本好きの秘密基地

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あやかし草子/千早茜

今回は千早茜さんの『あやかし草子』を紹介します。

紫陽花に身を這わせる白蛇の表紙が、怪しくも美しくて風情があります。

千早さんが紡ぐ妖のお話がどんなものなのか気になります!

 

目次

 

あらすじ

言い伝えや民話などをベースに紡がれた、妖艶で切ない妖の物語6篇。

 

感想

儚くて切なく、感傷的で雅やか。

そんな風情が漂うお話たちで、とにかく上品でしっとりした印象です。

これも千早さんだからこそ出せる物語の雰囲気なのでしょう。

千早さんが描く情景描写や漂わせる儚い雰囲気が、妖にすごく合う

怖さはなくて、神秘的なあやかし草子。

もっとたくさん、こういうお話を書いてほしい。

千早さんと妖話はすっごく相性が良いです。

宮部みゆきさんは人情ものがお上手で、千早さんは神秘的情緒を紡ぐのがお上手

どちらの妖話も好きですが、違いはそこにあり、雰囲気がまた違います。

 

6篇を通してポイントになっているのは人間という生き物の心理です。

妖から見た人間は、たしかに滑稽に見えます。

言われてみて気づく。

なんで人間は、こんなに騒がしいのか(感情が豊かなのか)。

なんで人間は、人を殺めるのか。

なんで人間は、生きた証を残したがるのか。

本能みたいなもので今まで疑問に思わなかったけれど、客観視して見ると人間って不可解ですね

 

一番のお気に入りは『天つ姫』です。

感動して泣いてしまいました……!

読んでいる間はお家でひとりぼっちだったので、なりふり構わず叫んじゃいました。

苦しい! 切ない! 尊い

全話もれなくそんな感じなのですが、このお話は特に傑作でした。

 

『鬼の笛』

冒頭で芥川龍之介羅生門が重なり、どことなく趣が感じられました。

読み終わった直後は、夢から醒めた後のような、ぼんやりとした印象だったのですが、少し経ってくると切ない気持ちが押し寄せて膨れ上がりました(時間差攻撃)

なんて儚くて切ないんだろう。

あと少しというところで、女に芽生えた自我が魅せる幻影や感情に耐えられなくなり、それを失った時の男の絶叫は、胸を切り裂かれそうに苦しい。

それなのに美しい印象が残るのよね。

 

『ムジナ和尚』

人間特有の行動心理や感情に好奇心を持つ古ムジナ。

どうにも解せない人間の目から落ちる水「好き」という感情

生涯かけて添い続け、死をもって、その感情というものを教えてくれた人間の娘。

彼女を失ってはじめて感情を持ち、獣ではなくなった古ムジナの姿に胸が締め付けられる思いでした。

死者を埋める行動心理や喜怒哀楽。

これは人間の素敵な特権です。

人間は余裕があるから余計なことをするのではないかと。苛めとか、踊りとか、快楽とか。そして、そこから好きとかいう言葉が生まれてくるのではないかと。

本文P66より

獣から見た人間。おもしろくて素敵な生きものじゃないの。人間っていいな。

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『天つ姫』

なんて強くて逞しいお二人。

もう最高。神々しいくらい最高に尊いよおおお!(やかましい)

人と人ならざるもの。

その両者の間にある信頼と絆のと親愛

それがずっと永年、杉と楓の姿となって寄り添い、合体して佇み存在し続ける

ロマンチックだ。神話のようだ。

粋な生態を持つ天狗、その頭の梁星のかっこよさを、痺れるほど感じるお話でした!

ちなみにお話のモデルとなった杉と楓が合体した「連理の杉」貴船神社の奥宮に存在するそうなので、是非とも訪れたいです。

 

『真向きの龍』

生きることに飽き飽きとしている男が、自分の想いに気づく。

想いを形にして残したい。

自分の想いを、自分自身をなかったことにしたくない。

所詮、欲望のある彼はまだ人間なのだ。

それに気づかせてくれた神のような龍への想いを形にして残すことが彼の使命となって、人々を救うことに繋がった。

深いお話でした。

「我らの在り方も受け入れられはしない」

「お前は下界で足掻くのが似合いぞ。人がそうでなくては我らは面白うない」

本文P173より

男を突き放すような龍の言葉はかっこよくもあり、切なくもあります。

 

『青竹に庵る』

ゾッとするような不気味さもあり、でも神秘的

主人公の生まれも同じくゾッとする衝撃的事実だけれど、神秘的。

自分の方がたいへんな身なのに、主人公に飴をくれた優しい子に恩返しをするために悪事に手を染めた主人公

間に合わなかったという苦しい気持ちと、それでもその子の口に飴を返す主人公の行動に、胸がぎゅっとなりました

甘さを教えてくれた子が、主人公には無いと思っていた心がしっかり存在するのだと教えてくれた。

やりきれない切なさと、それでも最後に光が差す妖艶なお話でした。

 

『機尋』

紅が逞しくてかっこいい。

子供だからこそ成せる勇者的振る舞いに思います。

絶体絶命状態だったのに、脱出成功して、今までの犠牲者も救い出して、更には当人も救っちゃう

小さきヒーローだ。

めでたしめでたしなお話しなんだけれど、こちらも涙腺が緩む感動的なお話しでした。

最後にはちゃんと思い出せて、誤解も解けて、お互いの真の気持ちが伝わって嬉しいけれど、やっぱり切ないな〜。

自身の変わった外見や障害といった個性を、前向きに受け止めて認める強さ。

この部分に関しては、現代でも通じるものがあります

紅と柳の関係性も素敵でした。

 

最後に

怪談のような怖さのない、ただただ美しく切ない麗しいあやかし草子でした◎

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