本好きの秘密基地

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夜行/森見登美彦 ※ネタバレ要素あり

今回は森見登美彦さんの『夜行』を紹介します。

第156回直木賞、第14回(2017年)本屋大賞のダブルノミネート、そして第7回広島本大賞を受賞した作品です。

発売当時に私も読みました!(7年くらい前かな)

年月が経った今でもすごく印象に残っていて、でも内容はぼんやり。

つまりこれは再読時期が来たということだ。

鞍馬の火祭りもちょうどこの時期。良い頃合い過ぎて、この本に呼ばれたかのよう。

未読の本と同じくらいワクワクソワソワしながら、謎めいた夜の中へ……!

 

目次

 

あらすじ

十年前、仲間と訪れた鞍馬の火祭り突然一人が姿を消した

そして今、彼女を除いた5人で再び集まる。

集まる前に見た岸田道生作の連作画「夜行」の話をしたところ、全員がそれぞれ旅先でその絵を目撃したと語り出す

不思議な旅先での体験は何だったのか。

不思議な連作画「夜行」と、その対になる「曙光」とは。

怪談×謎解きで、いつの間にか魅惑的な夜に閉じ込められる新体験な一冊。

 

感想

ああそうだ。この感じだ。

この掴めない感じ。そしてゾクゾクする不気味さ。

初読の頃の私は、不気味さは存分に理解し感じていたものの、この掴めない感じの終わり方に対してはちっとも考察できなくて「なになに、どういうこと? どうなったの……?(怖)」と途方に暮れていたのでした。

だから内容がぼんやりしていたのです。オチも謎もわからなかったから。

ただ怪談要素と謎だらけの世界は魅惑的だったので印象に残っていたというわけです。

そして再読した今回は、自分なりの考察ができるようになって

怖いけれど楽しいぞ……!

とテンションがハイになっていました。

物語が終わってしまうのが嫌で嫌で仕方がないくらいのめり込んでいました。

この魅惑的な夜にどっぷりです。読後も抜け出せない。

何度でも読みたいです。

でも読めば読むほど謎が深まっていきそう。

なにせ、この怪談的謎解きには明確な答えなど存在せず、いくつもの考察・可能性が浮ぶのだから

人それぞれの解釈がいくつも存在するし、再読したらまた違う解釈が浮びそう。

実態がぼんやりとして謎が深まったまま終わっても、それはそれで趣きありで良し。

考察しまくって、謎を自己流に解きまくって楽しむも良し。

本当に魅惑的な物語だこと!

 

夜と謎の深まるこの不思議な物語にはさらにもう一つの魅力があります。

それは日本のあらゆる場所が舞台になっていて、旅気分を味わえるところです。

実際に行ってみたい。個人的には尾道に惹かれる。

 

そして本書タイトルにもなっていて、物語でも大きなポイントとなる「夜行」

「夜行列車の夜行か、あるいは百鬼夜行の夜行かもしれません」

本文P16より

「夜行」と目にして私は夜行列車が思い浮かびましたが、ひゃ、百鬼夜行……!

ふたつの意味を掛けていると冒頭で予感させられてもう、たまらん!(去年から怪談ブーム来ている)

 

※ネタバレ区域※

ここから先は、私なりのものですが考察や解釈、この世界の仕組みを語らせてもらいますので、未読の方はここまででお願いします!

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『第一夜 尾道

個人的に一番印象に残っている旅でした。

そしてまあまあギリギリまで状況が把握できなくて、不気味さと深まる謎に困惑されました

最初のお話だから慣れていなくて余計にそう感じたというのもあるかも。後のお話たちも同レベルの不気味&謎です

もうここで言っちゃいますが、パラレルワールドだったのです

このパラレルワールド不気味さと噛み合わない謎を増幅させていたのです!

出版元の小学館から謎解きのヒントが掲載されていたので、これを元に私なりに考察していきたいと思います。(初読時はこんなのあったの知らなかったぜ)

https://www.shogakukan.co.jp/pr/morimi/

1.ホテルマンの妻が二階に籠るようになったのは何故か。

描写に「異臭がする」「人が住んでいるようには思えない」とあることから、妻の遺体が2階に隠されているということではないかと思います。

2.中井の妻が「変身」したのは何故か。

ある夜、中井夫妻は尾道の踏切を夜行列車で通過していました。

その踏切で女の人(ホテルマンの妻)を見たと妻が言っていました。

おそらくこの時に妻はホテルマンの妻に取り憑かれたのではないかと思います。

そして、妻はホテルマンの妻を見たときに「自分を見てるみたいだった」と言っていたので、テルマン夫妻はパラレルワールドの中井夫妻なのかしら。

 

『第二夜 奥飛騨

こちらはオカルト的なものも相まってか終始ゾッとしました

終盤の主人公のカミングアウトで四角関係が発覚して、さらに混乱したしとんでもない!笑

3.死相は確かに浮んでいた。誰と誰に?

