今回は凪良ゆうさんの『滅びの前のシャングリラ』を紹介します。
表紙とタイトルの美しさ、ここ数年話題の人気作家さんということで、ずっと気になっていた一冊です。
シャングリラとは理想郷のこと。
滅びの前の理想郷。どんなお話なのでしょう!
目次
あらすじ
1か月後、地球に小惑星が衝突し、人類が滅亡する。
混乱と絶望で荒れ果てる世界。
この事実を前にして、今まで死にたがっていた人たちの心に変化が訪れる。
感想
もしも、もうすぐ人類が滅亡するとしたら。
地球が滅びるとしたら。
誰しも一度はそんなことを考えたことがあるのではないでしょうか。(私はもちろんある)
終末を目の前に、私たちはどう思い、どんな行動をし、世界はどんな状況になるのか。
これが生々しいくらいリアルに描かれていました。
何をしようがどうせ終わるのだと自暴自棄になった人類。
余裕なく、自分のことしか考えられない人類。
今までそこにあったはずの愛や思いやり、常識が皆無になった人類。
おそろしかったです。
切羽詰まると、こんなおそろしいことになってしまうのか。
現実の今が、どんなに平和で幸せかを噛みしめたくなりました。
登場する4人の主人公たちは、自分の人生に絶望したり、不満を抱いたりしていて、いっそのこと人類滅亡してくれ、死にたい、終わらせたいと考えていた人たちでした。
そんな願いが現実のものとなってみて、皮肉にもそのおかげで、幸せな気持ちや状況に変化し、死にたくないと思うようになる。
今更そんな幸せな状況に変化したって、もう皆死ぬのに、神様は意地悪だ。
と思うか
最後の最後に幸せな気持ちを味わえて、生きている喜びを感じることができて満足だ。
と思うか。
きっとどちらも感じるのでしょう。でも最終的には後者の気持ちで散っていきたいものですね。
彼らは皆、一緒にいたい人といることができて、やりたいことをやることができて、幸せそうでした。
ずっと寂しさを抱えていたそれぞれが、ちゃんと最後には孤独から脱出できた。感激です。
人類滅亡というおそろしい事態を前にしても、幸せそうでした。
本当に世界が滅びることになってようやく、本当の自分の気持ちに気づき、その気持ちに素直になれる。
余命宣告とかもそうだけれど、自分の命の終わりが近づいていることを自覚すると、人は自分の気持ちに素直になれるのかもしれませんね。
結果はどうあれ、とても温かな読後感で、さすが凪良さん。
『シャングリラ』
急に衝撃的な告白から始まったので、ゾワッとしました。(おもしろそうな予感)
いじめに耐える術を身に着け、ひとりで闘い、そんな自分に嫌気が差している彼の姿に、助けてあげたくなるけれど、どうすることもできないもどかしさ。
滅亡を前にして、もう怖いもの無しだからこそ大胆な行動を取ることができ、それが今までの自分と現状を大きく変えるという展開に、人間の底力と行動することの重大さを感じました。
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『パーフェクトワールド』
助けに入ってくれた強面の男性のお話に繋がります。
こちらも同様、冒頭からインパクト強め。
さらになんと、繋がる繋がる……!
男性の忘れられない相手は○○で(ネタバレだから伏せるよ!)、この男性はつまり○○だったのです。(伏せすぎて何を言っているのかわからないことになってしまったね)
繋がった時の爽快感といったら。
クズ男な印象ですが、不器用なだけで、頼りになるお方でした。
『エルドラド』
エルドラドとは、黄金郷や理想郷という意味合いだそうです。
このお話の主人公はお母さんです。
強くて、世間体に囚われていなくて、相手の意見を尊重できる、芯の強い女性。
登場人物の中で一番好きです。めっちゃかっこいい。
ここでもある出来事と人が繋がって、鳥肌が立ちました。
攻撃してきた新興宗教の信者が、彼らのことを「幸せな家族」と表現した時に、彼女が一番欲して憎んだ「幸せな家族」というものを今、自分はようやく手にしているということに気づいて幸せな気持ちになったという瞬間が、なにより素敵で感動でした。
『いまのきわ』
個人的に一番読み応えの強かったお話です。
歌姫Locoのお話。
才能があって人気者な人は、やっぱりどうみても恵まれていると思われがち。
皆から羨望の眼差しで見られる分、期待される分、苦労や恐怖、そして孤独がある。
わかっちゃいるけど、見えないから、知らないから、やっぱり表の部分で判断しちゃいます。
人気を得るために、維持するために、自分を捨てる。
最終的に自分じゃない自分が出来上がる。
それは、本当に自分が望んだことなのか。
これもすごく考えさせられる内容でした。
結果として、皮肉にも滅亡という事態が、彼女の本当の望みや姿を叶えてくれて、こういう絶体絶命の事態になってはじめて、人は自分の心と向き合えるのだなと改めて思いました。
最後に
人類滅亡という絶望を前に、自分の本当の気持ちや姿を見つけるという、意外にも救いのある物語でした◎