今回は町田そのこさんの『ぎょらん』を紹介します。
ブログ「郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる」のニードルさんに、1年ほど前に紹介していただき、文庫化を待ってついに読みました!
町田そのこさんの作品は読みやすく、押しつけがましい感じもないので素直に感動できるものが多い印象です。
好きな作家さんのひとり。
今作は、あらすじを読んだ感じだと好奇心そそるおもしろい設定。
そしてその先には感動がある予感。
ハードル上がっておりますが、きっと軽々と飛び越えてゆく作品だと期待しています。(だから期待するのがハードル上げるんだってばよ)
目次
あらすじ
死者が死に際に残す赤い珠「ぎょらん」。
ぎょらんを口に含むと、死者が死に際に願ったことや想いが流れ込んでくる。
そんな都市伝説のような「ぎょらん」を巡る7編の死者と生者のお話たち。
感想
どのお話も目がうるうるです。
帯に「涙が止まらない」と謳われると身構えてしまって、結局泣きませんでしたっていう経験がたくさんあるのですが、これはたまらない。
序盤は「このお話は泣かないな」と余裕こいていても、終盤では目がうるうるで、じんっと来ちゃっています。
町田さんの他作品もそうなのですが、ただの優等生小説のような、ありきたりなお涙頂戴ではないんです。
登場人物の人間くささ
思うように運ばないリアルな展開
様々な視点からの考え
だから素直に読めるのです。
感情移入しちゃうのです。
どうせこの後こうなるんでしょって王道の展開を予想をしたら、厳しい現実的な展開に進むから、白けないのです。
泣くものかって抗っても、心動かされるんです。
「ぎょらん」は様々で、幸せに満ちるものもあれば、憎しみや恨みに支配されるものもある。
これがまた良いなと思いました。
全部の珠が感謝や愛の念だったら、お話に深みが出ないじゃない?
きれいごとオンリーだとガツンと来ないじゃない?
人間の醜い部分もやっぱり必要だし、優しすぎると響かないのです。
その按配がうまく構成されていて、まことにあっぱれでした。
死について真剣に考えてしまう。
自分の身にも訪れるし、周囲や大切な人にも訪れる瞬間。
それは唐突に訪れる。
死者も残された者も、後悔は絶対に残る。
だけど少しでもやり残したことがないようにしておきたい。
会いたい人に会ったり、伝えたいことを伝える。
目の前に当たり前のように存在する大切な人を、もっと大切にしたい。
生きている時間が愛おしくなって、噛みしめたくなりました。
時間がいくらあっても足りないとも思いました。
全話を通して活躍する朱鷺(トキ)がもう魅力的な人物なんですよ。
第一印象は情けないものですが、妹想いで、親友想いで、真面目で繊細で、でも実は熱い人。
口調がおもしろくて、かわいらしくて、応援したくなる。
お話ごとに成長していく彼の姿も楽しみでした。
朱鷺と妹の関係性が特にグッときます。
正反対な二人ですが、お互いにお互いを真剣に想っていて、最高の兄妹です。
『ぎょらん』の終盤は、朱鷺がダサいながらも最高にかっこいい兄上に見えましたし
『珠の向こう側』での兄弟の衝突は、迫力にビビりましたがお互いを受け止めるための衝突であって、兄妹愛に尊さを感じました。
※ネタバレ区域※
ネタバレというか各話の考察を含むので、未読の方はお気をつけ願います!
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『ぎょらん』
妹の恋人のプロフィール設定にびっくり続きで狼狽。
正直最低な男。でも妹の心理描写がピュアで、甘さとか愛が強くて、恋は盲目と言うけれど、二人の恋を肯定したくなりました。
朱鷺が珊瑚を「ぎょらんだ」と言い張って噛み砕き、妹の望む言葉を即興で並べた場面は、朱鷺の不器用さと優しさが胸を震わせました。
『夜明けの果て』
愛とか恋とか、そんな感情のないまま共に生きた。
でも失ってやっと、自分は夫がちゃんと大事だったと気づいた。
失ってから気づくことって多いけれど、やっぱり切なくて苦しいです。
夫のぎょらんがあったのなら、彼の抱えてきた罪は許されたのか、生き方は正解だったのかという答えが閉じ込められているかもしれない。
でもそれを知るのは今ではない。
主人公も人生を全うした時に、その答え合わせを。
ロマンチックな締めくくりでした。
『冬越しのさくら』
葬儀社の裏側を知ることができ、暗いだけのイメージが変わりました。
母の葬儀のエピソードが大好きです。
あのカーネーションが生きる希望と確固たる夢を与えてくれた。
あのカーネーションが今でも彼女を生かしている。
葬儀社の人たちは、残された人たちに生きるための何かを与えてくれるのですね。
素敵な職業じゃないか。
『糸を渡す』
複雑な関係に複雑な心境。
ボランティア先のおばあさんが母を育てた人だった。つまり祖父の愛人だった。
衝撃がすごい繋がりよね。
繁子さんの最期に会いに行かないという決断。
せめて遠くで出棺を見守るだけに留めた行動。
より単純ではない現実味を感じさせ、強く切なくさせられました。
会いに行っちゃっていたら、ありふれた感動作で止まっちゃうから、切ないけれどすごく良き。(辛口)
ネックレスだけという部分に、母の素直な敬愛が秘められているのも最高であります。(朱鷺口調)
『あおい落葉』
葉子の執着心や束縛は、度が過ぎていて怖いけれど、思春期の歪んだ友情ってこんな感じだなと納得する部分もあります。
葉子の抱えていた本音を知った時は、主人公のやりきれなさがどれほどのものかと痛感しました。
でも恨まれていなくて、本心も知れてスッキリ前に進める。
タイムカプセルの手紙が、意外にもお互いに想いが一緒なのも、本当の親友になれる未来があったと見えて感動です。
『珠の向こう側』
母は偉大ですね。
強くて、子供のことは何でもお見通しってわけだ。さすがです母上。
朱鷺にかけた言葉たちが涙腺を刺激します。
朱鷺の気持ちが整理できたら伝えるって、二人で約束していたんだね。
「やったじゃん」「間違ってない」こんな心強い言葉、部外者の私でも泣いちゃいます。
七瀬さんサイドも、とても素敵なラストでした。報われたね……!
エンディングノートってかなり重要だなとも感じました。
「ぎょらん」は死者ではなく、残された人の思い込みが形になったものという可能性にも驚きと納得です。
結局のところ「ぎょらん」の正体がはっきり結論や答えが提示されないままっていうのも味がありますね。
『赤はこれからも』
コロナで亡くなった人ってお葬式どころか、立ち合いもできなかったの……!?(知らんかったぞ)
直葬よりも寂しい。
生き別れて、お骨で帰ってくるってそんな辛いこと……。
過保護すぎて鬱陶しくて、邪険にしてしまった後悔。誰しも経験あることでは。
喧嘩別れになってしまったけれど、姉の周囲から彼女の本音を聞いて、自分がとても愛されていたこと、お決まりの生チョコタルトの意味(思い入れ)がわかって、さらに切なさが増しました。
伝わっている。ちゃんとお姉ちゃんに「大好き」は伝わっているはず……!
そして朱鷺が今もなお「ぎょらん」研究していることにほっこりしました。
最後に
生きている全てのものが愛おしくなる素敵なお話たちでした。
皆よ、もれなく泣くぞ。
ニードルさん、ご紹介ありがとうございました◎
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