この疑問はめちゃくちゃ難しい。どの組み合わせもあり得る。

でもその中で私は美弥と瑠璃に絞りました。(あまり自信はない)

「さっきお姉ちゃんが部屋を出ていくとき、私にすごく優しい声をかけてくれたんです。~省略~これはもうお姉ちゃんじゃない。お姉ちゃんは死んでるんだって」

本文P126,127より

妹の瑠璃の言葉で、途中から雰囲気や様子が変わった人が怪しいのではと考えました。

まずこの言葉から姉の美弥、そしてこの言葉を放った本人である瑠璃も途中から様子が変わっているので、この二人かなあ。

4.大きな事故が起こった。それはどこか。

これも難しい!

最初の疑問に合わせるなら、二手に別れたときに女性二人が事故して亡くなったのではと考えると辻褄が合います。実際、到着が遅れていたとのことですし。

ただ

トンネル手前で武田君がうつらうつらしていたときの出来事も実に怪しい。

耳元で悲鳴が聞こえたような気がしたとか、トランクの中を探る二人の行動とか。

でもそうなると死相は武田くんと美弥になるし、そうすると今ここで語っている武田君が無事なのは辻褄が合わないし……

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『第三夜 津軽

夜行列車に相応しい場所ですね。

小学校時代の友だち佳奈ちゃんは、もう一人の自分だったという衝撃展開。

ここだけでもお話としてはおもしろいのですが、忘れてはならない

連れが失踪していることを……! (途中忘れていた)

5.なぜ児島君が最初に姿を消したのか。

こちらも難しい疑問で、正直自信がないのですが、そもそも答えなどないのだし聞いてください。(開き直り)

3人の中で一番最初にあの絵「夜行――津軽」に魅せられたのが児島君だったのかなと思います。

いつの日か画廊で玲子さんと見たときに、児島君は何か言いたそうにしていたと書かれています。そのとき既に、魅せられていたのかなと

玲子さんもあの絵に惹かれていましたが、なぜ惹かれるのかはっきりとわかっていなかったのに対し、児島君は自分が何故あの絵に惹かれている自覚があったとか……?

6.画廊で銅版画を見たとき、児島君は何を言い淀んでいたのか。

こちらのシーンはさっきも触れましたところです。

描かれている女の人は佳奈ちゃん=玲子さん。つまり児島君には玲子さんに見えている

「この女の人、玲子さんみたいですね」と言いたかったのでしょうか。

ちなみに児島君は玲子さんに惹かれていたから、「夜行――津軽」に魅せられたのかしら。

 

『第四夜 天竜峡

田辺さんよ。なんと連作「夜行」の作者岸田道生と知り合いだったとは……!

謎の男、岸田道生の正体がわかるかと思いきや、謎めいた人で掴めない。

ただ皆から愛され尊敬され、静かに情熱を燃やしていたことはすごく伝わりました。

乗り合わせた謎の女子高生の正体も、不気味に繋がってゾワッとしました。

田辺さんは暗室に閉じ込められていたというのは、心がずっと過去に(岸田に)囚われているということなのか、それともこれもパラレルワールド

7.田辺さんと岸田が親しくなった木屋町の夜、岸田は何について語ったか。

ん? これは……、連作「夜行」を完成させるためには、相当鍛錬と準備が必要で、それくらい大きな構想だってことかな。

その鍛錬と準備が自らの魔境を旅することってことかな。

8.「夜行」に描かれている女性は誰なのか。

岸田が魔境(自分の中の妄想の世界)を旅して出会った。岸田を取り込んだ

そしてそれはあの女子高生。

ということかしら。

後に読んでいくと、=長谷川さんとも言えます

真実の世界なんていうものはどこにもない。世界とはとらえようもなく無限に広がり続ける魔境の総体だと思う。

本文P238より

私が今過ごしているこの世界も魔境なのか。

そう感じてしまいます。途方もない。

 

『最終夜 鞍馬』

ちゃぶ台がひっくり返されたかのような展開に、この物語の壮大さが想像以上だったことを思い知らされました

こっちの世界では長谷川さんが、あっちの世界では大橋君本人が失踪か……。

しかも急に違う世界に入り込んでいるから、周囲の反応が不気味度増しています

この摩訶不思議パラレルワールドなしくみを理解しないと、今どっちの世界にいるのかわからなくなりそうです。

9.英国で岸田が見たという「ゴーストの絵」。その作者は何を隠していたのか。

行方不明になった娘との関係とその顛末をずっと内に秘めていて、それが彼の中で収まりきらなくなってついに絵に現れてしまったのかと思います。(こんな単純でいいのかしら)

10.本当に夜は明けたのだろうか。

うーむ。

最後の一文で、大橋君目線では本当に夜が明けたという印象があります。

でも読後感的には、すっきりせずにずっとこの夜の世界が漂っている感覚があって、夜はずっと続いていると語りかけてくる感じもします

五分五分なんです。

また再読したら、この感覚も変わるのでしょうか。

 

最後に

おもしろい構成で、考察のしがいがたっぷりで、つい長々と語ってしまいました。

解釈は読者に委ねる系なので評価は分かれそうですが、私は虜になってしまいました。

何度でも再読して、何度でも考察して、何度でもこの世界に入り込みたいです◎