本好きの秘密基地

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神様の暇つぶし/千早茜

20230322125654

今回は千早茜さんの『神様の暇つぶし』を紹介します。

表紙もタイトルも素敵で一目ぼれ。

そして千早さんは最近、私の中で勢いのある作家さんという認知をしております。(お初です)

大人の恋愛小説っぽい雰囲気が漂っていますが、どんなお話なのかな!

 

目次

 

あらすじ

20歳の夏、初めて心惹かれた男性は父より年上の写真家だった。

彼の遺した写真集の存在によって、当時の記憶が次々と蘇る。

 

感想

きれいな描写と表現で彩られた物語は、たった一夏の出来事なのにダイナミックで、痛いほどに美しい

主人公の静かな激しい感情の熱に、どんどんほだされて、のめり込んでしまう。

惹きつけられて、夢中になってしまう。

冒頭の詩的な文章に自然と引き込まれ、何かが起こる前触れのように気分が高揚する。

出だしの展開がミステリーのように適度な謎を漂わせて、もったいぶり、過去に何があったのかが気になる。

そして全貌と、それを思い返した主人公の心の変化に、感動の波が押し寄せる。

完璧な構成でした。

たった一夏のお話とは思えないほどの濃密さと激動

主人公の揺れ動く感情にドキドキさせられました。

終わってほしくないと何度も思いました。

もどかしさに胸が焼かれる思いでした。

 

コンプレックスが原因で女を捨て、恋愛を諦めてきた主人公

そんな彼女が初めて、少しずつ抱く異性に対する意識、欲求、嫉妬

彼と一緒にいるときの自分の感情に動揺するも、恋愛感情とは認識しない初々しさ

認識した後の、彼以外は見えないくらい夢中に求める猪突猛進な感情

どの心理描写もわかりやすく、きれいで詩的。

そんな表現、どうやったら思いつくの……と、文章にも惚れ惚れしちゃいます。

 

食事シーンが頻繁に登場するのですが、その描写もすごいのです。

美味しそうに表現するので、私も食べたくなる。食欲をそそられます。

特にビールが飲みたくなります。

どんな状況でも食べることは大切なのだということも伝わります。

ちなみに表紙には林檎が飾られているのですが、お話に登場する象徴的な果物はなんですよ。

どうして桃ではなくて、林檎なのか。

おそらくタイトルの「神様」と、主人公と彼の関係を掛けたのかなと感じました。

手にしてはならない。けれど、禁じられるから魅力が増す。欲しくなる。

神様がアダムとイヴに禁じたという禁断の果実のような、2人の関係

そう考えると、表紙の写真が奥深く見えます。

 

彼は神様のようで、あの写真集や2人の時間は、彼の暇つぶしであったのだと思い込んでいた主人公。

ついに思い立って、彼の写真集を開いた彼女は、彼の真意に気づきます。

彼にとっては、自分が神様だったのだと。

写真からあふれ出す、彼が感じたであろう性や生の力強さ

彼がいなくなってずいぶん経ってから、お互いがお互いを大切に、神様のように思っていいたのだと気づく

切ないけれどこれからは、彼との一夏が美しく素敵な記憶として、主人公の中に存在するのだと思うと、感極まります

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個人的には、主人公の同級生である里見という男の子が印象的で、とても好きです

自分をしっかり持っていて、周りにどう思われようと曲げずにぶれない。

献血する理由がただの善意じゃなくて自分のためっていうところがまた、かっこいいなと思います。

そして皮肉屋で冷酷そうでいて、主人公と一定の距離で話を聞いてくれるところも好きです。

主人公が彼との関係に後ろめたさを感じて苦しんでいる時に、里見が放った言葉がとてもかっこよくて、胸に刺さりました。

「自分でそう思うならそうなんじゃない。人に言われたことを鵜呑みにするのは、頭の悪い奴がすることだ」

本文P203より

力強いお言葉。

そ、そうですね……。き、気をつけます……笑

周りの批判を鵜呑みにして、自分の本心を抑えつけるクセ、正そうと思います。

「みんな自分の恋愛だけがきれいなんだよ。不倫してようが、歳の差があろうが、略奪しようが、自分の恋愛だけが正しくて、あとは汚くて、気持ちが悪い」

本文P207より

その通りだなと思いました。

自分がそういう恋愛をすると正当化するのに、他人のそれは気持ち悪いとか酷いとか糾弾する

つまり、周りの言葉なんて気にするなということだ。

 

彼が主人公の前から姿を消した時の心情が、しっくりくる表現だったのでご紹介。

私は変わったんじゃない。

変えられたのだと思いたいのだ。傷つけられたのだと。今はもう傷しか残っていないから、何度も何度も自分でかさぶたをはがし、痛みと見えない血が流れるのを感じて、あのひとのつけた傷を確認したいのだ。

本文P270より

未練を引きずっている時の、心の抉れるような痛み

こんな風に表現できるなんて、千早さんすごいです。

 

彼は自分をなぜ捨てていったのか。

一瞬だけを求めた彼が、主人公との一瞬のその先を望んでしまったから。

こんな愛おしい理由が最後に突きつけられるなんて。ずるい。(憶測だけど)

でもきっと、本当にそうなんだろうなと思います。

写真集に愛が溢れていたのだから。

思い出したら泣きそうです……。

 

最後に

美しい表現と極上の物語。

何度も何度もこのお話の中に浸りたい、お気に入りの一冊とまりました◎

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