ブログ「郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる」のニードルさん
そして私というメンバーで始まりました
第1回 本の虫たちの読書会👏👏👏(勝手に命名)
初回の課題図書はニードルさんに選んでいただいた、芦沢央さんの『火のないところに煙は』でござい。
第7回静岡書店大賞受賞
第32回山本周五郎賞候補作
2019年の第16回本屋大賞第9位
第31回このミステリーがすごい!第10位
複数の賞やランキングに入っていて、話題にもなり店頭から売り切れ続出だったそうです。
これ絶対読み応えすごいやつじゃん!
※今回は長丁場の記事になりそうなので、無理せず自分のペースでお読みください。(読ませる気は満々)
目次
あらすじ
作者本人が周囲から聞いたという設定のゾッとする怪談と、その怪談に隠れた意外な事実をまとめた短編集。
感想
怖いのに、先が気になってしまう。
怖いもの見たさっていうやつですね。
怪異はもちろん怖いです。
でも私はそれよりも、ちょっと一安心かなと思って気を抜いた矢先に来る衝撃展開に怖ろしさを感じました。
え、なんかもう「ひとまず大丈夫そうです」みたいな空気だったよね?
そんな急に、雷が落ちるみたいに、あっけなく
そんなことになっちゃうの……!?
おお怖っ……。
を全話で思いました。
怪異は人智を越えた現象なのだから、なんでもありうる。
けれども、心臓に悪いわよ……。(不謹慎ながらも、昂奮してしまいます)
一番の見どころは、名探偵「榊さん」の推理です。(オカルトライターです)
着眼点がすごいのです、このお方。
私も作者さん同様、表面部分しか見えていないので、疑問に思わず素通りタイプなのですが、彼はまじですごい。
さも当たり前の疑問や事実であるかのように、サラっと意外なおったまげ真相を、推理を披露する。
指摘されてやっと、たしかに……! と思う自分の鈍さを思い知らされます。
いや、私みたいな人の方が多数派よ。
榊さんがすごすぎるのよ。
どの怪異の矛盾も真相も言い当てちゃうのだから、あなた探偵に転職したらどうかしらと提案したくなります。
ものすごく華麗に紐解くので、毎回、榊さんに期待しちゃいました。
このお話はただの怪談話ではなく、その裏に潜む人間の欲望や思惑が同じくらい怖ろしく浮き彫りにされています。
それがまた、この本の魅力を引き立てているのです。
怪談とミステリーだけでは済ませない。あっぱれでございます。
『第一話 染み』
彼の死は、単純なものではなかった。
「あやまれ」の意味が違っていた。
というミステリー要素。
そっちか……! という目の覚めるようなスッキリ感と同時に、当人にはどうすることもできないという、疑ったが最後という怖ろしさに冷や汗が滲みます。
そして時すでに遅しという衝撃展開に、冷や汗どころか心臓が飛び上がる。
こっちは大丈夫だろうと思っていた方も、なぜか天罰が下されて絶句ですよ……。(後々わかります)
関わってはならない、会ってはならない人物とはまさにこういう人物。
それにしても彼の執着心も違う意味で鳥肌ものです。
『第二話 お祓いを頼む女』
彼女の猪突猛進具合には、あまりにも迫力ありすぎて不謹慎にも笑ってしまいました。
でも今思えば、何かに取り憑かれているような必死さで、彼女の身も心も既に危ない状況だったのでしょうな。
夫と息子の身に起こった怪異は、またも榊さんの名推理で論破されたわけですが、肝心のなぜそうなったのかをその場では突き詰めずに満足した結果が、またも心臓が跳ね上がる事態です。
言われてみればそうよね。息子の幻聴と行動は謎のままでしたわ……。
あの場で原因を突き止めていれば、あんなことにはならなかったのかしらと、私だって思ってしまいます。
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『第三話 妄言』
こちらは怪談というよりもスピリチュアルな感じで、より現実味あるお話という印象です。
お隣さんとの関係やその間で起きた事件にしても、誰にでも起こりうる内容で、他のお話とは違う意味でゾッとしました。
「予知」という能力についての定義や、現実と予知の境目についてが、このお話のポイントになっていきます。
そこに関して今まで深く考えたことがなかったので、言われてみればな〜と考えさせられるのでした。
予知できてしまったから、その能力に自覚がなかったから起きてしまったとも言えるこの奇妙な事件。
お互いに不運だったとしか言えません……。
『第四話 助けてって言ったのに』
怪異にゾッとするというよりも、ある人の行動と真相にゾッとしました。
怪異も怖ろしいけれど、人の欲も怖ろしい。
「せっかく」「あと少しだったのに」という、勿体なさや取り返しのつかないことに対する後悔。
この心理が今回の事件のカギに。
このような未練や後悔やもどかしさを抱くと、人は合理的に、冷静に考えられなくなってしまう。
それよりも大事なことがあっても、その気持ちを満たすための欲が抑えきれず闇雲になってしまう。
結果的に大事なものが疎かになり、失うこととなる。
冷静に考えれば優先順位がわかるにしても、欲求を前にしては目が狂います。
なんだか一件落着しそうな雰囲気から、急展開で怖ろしい衝撃がダダダっと押し寄せたお話でした。
『第五話 誰かの怪異』
怪異自体はスタンダードです。(なんじゃそりゃ)
意外にも切なく、感動もしちゃうラストです。
怪談のラストに感動があるなんて……!(宮部みゆきさんの「三島屋シリーズ」もそういうお話あるね)
彼女にとって怪異とは、何を犠牲にしてでも愛娘に会う手段。
彼女にとって怪談とは、もう一度娘と過ごす物語。
実際の怪異のメッセージ性は謎ですが、この要素だけで十分満足です。
『最終話 禁忌』
第五話ですっかり忘れていたあの存在が、まさかの事態に……!
予想外過ぎてゾクゾクしました。
さらに、これまでの五篇は怪談というジャンルは共通しているけれど、連作感のない独立したお話たちでしたが、ここでズルズルと鳥肌が立つくらい繋がっていくのです。
そう。伏線回収というやつです。
まさか全部繋がっていたとは……!
我らが名探偵の榊さんの書評が載せられているのですが、その榊さん書評後に、編集部のメッセージが「榊さんと連絡が今現在も取れません」と注意書きとして載せられている……。
え、結局あれから榊さん消息絶ったままの?
不気味な終息に、さらに怖さの追い打ちをかけられます。
そして
出版社もグルなのか! 息ぴったりかよ!(歓喜)
そう、怪談から書評まで、これら全て、実話のように語られて迫力満点なのですが、
フィクションです。(実話と思って読んでいたから焦ったよ)
[初回限定特典]特別掌編『笑顔の人』
たしかに不気味ではある。
けれど、これはほっこりする怪談だ。
想像すると、おじさんめちゃくちゃ可愛くて、和むほどです。
そして「あ」「や」「ま」「れ」を大文字にして潜める遊び心も、おもしろいです。
最後に
ページ数はそこまでないのに、濃厚なお話でした。
ミステリーとしてもかなり手が込んでいておもしろいです。
ニードルさん、最高の選書ありがとうございました◎
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