SNSのフォロワーさんが三島由紀夫さんのおすすめ作品アンケートを取っていたのを機に、有名作家さんだから私も読んでみたいと思ったのがきっかけです。
代表作がたくさんあるのですが、まずは多く名が挙がっていたこちらをチョイスです。
帯もね、こんなこと書いてるからね、おもしろいとお墨付きをもらったようなもんです。
目次
あらすじ
自殺未遂をした主人公は、新聞に「命売ります」という広告を出し、自分の命を売る商売を始める。
彼の命を買いにくる者が訪れ、その度に死へのカウントダウンが開始される。
たったひとつの命は、毎回危機一髪、無事に残って帰ってくる。
あんなに死にたがりだった彼は、死にたくなくなり……。
生きるという本能を生々しく描いた、ひとつの命の物語。
感想
隠れた怪作小説という事前情報があったものの
予想以上のぶっとびぶり。
命を売る広告を出すという設定が既にぶっとんでいておもしろいのですが、売ることで発生する出来事とその展開も奇想天外で、ハラハラドキドキです。
展開にスピード感があり、さらに目が離せないようなドタバタ劇で、あれよあれよと終点(読了)まで来てしまったという感覚で、本を閉じ呆然としてしまいました。
これは本当にお見事です。
心に残らないわけがないってくらいインパクト強烈エンターテインメントです。
主人公の発想がセンス大ありで、そこが物語のスパイス的役割を担っているように思います。
自分では死ねなかったから、じゃあ他者にどうにかしてもらおうと考えた結果「命売ります」という商売を始めちゃうところとか。
自宅兼事務所に「ライフ・フォア・セイル」という札を掲げたり、依頼中はそれを裏返して「只今売切れ中」とするところとか。
デンジャラスな商売なのに、軽くてユーモアがあるのです。
彼に怖れるものは何もないという無敵感が、この軽さから伝わってきます。(後にそうもいかなくなるんだな~)
毎回スリリングな状況が、幸か不幸か彼のもってる体質でコミカルになってしまうのも魅力的です。
死にに行っても、なかなか死ねないの。
死にたがりの彼は、皮肉にも生命力がバカ強いのでしょうな。
主人公だけじゃない。
買い手も不可思議な人ばかりです。
命を買おうとするんだもの。そりゃ尋常じゃないのよ。
もれなく皆おかしい。
だからおもしろい。
この命の売り買いドタバタ劇場は、終盤でまさかのどんでん返しが待っています。
裏でそんなことになっていたのかよ……! という驚き。
そして壮大なとんでもない勘違いがひとり歩きして、こじれるこじれる笑
一旦皆さん冷静に! と叫びたくなるけれど、私もじつは冷静ではいられない。
ああもう、これは一体、何がどうなってしまって……。
そうだ。そもそもあなたが命売りますなんて言うからよ!
命を売るなんて、正気の沙汰じゃないのよ。(何を今更)
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主人公が死にたくなったのは、おそらくブランクを感じたからなのかなと思います。
今までお仕事絶好調だったのに、急に言葉が、アイデアが自分の前から逃げ消えていくような感覚は、きっと絶望的だったのでは。
もうやってらんねえぜ! って思っちゃったのかな。
最終的にこの世界もまるごと嫌になっちゃったぜ! って感じなのかな。
この世界にまで絶望して嫌になっちゃう感じとか
それでも生きることへの執着や不安とか
もしかしたら当時の三島由紀夫さん自身の本音も入っているのではないかな。
三島さんの生涯をざっと見た後なので、重なって見えます。
作中で命のことや生と死についての論理や考えがよく登場します。
その論も力強くて熱を帯びているように感じます。
「人生も政治も案外単純浅薄なものですよ。もっとも、いつでも死ねる気でなくては、そういう心境になれませんがね。生きたいという欲が、すべて物事を複雑怪奇にみせてしまうんです」
本文P159より
自分が今悩んでいることも苦しんでいることも、広い目で見ると案外ちっぽけです。
死ぬわけじゃあるまいし、死ぬよりマシっていうものばかりです。
生きることに執着するからなんでも難しく、たいへんに感じちゃうんですね。
でも複雑怪奇でもいいから、生きたい欲は大事だからね。(もうこの言葉がすでに複雑怪奇だぞ)
最後に
生と死の狭間から生まれるスリルとまさかのコミカル。
でもね、命を売ってもろくなことにならないよ。(当然だ)
発想がとんでもなくおもしろい、独特でハチャメチャなお話でした◎
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