思っているのですが、今回も母親の不器用さや人間くささ、子供への愛情(?)や執着が、読み手を飲み込むほど強烈に描かれていました。さすがです。
今回はいろんな親子が登場するので、それぞれの抱える価値観や不満を垣間見ることができます。
こういうお話を読むたびに、親子という関係は難しいなと思ったりします。
正解なんてないのだけれど。
呪いについては、いろんな意味で感じます。
呪われるようなことをした自覚があるから、呪われていると感じる。
母親の束縛や執着、放たれた言葉が、ずっと付き纏って、これは母が自分にかけた呪いだと感じる。
このシリーズの愛すべきミラクル刑事三ツ矢も
「呪いだと認めた瞬間、呪いは発生するのだと僕は思います」
本文P512より
という持論で、呪いの存在を認めています。
たしかに、その人が呪いだと思い込めば呪いになってしまうのかもしれません。
思い込みというか、引き寄せの法則というか。
さてさて、今回も大暴れの三ツ矢さん。
本当に良いキャラしている。
鋭いの。すっごく鋭いのに、いろいろとズレていて、おもしろい。
悪く言えば自分勝手なように見えますが、それをカバーする、いや上回るほどの魅力がある男。
三ツ矢さんだからこそ、今回の事件の真相に辿り着けたし、おもしろくなったのです。
そしてそんな三ツ矢さんを一生懸命支える田所も尊い存在です。
三ツ矢さんの一言一句に振り回されたり、嫉妬したり、怒ったり喜んだり。
もうあれじゃん。
三ツ矢さんに片想いしている図みたいじゃん。
恋する乙女みたいじゃん。
今後も2人が活躍する続きがありそうな終わり方だったので、これは第四弾を期待してもいいのかしら……!
※ネタバレ区域※
無関係に見える二つの事件の繋がり、そしてちょっと多めの登場人物を整理すべく、ここにまとめますので、未読の方はお気を付けください!
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◇永澤しずくはどうして亡くなってしまったのか。
死因は睡眠薬多量摂取により嘔吐し、喉を詰まらせたことによる窒息死。
光部には殺意がなく、むしろしずくちゃんのことが好きで「面倒を見てやっただけ」という善意での行動でした。
こんな結果になってしうなんて、なんだか切ないです……。
◇永澤美衣紗が変貌したのはなぜか。
ホストにはまり、彼が「生活感のある女は嫌い」と言ったのを真に受け、料理などをしなくなり、派手な格好で夜遊びするようになった。
◇小寺則子と常盤恭司の駆け落ち説の真相は。
未亡人となった則子に言い寄ろうとした五十嵐が、抵抗された弾みで殺めてしまい、そこに居合わせそうになった恭司も熊見によって殺められ、真相を隠すために、2人は駆け落ちしたのだという噂を流した。
2人は何も悪いことをしていないのに、今まで汚名を着せられて勘違いされ続けてきたことが、とても苦しいです……。
◇数か月前に別事件で殺害されたはずの五十嵐善男の「私は人殺しです」という書置きがなぜ現場にあったのか。
真犯人である結唯を庇うために、小寺陽介が置いていったもの。
ちなみに五十嵐を殺めたのは陽介で、すでに2人殺めている自分が3人殺めたことになっても同じだという主張で罪をかぶろうとした。
自分の母・則子と恭司を殺めた3人の罪を主張するためでもあった。
◇永澤美衣紗はなぜ襲われたのか。
たまたま訪ねてきた結唯に「これで自分を思い切り殴ってくれ」と頼み、躊躇したが、美衣紗と自分の母の姿が重なり、夢中になって殴り続けてしまった。
◇タイトル『あなたが殺したのは誰』の意味
結唯は死産だったと聞いていた我が子が存命していることを知り、様子だけでも知りたくて美衣紗と接触する。
そこから事件に巻き込まれて、娘(美衣紗)を殺した。
しかし夢中で殴っている間は母を殺した感覚。
自白後、自分が殺したのは血の繋がりのない他人だったのだと知る。
という、人ひとりを殺めた事実は間違いないものの、結唯から見るとその対象がころころ変わっていて定まっていません。
一体自分は誰を殺したのだろう。
そういう気持ちになってもおかしくない。
それにしても、この人違いは残酷な真実で、胸が苦しかったです……。
昔、結唯が引きずり込まれた事件も強姦ではなく、事を行ったのは合意の上だったという事実は意外で、それがあったからこそこの事件が起きたというのも、かなり細い糸の繋がりで、驚きがすごかったです。
最後に
前作に引き続き、いや、前作以上にすごくて、早くも今年のベスト3に絶対入れたいお話でした◎