今回は前野ひろみちさんの『満月と近鉄』を紹介します。
前野ひろみちさんのデビュー作であり、今現在では唯一の著作です。
まずタイトルに惹かれ、手に取ってみたら表紙も素敵。
なんと森見登美彦さんとの対談が収録されているそうで、更に興味が湧きました!
情緒が溢れていそうな雰囲気ですが、どんなお話なのでしょう。
目次
あらすじ
奈良を舞台とした、個性豊かな4篇。
感想
森見さんと同じ事を思いましたよ。
な、なんだこれは……!
森見さんの作品を初めて読んだときと同じ衝撃と、高揚感。
森見さん作品に似ているけれど、瓜二つというわけではなく、しっかりとオリジナリティがある。
実際に森見さん自身も、近しいものを感じたそうです。
こちら短編集なのですが、それぞれ違うジャンルの独特な世界観で、バラエティというか試みが富んでいて、飽きることなく最後まで読めました。
おかわりが欲しいくらいです。
今のところ家業や家族のことで忙しいらしく、2作目の予定は未定だそうで。
前野さんのお話、もっと読みたい。
そう思わせてくれる読後感でした。
そして連作短編ではないのですが、最後に総括するような繋がり(まとまり)があって、短編集の顔をした長編みたいな、一冊まるごと芸術作品みたいな本なのです。
一篇だけでも立てる強い作品だけれど、四編一冊まとまると、さらにすごい作品になる。
独特な世界観と、現実と幻想の混同。
こんなおもしろい構成、夢中にならないわけがないのです!
『佐伯さんと男子たち1993』
魅力的な佐伯さんに順番に惚れていくという、可愛らしいアホな男子たち。
森見さん作品に近しいものを感じました。(つまり好み)
素直なアホと賢ぶるアホの男子学生が繰り広げる色恋、絶対おもしろいじゃないですか。
微笑ましくて、アホさに笑えて、もう平和です。
佐伯さんの振る舞いも最後の最後まで裏切らなくて、お話のオチが気持ち良い。
そうこなくちゃね!
という気持ちで読み終えられます。
歯切れのよい終わり方も良いし、佐伯さん争いする男子たちもアホで可愛いし。
序盤にこのお話を置くのは大正解って感じです!
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『ランボー怒りの改新』
終始思ったこと。
なんだこれは……!(混乱と興奮)
飛鳥時代×近代という、コラボ不可能と思われる両者が、しかし成り立っているではないか……!?
この2つは違い過ぎてコラボ無理でしょって思うじゃないですか。
でも成立しているのです。
なんなら、コラボしたことによって奇想天外感が絶妙に生まれて、おもしろいことになっています。
ここまでの情報で、おわかりいただける方もいると思いますが、これはあの大化の改新が舞台です。
でも
私たちの知る大化の改新ではありません。
(そもそも名前しか覚えていないけれど)
しかし、ランボーの介入によって歴史が変わりました。
あの2人を差し置いて、ランボーがかなり派手に大活躍です。
めちゃくちゃだけれど、それがおもしろいのです。
『ナラビアン・ナイト 奈良漬け商人と鬼との物語』
タイトルからもう、おもしろい予感が漂っています。
奈良を舞台に展開するアラビアン・ナイト。
つまりアラビアン・ナイト~奈良ver.~ですね。
その名の通り、複数のお話を語り継ぐというものなのですが、どれも引き込まれるおもしろさです。
想像すると奇想天外な状況で、笑えてくるのに、真剣に読み進めてしまう魔力を孕んでいるなと思うお話たちです。
ナラビアン・ナイト。情緒が感じられるのに、どこかギャグっぽいのも魅力です。
『満月と近鉄』
例えるなら、森見さんの『夜行』や『熱帯』のような雰囲気です。
どこまでが現実で、どこまでが幻なのか。
とても不思議なお話でしたが、素敵なお話でもありました。
現実と幻想とロマンでできている。
読後もなんだか気持ちがふわふわする心地でした。
対談によるとこのお話、多少、誇張しているところはあるけれど……とおっしゃっていました。
え、てことは、大方、事実に基づいているのか……?
なんとも興味深いお話であると共に
満月と近鉄のある夜景風景が脳裏に焼き付く、ロマンチックなお話でした。
「満月と近鉄」を「君と僕」みたいに例えるのも詩的で素敵です。
ちなみに森見さんとの対談は、近しいものを感じる同郷ということで、かなり楽しそうで盛り上がっているように感じました。
読んでいるこっちまで楽しい気持ちになります。
最後に
どの短編もおもしろくて、一番が選べません。
前野さん、お願いだから2作目も出版してください!
まとまりがあって、表情豊かな短編集でした◎
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