今回はブログ「郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる」のニードル、ブログ「読子の本棚」の本田読子さんとの読書会
”第3回 本の虫たちの読書会”
の回でございます!
今回は私が選書いたしました、山田詠美さんの『血も涙もある』です。
『A2Z』で山田詠美さんの作品に興味を持ちまして、というのもありますが、タイトルがおもしろい。
装丁も不気味だけれど、そそられます。
目次
あらすじ
lover(愛人)、wife(妻)、husband(夫)。
それぞれの視点から語られる、自称「血も涙もある」三角関係のお話。
感想
私の趣味は人の夫を寝盗ることです。という強烈な書き出しから始まったこちら。
強いインパクトに期待大。
そして不穏な一言から始まったのだから、テーマがそもそも不倫なのだから、ドロドロのハラハラの修羅場へと一直線か……!?
と思いきや。
軽快で、コミカルで、オチも「マジか!」と言いたくなるほどの予想外展開&痛快ぶり。
暗いお話が苦手な人よ、これはいけるぞ。
なんと言っても、山田詠美さんの言葉選びと、そのボキャブラリーが、雰囲気を軽快にさせてくれるのです。おもしろがらせてくれるのです。
名言やら、おもしろい言い回しやらで、お気に入りの言葉がパンパンに詰まっています。
読み終わって気づく。付箋まみれになっていることに。
(後ほど、その中から厳選して(厳選できるのかしら)紹介しますね♪)
さてさて、内容の方に。
愛人と妻と夫の三視点で進んでいくのですが、それぞれの言い分を聞いているような感じの文体で、エッセイに近い感じなので、小説慣れしていない人でもグングン読めちゃうし、楽しめるのではと思います。
三人それぞれの気持ちがわかるという人もいらっしゃるのでしょうが、私は妻には共感し、幸せになってほしいとも思う。
けれど、愛人と夫に関しては、イラっとしましたね笑
愛人、人としてどうなのさ!? と何度も思っちゃいました。
かっこいい女ではあるけれど、私の価値観には合わないな。
夫、しっかりしてくれよ!
共感する部分もあるけれど、それでもやっぱり妻が不憫でならないわ。
でも3人とも共通しているのは強かで、達観していて、それぞれに考えがしっかりとあってこの状況を継続しているということ。
そして周囲から見た自分の印象に囚われて、それを演じようと本来の自分の気持ちに蓋をしているところ。
それに最後、気づくところ。
あとお互いにお互いを尊敬し、大好きなところ。どちらかを追放するなんてできないくらいに。
不倫関係においてこれは珍しい。だから、ややこしいのだ。
ちょっと嫉妬心でざわつくけれど、当事者全員が容認したままっぽくて、この状態が続くのかしらと思っていたら、思いもよらぬ人物の大胆な動きにより急展開。
え、ま、え……!?(驚きのあまり言葉にならない)
ノーマークだった。
そして、あんなにも執着していたくせに、いとも簡単に……!
いや、執着していたからこそ、なのか。
収まるところに収まったように見えますが、夫としては、そうでもないのかもしれません。
そうそう。恋愛や心理を料理に例えたり、料理が美味しそうなのも見どころですよ~!
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名言
山田詠美節炸裂だった中で、これはすごいぞと思う言葉たちを、なるべく厳選してお届けいたします!
非日常は、日常よりも強烈な魅力を備えているから、それを味わってしまった人は、目くらまし遭ったのも同然。
本文P50より
非日常って刺激的だものね。まさに目くらましに遭ったような感覚です。
好きに理由なんていらない、なんて嘘。自分だけが納得出来る好きの要素を積み重ねて、相手をかけがえのない存在に仕立て上げるのだ。
本文P92より
さすが恋愛マスター!
なんだかんだ無意識に、その人の好きポイントを探り集めているのね。
「自由の取り扱いには要注意よ」
「古今東西、軽々と自由を手にして来たように見える人間は、皆、石を投げられて来たわ」
本文P96より
自由に振る舞えば振る舞うほど、他者からは羨望の裏返しの非難を食らう。
自由に振る舞うことは、気持ちいいかもしれないけれど、その分敵も作るということですね……。
「妻という存在は、よほどの悪妻でない限り、世間を味方に付けているんだ」
本文P150より
本当だ! たしかに、妻ってだけで、なんか味方しちゃう。不思議。
「男は味方のいっぱいいる妻より、自分ひとりしか味方のいない女の方に欲情するもんなんだよ。多数、対、単数の構図。単数の方がはるかにセクシーではないか」
本文P150より
なんか、わからなくもないな笑
味方の少ない方に肩入れしちゃうの、その人のことが嫌いじゃなかったら、あるな。
「男女平等の名のもとに役割を決められるのって、どうかなって思うの。それって、人によっては不自由じゃない?」
本文P157より
わかるよ先生! よくぞ言葉にしてくださった!!
何でもかんでも男女平等って言うなって私も常々思うのです。
だって、バリバリ働きたい女もいれば、完全に家庭に入って家族に際限なく尽くしたい女だっている。
後者からしたら、この男女平等という概念は、平等と言っておきながら暗に「外に出て働きなさい」と強いているようなもので、不自由な思いを抱いちゃう。
男性だって、男女平等で窮屈な思いをされている人がいる。
難しいけれど、平等と言ったって、皆が皆、自由になれるわけじゃないんですよね。
人と人が惹かれ合うって、どうにも出来ないもの。出会った瞬間に発芽してしまった恋を摘み取るのは、第三者には無理なこと。
本文P196より
そうなのよ。好きになるってどうしようもない。コントロールできるものじゃない。
第三者が何と言おうと冷めないし、摘み取れるものなら摘み取ってほしいくらいだ。
でもこれを妻が言えるなんて、すごい。心が海のように広い。
「気の合う男女が親しくするのは当然だし、それをやっかんで噂を立てる人がいるのも当然」
本文P237より
どれもそれぞれの立場から見たら鬱陶しかったり、気に食わないけれど、当然のこと。
割り切れるなんて大人の中の大人です。でもこれを妻が言えるなんて(2回目)
「この世に結婚に向いている向いていないっていう視点は存在しないよ。誰との結婚に向いているかいないかってことだけ。~省略~向いてたんだよ、その結婚に。そして喜久江さんも向いてた。でも、向かなくなった」
本文P261より
結婚を諦めている人たちよ。こういうことらしいよ!
結婚自体に向いていないんじゃない。どこかに自分との結婚に向いている人がいる。
単位が違うのよ。結婚という事柄じゃなくて、人なのよ……!(感動)
最後に
「不倫」とは、「倫理にあらず」とは、どういうことなのかと深く考えてしまいました。
登場人物みんなが名言をどんどん吐きだしていく、言葉フェチにはたまらない一冊でした◎