今回は川上未映子さんの『黄色い家』を紹介します。
第75回読売文学賞、王様のブランチBOOK大賞2023を受賞。
キノベス!2024 第2位、そして2024年本屋大賞ノミネート。
とにかく話題になっていて勢いの止まらぬ一冊です。
発売当初、読みたくて読みたくて。でも文庫化まで待とうと思っていたんです。
でも文庫化される頃にゆっくり読める生活ではないかもと思い、結局待たずに読んじゃいます!
目次
あらすじ
2020年、総菜屋で仕事をする花は、昔一緒に暮らした黄美子さんの事件記事を発見し、昔のことを思い出して心配と恐怖を感じる。
当時、貧乏だった花は家出をし、黄色い家で黄美子さんたちと4人の共同生活を送っていたが、働いたお金は運悪く何度も失うことになり、ついに「シノギ」に手を出してしまう。
お金を求め、お金に狂わされ、彼女たちは破綻していく。
お金の持つ力は、人を幸せにするのか、それとも狂わすのか。
感想
ものすごい威力を感じるお話でした。
ずっしりと重くて、気持ちがしんどくなり、そしてボリュームのあるお話なので、気力体力が必要ではありますが、それでもとにかく引き込まれる内容。
冒頭から「一体何があったのか」と気になって、しんどいのに読む手は止まらない。
帯の人はなぜ、金に狂い、罪を犯すのかという言葉が、読み終わった後では重みが違ってきます。
主人公の花の人生が壮絶で、彼女の稼ぎ方は犯罪なのだけれど、悪いことなのだけれど、糾弾する気にはなれませんでした。
普通の人生から外れてしまった人である彼女たちが生きるには、その術しかなかったようにも思えてしまう。
こんなことをしてはダメだ。でもじゃあ、それ以外にどうやって生活していけばいいのか。
私にもわかりません。
環境などに恵まれなかった彼女たちが生きていくには、罪を犯すしかなかったのだから、簡単には責められないよなと思うのです。
そんな人たちがきっと、周りにいないだけで現実にもいる。
つらいつらい世界の闇を直視した気分です。
つらい生活から抜け出すために、目標のために、将来困ることのないようにするために。
目的は変われど、常にお金を求め、求め続けたがためにお金に執着し、狂わされる。
お金に一生取り憑かれるように生きていかなければならない呪いを目の当たりにしたようで、その事実が、変貌していく様が、おそろしかったです。
そしてお金は人間関係をも狂わす。
いくら仲良しでも、思い合っていても、お金が絡んでくるとその関係はいずれ破滅へ転がっていく。
人間関係において、お金が絡むと厄介なことになるというのはよく聞くけれど、その厄介がこのお話に痛いほど苦しく表現されていて、思い知らされました。
お金の持つ力に慄くばかりです。
お金は大事だけれど、おそろしい。
作中にも度々出てくることだけれど、お金とは何なのだろうか。
主人公の人生が壮絶と先ほど書きましたが、これが絶望を味わわされるほどの悲劇の連続。
自分の力で一生懸命お金を手に入れても、理不尽なまでに何度も奪われたり消えていく。
希望の光とも言えた居場所が、人が、あっけなく消えてしまう。
つらすぎる。私だったら立ち直れない。
ことごとくこんなことの連続で、それでも犯罪を犯しながらだけれど必死に生きる花は強く見えました。
でも、お金にどんどん飲み込まれていく姿は、とてつもなく危うい少女です。
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冒頭の流れ的に、黄美子さんってどんな悪女なのかと身構えていたけれど、全然思っていたのと違ってびっくり。
たしかに変わっているし頼りないけれど、愛のある良き人。
黄美子さんは最後まで黄美子さんで、そんな姿に泣きそうになりました。
黄美子さんの事件の真相はわからないけれど、最後まで読んで黄美子さんという人物を知ると、黄美子さんは騙されたか嵌められたのかもしれないなと思う。
ニュースの表面上では、黄美子さんは悪女の印象を受けるけれど、きっと大事な何かが隠されているのだと。
その見えない部分の可能性も考えずに、ニュースなどの内容を真に受けてしまうことも怖いことだと感じました。
名言
というか印象に残った言葉たちをご紹介します。
《自分で決めた人生を生きる人間なんか、この世にいないってことだよ》
本文P145より
思い通りに生きられる人は、たしかにいないですね。
環境とか、タイミングとか、状況とか。何かの要素が必ず障害になっているのだから。
わたしたちの黄色だっておんなじで、自分が信じることで、励まされたり大丈夫だと思えることが大事なんではないか。
本文P180より
自己暗示って、曖昧だけれど意外にも精神的に支えてくれたりします。
占い結果とか、ジンクスとか、花にとっては「黄色いもの」が。
『だいたいのことは、ぜんぶ調子の問題だよ。理由とか、本当はどうとか、そういうの誰もいらないんだよ。調子にのってるやつといると、自分までうまくいってるように感じるだろ、気分がよくなって、ぜんぐうまくいってるように思える。みんなそれが好きなんだよ。だから調子のってるやつに、人も金も、運も集まる。力をもつ。だからいちばん調子にのってるやつの言うことが、そのときいちばん正しいってことになるんだ』
本文P210より
衝撃を受けました。
でも言われてみればそうかと思う。調子のってる人といると、悪いものが来ないような気がして安心するって、なんとなく感じるもの。
これが世界のしくみなのかな。
「幸せな人間っていうのは、たしかにいるんだよ。でもそれは金があるから、仕事があるから、幸せなんじゃないよ。考えないから幸せなんだよ」
「金はわかりやすい力だよ。~省略~知恵絞って体使って自分でつかんだ金をもつとね、最初からなんの苦労もなしに金をもってるやつの醜さがわかるよ」
本文P373より
こちらも衝撃的な言葉でした。
お金があるから幸せとは限らない。お金を持っていても孤独を抱えている人もいるし。
お金や仕事がなくても能天気な人って幸せに見えるけれど、この原理なのか。(失礼)
自分で掴んだお金だからこそ、ありがたみや苦労が身に染みて、人間的にも魅力的になる。
莫大な財産とか、お金持ちとか、うらやましいけれど、代わりに私たちは必死にお金を掴もうとするからこそ賢くなり、いろんな知識も身につけていく。
そう思うと、平凡も悪くない。
最後に
川上未映子さんの丁寧で優しい文章はそのままに、内容は生々しくてダーク。
ボリュームも内容も重厚なお話でした◎