今回はブログ「郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる」のニードルとの読書会
”第3回 本好きのタイマン”
の回でございます👏
今回の選書係はわたくし、はむちゃんがさせていただきました。
栗田有起さんの『オテル モル』です。
第131回芥川賞候補の作品です。
なんだかこの表紙から目が離せなくなってしまって、気になる存在だった本です。
栗田さん初めましてだし、タイトルからも内容が想像つかない。
未知なものへ向かうワクワク感を胸に、ついに読むぞ!
目次
あらすじ
お客様の快眠に力を注ぐ会員制の地下オテル(ホテル)「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」で働くことになった主人公。
オテルの決まり事や造り、お客様までもが変わっていて興味深い。
一方私生活では、これまた変わった事情や家族構成で暮らす主人公。
「誘眠顔」の彼女は、仕事と私生活をうまくこなしていけるのか。
感想
とことんヘンテコでおもしろい設定と、闇のようで光のような主人公の生活。
オテルの存在も、主人公の私生活も、不思議で魅力的なうえに
文章が絵本のように優しく柔らかくて、ボリュームもちょうど良くて読みやすかったです。楽しかったです。
全体として、なんだか温かいという印象。
お客様に快眠を提供するために、たくさんの工夫が施され、こだわりにこだわり、それに伴い規約も細かく厳しいオテル・ド・モル・ドルモン・ビアン(以下「オテル 」)。
地下にあり、入り口も奇妙で、一見さんお断り。
そもそも一見さん辿り着けないだろとツッコミたくなる場所だけれど、一人辿り着いていてびっくり。(あなたどうしてあんな所通ろうと思ったのよ……!)
オテルの建物の設定だけでも、こんなに不思議で魅力的で、わくわくしちゃいます。
これは大丈夫だろうと思うような些細な物事も、オテルの空調を乱して、お客様の眠りに影響を与えてしまうらしいので、従業員はなかなか気を遣ってたいへんそうだけれど、おもしろいし、なんだか主人公は楽しそう。
お客様もかなり個性的で、みんなおもしろいです。
夢の内容も支離滅裂だったりでおもしろい。
本人たちは本気で悩んでいるけれど、こうして読んでいるとクスクス笑っちゃう。(ごめんね)
そもそも夢ってそんなもんなんだけれど。
自分もよく、悪夢見たときに思い返すと支離滅裂ワールドの時があるからなあ笑
(最近だと、家で怪力青虫と格闘するという悪夢を見ました)
経営者が言うには、主人公は「誘眠顔」らしく、この定義もなかなかおもしろい上に説得力があります。
「誘眠顔」の意味を知ってしまうと、失礼な!って思っちゃうんだけれど、いい意味でと言われたら素直に受け入れるしかないよね、希里ちゃん。
たしかにこのオテルのフロントの顔としては最高な顔だしね。
「誘眠顔」の説明時にドスッと来た言葉がこちら。
「あるときは生きいきと生き、あるときは死んだように生きながら、生は燃焼されます。眠りは死のバリエーションのひとつです」
本文P64より
生きている中で、その行動を生と死に分けるなら、たしかに眠りという行動は死に分類されるなと、妙に納得。
死のバリエーションのひとつと言えど、生の燃焼のひとつでもあるのですな。(言っててムズイ)
< スポンサーリンク >
オテルの合言葉「悪夢は悪魔」
言葉だけで聞くと、いまいちわからない。
というわけで、またまた本文から引用!
「ときとしてひとは眠りにおぼれます。自然な眠りだけでは満足できず、むりやり眠りを作ります。むりやりということは、そのひとのなにか大切なものが犠牲にされているということです。大切なものと引きかえにされた眠りに、良い夢が訪れるはずがありません。~省略~むさぼられた眠りは悪夢を呼び、悪夢はそのひとの人生をむさぼります」
本文P170より
悪夢のメカニズムと悪夢が人生に及ぼす悪魔的影響。
説得力ばつぐんな持論に思わず納得です。
むりやり寝ようとしても深く眠れないし、寝付けない間って時間の無駄ですもんね。
寝付けない時間を他に使いたいくらいですもんね。
先ほども挙げましたが、主人公の家庭環境が特殊な点も見どころです。
最初はちょっぴり混乱しそうな複雑な家庭環境ですが、家族の在り方は家族それぞれあるよなと思わされます。(家族の形も多様性かしら)
家族というくくりの概念について、しばし考えてしまう。
それにしても妹よ、トリッキーで自由奔放すぎな。
相手(姉)が彼女出なかったバランス取れなかったろうし、こんなんじゃ済まされなかったろうよ……。
だって私だったら、多分こんなことされたら一生根に持つし、ずっと見張ったりお世話焼いたりしなきゃならないなんて疲れちゃうよ。自分の人生を生きれないよ。
美亜の母親は沙衣だ。そしてわたしは、母親と似た顔をした身代わりだ。手をにぎれば温かいし言葉を話すし髪にリボンを結んでくれるし料理も作ってくれる、ひとの形をしたまぼろしだ。
本文P103より
美亜ちゃん(姪)は間違いなく彼女に懐いているし好いているけれど、この言葉には現実が痛いほど込められていて、胸が苦しくて切ない気持ちになります。
最後に
職場はファンタジーのような設定でおもしろく、私生活は静かに波乱万丈。
どちらの要素も魅力的でした。
場所もわからず会員資格も得られるかわかりませんが、オテル モルに泊まってみたいです◎