今回は千早茜さんの『西洋菓子店プティ・フール』を紹介します。
可愛らしい表紙です。
こちらは読書仲間である知人におすすめしていただいた作品です。
意外にも大人女性のリアルな心情が描かれているということで、気になる気になる。
目次
あらすじ
下町にある老舗西洋菓子店「プティ・フール」を舞台に
大人たちが抱える悩みや葛藤と、洋菓子の魅力が詰まった連作短編の6篇。
感想
ほろ苦い人々の心情と、甘い食べ物。
この組み合わせはちょうど良いです。
日々、腑に落ちない何かにモヤモヤして生きている中で、それでも甘いものは、そのひと時だけでも幸せな気持ちにしてくれる。
甘いものの威力半端ないと思い知らされます。
そしてみんなを幸せな気持ちにさせるためにお菓子を作るパティシエも、細部まで考えてこだわったり、食べる人のことを考えたりしているところが粋だなと思いました。
お菓子の描写がたまらなくて、何度もケーキ屋さんに駆け込みたい衝動に駆られました。(実際ケーキを買いに衝動ごと駆け出しました)
タイトルにもあるように、ケーキについての知識や、いろんな魅力的なケーキが登場するのですが、人間ドラマは対照的にほろ苦い系です。
そこがいいのです。
大人が抱がちな友人や恋人や夫婦の関係の問題。
どの登場人物も共感できて、自分と同じことを思うんだなと嬉しくもなっちゃいました。
親近感。リアル感。だから読んでいて心に違和感が生まれないのです。
お店の名前「プティ・フール」とは一口サイズのお菓子で、お店という箱の中にたくさんのプティ・フールが入っているよという意味で名付けられたそうです。
ロマンチックよね〜!
千早さん、今回も詩的でロマンチックな文章でしたが、設定までもロマン溢れる深い意味があって素敵です♡
『グロゼイユ』
「女友達」という気まぐれで変化の激しい、あっけなく脆い関係。
自分はずっと変わらず……と思っていても、急に相手が心変わりして疎遠になるということってあります。
逆もまた然り。
女心は変わりやすいと言いますが、それは恋愛だけに限らず友人関係にも言えることなんです。悲しいことに。
仲良しだった相手が変わっていく、疎遠になっていく切なさを、少し思い出しました。
仕方ないんだけどね!
ちなみにグロセイユとは、赤くて酸っぱい実だそうです。
この内容にしっくりくる実です。
『ヴァニーユ』
好きな人の甘い笑顔のために、お菓子の腕を磨こうとする。
恋や愛ってやっぱり偉大です。だってこうして誰かの力や意欲を与えてくれる。
キュンなお話でした。
バタークリームって種類がたくさんあるらしいです。(早速、得た知識を披露)
奥が深いですね。
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『カラメル』
一番刺さったお話です。世の女性、大体刺さるのでは。
彼女のストイックさや気高さは、私自身と正反対でかっこいいなと思うのですが、冷めていて幸せには見えません。
無意識に夫に合わせて強がることは、自分の本心を無下にすること。
何事にも動じない顔をして、じつは毎日感じる苦味(本心)を飲み込んでいたと、彼女が気づいたとき、胸がぎゅっとなりました。
子を産んだ女性はなぜ正義を振りかざすように、態度も声も大きくなるのか。
という感情。
じつは私も、母親になった友人知人に上から物を言われることがあり、密かに同じことを思ったことがあるので共感。(全員がそうじゃないけれど)
『ロゼ』
他人を羨ましがるだけではダメなんだなと感じるお話でした。
今の自分の世界や個性を作ってくれたのは、自分の好きなもの。
その「自分の好きなもの」だけは自分の根っこのようなものだから、そこは否定してはダメだという言葉にグッときました。
最後の言葉がかっこいいです。強気な感じ好きです。
恋する乙女、がんばれ〜!
『ショコラ』
私が当事者なら、たぶん亜樹の気持ち寄りのタイプですが、彼のその決断も側から見たら理解できます。
相手が何を考えているのかわからなくなって、それを聞けない関係のまま結婚するのは、信頼がまだ成り立っていない。たしかに危ういです。
嫉妬してしまって、相手に対してモヤモヤしていることも。
そしてその今の自分の気持ちや心理状況を、相手に伝えられない、聞いてもらえないのも。
結婚するには、そこがまだ弱い。
2人はどうなってしまうの……! という不安な気持ちで次のお話へ。
『クレーム』
結婚できるということは当たり前で簡単なことではないと教えてくれたお話でした。
「結婚できるって幸せなことだよ。法が愛を守ってくれて家族になれる。当たり前の選択肢だと思っているのかもしれないけれど、誰もが選べるわけじゃない」
本文P236より
じいちゃんのエピソードがより「相手と必ず結婚できるわけじゃないという現実」を思い知らせてくれます。
そして亜樹と彼の亀裂の原因も、今の時代結構みんなが抱えているであろう原因で、自然と相手に完璧を求めていないか自分の現状を省みる機会になりました。
名言
じいちゃんの菓子職人目線の名言がかっこよくて惚れちゃうレベルなので、皆さんもどんか惚れちゃってくださいな。
「女ってさ欲望に正直なんだよ。欲しいもの、手に入れたいものを目指して追っちまうし、感情が顔に出やすい。人を喜ばせるものを作りたかったら若い女の反応を見たらいいんだ。女を昂奮させない菓子は菓子じゃねえ」
本文P85より
最後の一言、痺れる……!
「嗜好品ってのは、はけ口の対象になりやすい。けれどね、どんな食べ物も口にする人の幸せを願って作られているんです。だから、楽しく味わってやってほしい」
本文P129より
ストレスでやけ食い、しちゃいますよね。でも、そんな時でも作ってくれた人に敬意を払ったり、せめてその時だけは純粋に食べることを楽しむようにしたいです。
「甘くないお菓子ってないだろ? 甘さっていうのはな、人を溶かすんだよ。ほっと肩の力を抜けさせる。でも、ただ甘いだけなら馬鹿でもできる。相手の感じ方を想像して、旨味みを感じさせる甘さをださなきゃいけない。お前、祐介にとってそういう女だったと言えるか?」
本文P244より
お菓子も女(男)も旨みのある甘さが大事。
言われてみれば、甘やかしてくれる相手のほうが一緒にいたいですもんね。
「一度、好きって言われたら気持ちは永遠だなんて思うな」
本文P244より
それ! 忘れがちなんだけれど、ずっと好きでいてくれる保障なんてないです。
気を抜くべからず。
そんな相手にこそ思いやりがより大事になってくるのです。
最後に
ほろ苦い人間模様と、そこには甘いものを。
バランスが取れていて、気づきもくれるお話でした◎
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