今回は町田そのこさんの『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』を紹介します。
町田さんのデビュー作。
この作品に収録されている『カメルーンの青い魚』が女による女のためのR-18文学賞の大賞を受賞しています。
一年前に読んだ『52ヘルツのクジラたち』の感動を未だに覚えています。ふと町田さんの他作品も読みたいなと思い、よくみかけるこの作品を手に取りました。
目次
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あらすじ
ある小さな街で、心に傷を負う人々が懸命に生きる姿を描いた5編の連作短編集。
町田そのこさんの素敵なところ
町田さんのすごさは『52ヘルツのクジラたち』でも感じていましたがそのすごさはやっぱり本物でした。確信。
町田さんの描く心に傷や闇、影を抱える登場人物たちは、この世界に生きづらさを感じて、もがきながらも一生懸命に強く生きている。
彼らの生きざまは強く、かっこよく、美しい。説得力もある。
その姿を見て私も頑張ろうと思える。勇気、生きる力、ヒントをくれる。
悩んでいる時、しんどい時は町田さんの小説を読んで心をリセットしようと決めました。(精神安定の頓服薬的存在)
それから心理描写、情景描写も素敵。優しくて、やわらかくて、温かい。きれいな詩的描写。
これだけでも魅力的なのに物語の構成に関してもすごいんです。
ミステリーじゃないのに、ミステリーのような驚き展開を仕掛けてくる。
驚かされるつもりで読んでいないのに、そんな心の準備もしていないのに、感動の束の間、唐突に発覚する予想外の展開。
この要素が刺激的で、より一層楽しませてくれます。
感動と人生のヒント、おもしろい構成と驚きの展開。なんて贅沢な読み物なんだ!
感想
この作品は、どの物語にもそれぞれにあった魚がキーワードとして出てきます。
その魚を検索して見るのも楽しみ方のひとつです。
魚ってきれいなだけじゃなく、おもしろい生態をしていて、それを物語と同時に知れるのも楽しいです。
登場人物や時間軸が重なっているのもおもしろいポイント。
『カメルーンの青い魚』
一緒に生きていくことができないけれど、それでも好きなまま。切ない……。
「りゅうちゃんは、ここで必死にヒレを動かして、生きてくれた。私の為に、苦しいのに一所懸命ヒレを動かしてた。この拳は、りゅうちゃんのヒレだったんだよね」
「りゅうちゃんが生きていく為にヒレを動かしたら、私が傷ついた。りゅうちゃんはあのときからずっと、辛かったんだよね」
本文P39より
昔の恋人の思い出話かな~、今の彼氏に内緒で会っているのかな~と思っていたら
……そういうこと!?
そんな単純ではなかった。
なるほど繋がった。すっきりするくらい気持ちよく話が繋がった。感動とびっくりで忙しい。
りゅうちゃんや啓太だけじゃない。読み手も一緒にびっくりだよ。
その場にいたサキコ以外みんなびっくり仰天だよ!
切なくて甘いのに、後味さわやか。好き。
ちなみにここで登場する魚はアフリカン・ランプアイ。カメルーンに生息する青目メダカちゃん。シンプルだけれどかわいい子です。
カメルーンじゃなくってもいい場所をサキコが作ってやれ。
本文34より
かっこいいねえ、りゅうちゃん。
『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』
インパクト強めな一文から始まるこの物語。
晴子も啓太も洋平もかっこいい。中学生なのに大人顔負け。
晴子と啓太の関係性。お互いを尊敬して、鼓舞し合っている。
晴子の現状が残酷で、読んでいて苦しくなりましたが。
晴子はその現実を受け入れて立ち向かおうとしている。本当は怖いのに。ひとりで懸命にこの世界を、これから待ち受けている世界を泳ごうとしている。強い。
おばあちゃんのお話も絶妙にリアルで泣きそうでした。
啓太が事の顛末を察した時の「よくやった、頑張った」という強い呟きと思いにも泣きそうでした。
自分の言動が人を怖がらせている可能性があることを教えてくれなかったと嘆く彼女に啓太がかけた名言。
「教わるもんじゃなくて、覚えてくもんだよ、そんなの。ひとから叩かれたら痛い。だけど同じことができる手のひらを、自分も持ってる。こういう気付きの繰り返しだろ」
「いつ気付くかなんて、個人差だよ。気付かないままでいることが問題なんだ」
本文P83より
反面教師にして気をつけるようにする。そうやって学んでいく。
勉強になるなあ。肝に銘じます。
ここで登場するのはチョコレートグラミー。
口の中で子どもを守る習性が晴子とおばあちゃんの関係性と似ているという流れで出てきます。
啓太とさっちゃんの喧嘩もお互いを思い合っているが故であって温かいお話でした。
そうそう、ここに登場するのはサチコとその二人の息子(啓太)!
『波間に浮かぶイエロー』
芙美さんや環さんの過去、疑問が少しずつ語られていき、温かくて感動します。
芙美さんがまじでかっこいい。
環さんが帰って、これでお話は終わりかと思いきや。
最後の最後に隠された真実のお出まし!(歓喜)
その真実が更に切なくさせ、辛くさせましたが、感動と温かさの波も押し寄せる。
こんなに温かくて優しい世界だったんだなあ、ここは。
恋人の最後の言葉も、重文さんにリンクする。
よく言いますが人は死んでも、生きている人の心の中に生きている。泳いでいる。
それを証明されたような気がします。
「ギスギスした両親より、にこやかな片親よ」
本文P176より
シングルマザー、シングルファーザーの皆様に届け。
ここで登場するのはハナヒゲウツボ。別名ブルーリボン。名の通りリボンみたいな見た目でかわいい。オスからメスになるところが芙美さんと一緒。
芙美さんがいつも黄色を纏っている理由はこれっだったんですね。
『溺れるスイミー』
好きな人と好きなように生きることを諦めて苦しいところで生きれるようになりたい。この決断ができる主人公はとても強い。でも、もどかしい。
一瞬夢のようなハッピーエンド展開を繰り広げてドキドキしましたが、急に夢から醒めたように現実的なラスト。
はっきりと魚は登場しませんが絵本に登場する小さな魚「スイミー」と主人公の共通点があります。
同じところに留まらず、旅をする。
それができないと悟った主人公は溺れるスイミー。
ここに登場する宇崎くんは、りゅうちゃんと喧嘩した相手です。
この宇崎くんが、ほんといい子なんですよ。いい子過ぎて、だから辛い。
『海になる』
生と死について深く考えさせられます。
逃げるという選択肢が見えないから死を選びたくなる。
生きているものを握りつぶす行為の罪悪感。相手だけでなく自分に対しても同じだなと気づかされます。
読後感はすっきり。温かい。
命の繋ぎ方は子を産むだけではない。他人を育むことも、見守ることも命を繋ぐこと。
ここで魚は登場しませんが海の存在の大きさが出てきます。
ちなみに主人公は晴子を引き取ったおばあさん。この締め方はお見事です!
気にかかっていた晴子のその後が優しいものだろうと想像できる。
モヤモヤを残さず終わってくれて、未練なし!
最後に
感動するだけでなく、思わぬ仕掛けが張りめぐらされていて、物語にずっと惹きつけられていました。
町田そのこさんの構成力、文章力の虜です◎