今回は寺地はるなさんの『夜が暗いとはかぎらない』を紹介します。
第33回山本周五郎賞にノミネートされた作品です。
タイトルの響きがかっこよくて気に入り、手に取りました。
かっこいいし、優しそう。希望に溢れていそう。(あらすじ知らずに第一印象)
目次
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あらすじ
暁町にある「あかつきマーケット」のマスコット「あかつきん(着ぐるみ)」が失踪。その町の人々の日常と悩み、葛藤が描かれた13の連作短編。その背景に失踪中のあかつきんがちらほら。
あかつきんの失踪原因、失踪中の善行の目的はなんなのかも合わせて。
感想
老若男女の悩みや葛藤が出てきますが、どれも身近に感じるような悩みで共感しました。
広い目で見れば、大きな悩みではないけれど、葛藤している張本人からすればとても深刻で、漠然とした不安を抱えている。
自分も通ったことのある道(悩みや葛藤)もあれば、経験したことのない葛藤を持つ登場人物もいますが、どれも生きづらさを感じる、悪戦苦闘しているのが伝わってきました。
でもタイトルにあるように、最後は誰かに救われたり、答えを見つけたり、克服したりしていて、暗くはない。ちゃんとトンネルを抜けていきます。
その背景であかつきんがモブキャラのように出てくるところが、『ウォーリーを探せ』をしているような感覚でおもしろいです。急に出てくる。あ、あかつきん発見! みたいな。文章なのですが。『文章の中のあかつきんを探せ』みたいな。(この表現で伝わる?)
各お話の登場人物に深く関わらない、背景みたいな感じが逆に良いと、個人的には思いました。
この作品、ひとつ難儀な点がありましてですね……。
登場人物が多すぎる!
短編集だから当然なのですが、だいぶ前のお話の人が繋がっていたりして「この名前聞いたことあるな。どっかで出てきたな。誰だっけ。何している人だっけ……」というのを繰り返して、読むことを何度も中断してしまいまして。
最終的に登場人物の相関図づくりを並行して読んでいました。そうしたら「そことそこがそう繋がっているのね!」と楽しくなりましたのでみなさん、読むときは紙とペンを用意しておいてください。登場人物が出てきたら書き足していってください。でないと、大体の人は迷子になると思います。たぶん。
全話に感想を書いていたら長くなってしまうので、今回は13話の中で、私が好きだった話についての感想を書いていこうと思います!
『リヴァプール、夜明け前』
サエキさんがかっこいいお母さんで、この作品の登場人物の中で一番好きです。
サエキさんくらい力を抜かないと、お母さんという立場はやっていけないだろうなと思いました。サエキさんは母親としてだけでなく、人としても魅力的でした。
『蝶を放つ』
さっきの主人公の旦那さんがちらっとでてきました。同僚として。
葉山さんの衝撃的事実に、完全に引き込まれました。それにサラっと気づいていて交わす時枝さんもすごい。そして最後、きれいでした。ちょっと時枝さんにキュンってしました。だからだよ! だからモテるんだよ! 罪な男め!! (私も惚れた)
『赤い魚逃げた』
このお話は好きというか鳥肌が立つほどの衝撃で印象に残りました。
あるよね、親の束縛が脅迫、呪縛になって途方に暮れるの。(私はないけれど)
『声の色』
雪野さん、恋人いたんかい!
山口さん、しんどそう。相手の心が読めちゃうの、知りたくもないことまで知っちゃうし、それで不安が増すこともあるし。
いやもう、別れて、そこの二人付き合えばいいじゃんって勝手にお節介な感情が湧きました。
雪野さんもモテるのね~。
『ひなぎく』
好きの多様性ね。これはずっと人類の課題でしょうね、いつの時代も。
「でもわたし、いいと思うんです。浦上さんの『好き』は、ただの『好き』で。『友だち』とか『恋愛対象』とか細かくパターンを分類しなくても。その人の好きは、そこ人だけのものです」
「世間にすでに存在するパターンに当てはまらないからって、ほんとに人を好きになったことがないなんて決めつけられたくない。そう思いませんか」
本文P150より
かっこいい! このセリフだけでもかっこよくて感動なんですが、これを言ったのが葉山さんなんですよ。成長したなあ、葉山さん。ちゃんと飛べてる。(親目線)
個人的には、ひなぎくのような人のことをもっと詳しく知りたかったです。
『消滅した王国』
小中学生女子の半分は経験していそうなリアル女子親友事情。(勝手な憶測)
私は経験ないですが、友人が似たような経験をしたのを聞いたことがあります。(ちょっと日本語が変)
ずっと仲良し、でも大きくなるに連れてお互い違う世界ができて。違う子と仲良くしていると、嫉妬して、裏切ったと言われて。女子あるある。
人間は、タイプ別に色を塗り分けられるような単純なものじゃないから。
一色で塗りつぶせるような単純な人間なんかいない。
本文P174より
この言葉は刺さりました。たしかにな。人間はいろんな面を持っているからね。色分けとかみたいに、一言で表すなんて無理です。それは、そのひとの一部でしかない。
『はこぶね』
千ちゃんかこいい!
千ちゃんみたいに素直に、自分のやりたいことを、正しいと思うことを行動に移せたら。ちょっと、今村夏子さんの『こちらあみ子』のあみ子みたい。
『ビバルサの船出』
トキワサイクルのおじいちゃんの孫のお話。
ビバルサっていう動物、実在しました。もののけ姫の乙事主みたいな姿。
初めて見ました。衝撃。
少し話したことがあるだけの同級生。いなくなってから、もっと話せばよかったと思う後悔。失ってから気づいたり、後悔したりすることばかりですよね。私も今いる人たちを、当たり前に思わず大事にしていきたいです。
あかつきんの失踪の真実は計画的ではなく、恐怖から。
失踪劇はアドリブだけれど、若干計画的。
あかつきんになって見えたもの。得られたもの。
それを語っちゃうとネタバレになるので、読んでからのお楽しみということで!
でも最後の、ぎこちないけれど心を開き合う親子のシーンは一番の感動で、心が温かくなりました。
最後に
共感できる登場人物たちを通して、生きづらくても暗いばかりではないということを改めて思いました。そして、どんな人でも悩みや葛藤を抱えて生きているということも。