本好きの秘密基地

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その日、朱音は空を飛んだ/武田綾乃

今回は武田綾乃さんの『その日、朱音は空を飛んだ』を紹介します。

鮮やかで可愛いイラストの表紙ですが、タイトルからもわかる通り暗澹とした中身です。

朱音ちゃんはなぜ空を飛ぶことを選んでしまったのでしょうか。

そこんところ、解明されるのかしら。

 

目次

 

あらすじ

金曜日の放課後、学校の屋上から川崎朱音は空を飛んだ。

彼女の飛んだ理由を探るために、生徒にアンケートを取った。

これはその内の6人と朱音の心情が描かれた物語

拡散され続ける自殺動画、生前の彼女との関係性、それぞれの視点から見た彼女の顔。

そして生徒たちの心の内。

誰もが心に秘めている承認欲求がどんどん暴かれる。

 

感想

学校のクラスという小さな箱での関係性、それぞれに悩み抱える承認欲求や自尊心の保ち方

どれもリアルです。

リアルすぎて「わかるわ~」「そういう人いるよね~」が止まりません。

共感するものや、既視感、最近よく見たり聞いたりする類のもの。

大人になってもそうだけれど、このお年頃は特に承認欲求が強いと感じます

自分の学生時代を振り返っても、自分や周りが、やっぱりそうでした。

7人とも性格は違うし、求めるものも違う。

でもそれは全て承認欲求や自尊心を保とうとする行為

時代的にも、そういう物事がたくさん増えたんだなということも感じました。

朱音が飛び降りた理由だって、簡単に解釈するならば承認欲求を満たすためなのです(衝撃的理由)

ステータスみたいに承認欲求が全ての時代になっているのかなと、ちょっと怖ろしくなったりもします。

 

朱音の印象が読み進めていくごとに変化していくのもおもしろいです。

人によってその人の印象が違うという事実が明らか。

朱音のことなんて全く知らない私たちは、彼ら視点の印象が頼りなので、だんだんと朱音の本性が見えてきて動揺したり

 

構成もおもしろいです。

各章の冒頭にその人のアンケートが手書きで載っていたり

順番に読んでいくと章タイトルが「回答者:〇〇」なんだけれど、最後に「第〇章 ××~」というサブタイトル的なものが現れたり

そのサブタイトルが、読み終わってからだから思うのですが「まさにこの人はこの言葉(表現)だ!」って思えるしっくりくるタイトルでスカッとしたり。

(巻末にそのサブタイトルのコンテンツが載っていました)

内容も興味深くて衝撃的ラスト。こうして作者さんの遊び心も忍ばせて。

満足感大ありです!

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『1.回答者:一ノ瀬祐介』

彼の承認欲求の満たし方は下衆だなという印象を受けたのですが、このタイプはSNSが中心の現代にはたくさんいらっしゃいます

こうした作品として客観視するから、なんと幼稚で汚い行動なんだ……と率直に嫌悪してしまうのですが、一番ありふれていて、たくさん彼みたいな人がいる

認めたくないけれど、認めざるを得ないくらいに。

探偵ごっこしちゃうところは、ちょっと気持ちわかります。(ボロクソ言っておいて)

部外者が勝手に推察するのは良くないとわかっていても、好奇心が抑えられないのよね……。

それにしてもアレは彼が撒いたものだったとは1ミリも思っていなかったのでびっくり仰天です

 

『2.回答者:石原恵』

女子の大人数グループって傍から見てもわかるくらい、グループ内で上下関係というか役割ができているんですよね。わかるわかる。

下剋上なんてしようものなら、他のこと仲良くしようものなら簡単にハブられる厳しい社会な(全ての女子グループがそんなんじゃないよ)

本人に向かう勇気はないくせに陰で饒舌に陰口たたいたり、あえて聞こえるようにしたりとかもあるある。

それで揉めているのもあるある。(女子って怖いわよ)

 

『3.回答者:細江愛』

彼女はたしかにチャラいけれど、周りより大人で可愛げもあって好感を持てます。

朱音を嫌っていた理由だって、そりゃ嫌うわっていう納得エピソードだし。

雰囲気や考えが大人だからこそ、周りに馴染めず、勘違いされがちな彼女は、ケンカっ早いけれどかっこよくて魅力的でした。

 

『4.回答者:夏川莉苑』

彼女も細江さんとは違う意味で周りと違っていて個性的です。

このお年頃の女子って一人でいたくても群れていないと完全孤立してしまうのですが、彼女は例外。なんだか羨ましいです。

学年トップの頭脳を持つ彼女は、死生観についての考えも凡人とはやはり違いました

きっと祖母に影響を受けたのでしょう。

そんな祖母の言葉は私にも刺さりました。

「相手が死んだ時点で、復讐する権利はなくなってしまう。だから、もしも莉苑ちゃんが本当に許せない相手がいたら、ちゃんと相手が生きているときに面と向かって伝えなさい。いじめはいけないわ、暴力もだめ。正直に自分の気持ちを伝えるの。それが人間関係ってものだからね」

本文P243より

死んだ人の悪口を言ってはいけない。反論できないから。

後悔したくないのなら相手と同じ世界にいるうちに。

武家の作法みたいで、かっこよくて美しい考えです。

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『5.回答者:中澤博』

私このお方嫌いですわ! めっちゃ見下すやん!!

でもそれが彼の自尊心の保ち方なので文句言ってはいけないね。

自尊心を保つことは大事だし、他人に迷惑かけているわけではないしね。

最後、桐ケ谷さんに自分が利用していたはずが利用されていたという真実を突きつけられたときはスカッとしたけれど、朱音の本性がさらに怖ろしくなりました

 

『6.回答者:高野澄佳』

一番の共感です。

私も褒められたくて、良い子と言われたくて、優しくしたりした結果、依存されて自分のしたいことができなくなるというのを繰り返していました。

それを鬱陶しく感じてしまうのもすごくわかる。

突き放しておいて罪悪感を感じ、また繰り返すことも。

莉苑の慰めの説得力は抜群で、根拠がしっかりあって、安心して泣けちゃうのもすっごくわかります。

この時、莉苑がヒーローに見えました。

 

『7.差出人:川崎朱音』

莉苑はこれを読んで全てを悟ったのか……!

莉苑の取った行動は朱音にとっては残酷で、まさに「命取り」だけれど、この世をこれからも生きる彼らにとっては最良の選択だったのかもしれません

勝者は莉苑。この子、大物になりそう。

朱音のたくらみは、恨みの執念を感じる怖ろしいものだったけれど、朱音がここまで狂ってしまったのも仕方がないくらい、共感する部分もあります

振りむいてほしいという承認欲求を満たす方法が、彼女にとっては自傷や自分を殺す、犠牲にする方法だった。

彼女は視野も狭まって、不器用だったのかもしれません。

 

最後に

ただのミステリーと思っていたら、かなり深いリアルな人間の奥底を見せられる濃ゆいお話でした◎