今回は佐藤正午さんの『身の上話』を紹介します。
佐藤さんの代表作『月の満ち欠け』を読んで、他にはどんなお話を描く作家さんなのかと気になり、まずは評価の高めなこちらを選んでみました。
私の好きな作家さんの一人である伊坂幸太郎さんも絶賛な佐藤正午作品、2冊目を行きます!
目次
あらすじ
これは私の妻ミチルの身の上話だ。
ミチルは仕事の休憩中に、勢いのままに好きな男性を追いかけて上京を果たした。
お金に困るも帰りたくない彼女だったが、頼まれて買った宝くじのうち1枚が高額当選していたことを知る。
その高額当選の宝くじを機に、予想だにしない事件が次々と彼女の身に降りかかる。
私はなぜ妻の色恋沙汰な身の上話を淡々と語るのか。
ミチルの周囲で巻き起こった事件はどのような結末を迎えるのか。
宝くじ当選という幸運が思わぬ不運に反転する予想外連続の物語。
感想
長い道のりだったぜ……笑
でもすごかったです。これは化け物級小説です。
淡々と語られていて、回りくどいほど詳細に心理や情景が説明されるので、そこにじれったさを感じて「長い道のりだった」と感じてしまいましたが。
内容はとにかくすごいです。語りの長さなんてどうでもよくなるほどに展開が刺激的で、先が読めなくて引き込まれます。
冒頭は日常的な恋愛小説っぽくて、ただただ長く感じて、個人的には少々退屈気味だったのですが
急に世界がひっくり返ってサスペンス!
空気がガラッと変わったのです。
そこから先はもう気になって気になって。
つまり、私のように序盤1/3で挫折しかけている人に伝えたいのです。
そこから先、展開が化けるぞ!
そこから先めっちゃおもしろいぞ!!(だから諦めるな!)
アドレナリン出まくりです。物語1/3にしてちょっと遅めの怖ろしいのにツッコミどころもあるドキドキハラハラ展開の幕開けです。
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まずこのお話で一番に思ったこと。
登場人物ほぼ皆やばいやつだ。
特に竹井はやばい。穏やかで好青年という仮面の裏は愛と欲望に満ちたサイコパス。
そもそも日頃から事後処理の方法なんて凡人は考えませんよ竹井。
何をしでかしてもおかしくない彼ですが、ミチルの知らないところで頼んでもないのに、あの人も、さらにあの人まで〇しちゃうなんて……。
怖いなあ。敵に回したくないし、そもそも関わり持ったらアウトだなあ。
次に強烈な印象を与えたのはフライパンです。
フライパン最強かよ。
フライパンの活躍(?)は一度ですが、その一度で最強の武器という印象が強く残り、ミチルの妄想上でも登場するくらい存在感を発揮し、猛威をふるっています。
フライパンで〇〇ができるなんてギャグのようだけど怖ろしいです。
ミチルのぶっとび身の上話を語るのは「私」です。
「私」はミチルの夫だそうですが、こんな騒動の中で一体どのようにして出会ったのだろうか。
過去とはいえ、妻の恋愛模様をなぜ淡々と平常心を保って語る事ができるのか。
という冒頭から気になるミステリアスな要素もあります。(身の上話が凄すぎて忘れていたけれど)
ご安心ください。二人の出会いも、結婚するきっかけも細かくしっかり語られております。
そこでさすがにもう何も起きないだろうと油断していたら、あらたいへん。
おまえもかーい!!
「私」もとんでもない秘密抱えてんじゃん。
なんでよ。なんでみんな道を踏み外して余裕でコースアウトしてるのよ!
身の上話なんだよね? たわいのない身の上話なんですがって感じのお話だと思って手に取ったらびっくり箱だったわ。
そもそもなぜ夫が妻の身の上話を語っているのかという疑問が、ついに最終章で発覚します。
そういうことだったのねって、ものすごくスッキリしました。
彼は究極の選択を迫られる。
その末彼が選んだのは、妻の身の上話を語ること。つまり告発することだった。
私たち読者は告発を聞いていたわけですね。
宝くじの高額当選を境に、彼女の周囲の人たちがおかしくなっていく。
大金を手に入れていなければ彼女の人生は今まで通りの何事もない平凡なものにだったのかもしれません。
大金を得て幸になるか不幸になるかは人それぞれですが、怖ろしさの面を知った今は、ちょっといらないかな……笑
最後に
穏やかに加速し、ぐわんと変化していくハラハラジェットコースター小説。
彼女の身の上話は禁断の香りがしました◎