今回は原田マハさんの『#9(ナンバーナイン)』を紹介します。
妖艶な雰囲気の表紙デザイン、帯の一生、手放せない絵。一生、忘れない恋。というキャッチーな言葉、タイトルの謎めいたかっこよさに惹かれて迷わず手に取りました。
私の好きな作家さんだし。(ここが一番の決め手でもある)
帯の言葉から、恋愛小説ということは間違いない。そして絵画が関係していることも。
最近、甘々な恋愛小説は苦手になっている私ですが、大人の恋愛小説っぽいので、さらに原田マハさんお得意の「×絵画小説シリーズ」なので(勝手にお得意&シリーズ呼び)期待が高まります!
目次
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あらすじ
自分の職に不信感を抱き、やりがいを感じられない女性が、ある男性と出会い、人生が一変する。それを機に上海を舞台にして大恋愛、現地での友人、現代美術に魅せられていく物語。
タイトルの『#9』とは一体何なのかも彼女の上海での出来事を辿って判明していく。
感想
まずは何を語ったらいいのか。すべての出来事がすごくて、読後はとにかく「すごかった」しか出てこなかったです……!
簡潔に表すならば日本版シンデレラストーリーです。
シンデレラストーリーと聞くと、きれいで甘々なものを浮かべますが、一味違います。
たしかにきれいで、甘々なロマンチックシーンもありますが、それで終わらないところが最高でした。
「あなたの小指を、貸していただけませんか」というくだりに悶えたし
リングケースの中身にも悶えたし(このシーンは粋すぎてひとりで叫びました)
二度目のリングケースの中身も素敵だったし、タイトル回収かと思ったし(ちょっと違った)
現地まで誘って本物を渡すシーンのやりとりに悶えたし、官能的なシーンにドキドキしました。
こんなに甘々なのに、抵抗することなくのめり込みました。もうずぶずぶ。久しぶりに恋愛小説で悶えるほどのめり込みました。たぶん有川浩さんの『植物図鑑』以来。しかもそれ、私が高校生の時だし。
ここまではもう素敵が溢れる夢のような展開でした。
しかしなんと、現実はそう甘くないわけですよ。
彼の本性が出てくるともう、そういうことだったのか……となるのです。計算高くて、欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れようとする。権力と金で動かす。傲慢さと貪欲。まさに王様。
今までのギャップに私も凍り付きました。おそろしかった。
「この館にある文物のすべては、中国人民、そして王剣その人の欲望の化身です。欲望とは、すなわちイマジネーション。本当に欲しいものを手に入れるには、イマジネーションが必要なのです」
本文P166より
このアーティストに、未来があるかどうか。
想像力が重要なんだと、ようやく身をもって理解できるようになった。
本文P197より
彼は欲望を満たすために想像力(イマジネーション)を働かせて、手に入れるまでのシナリオを考えて、手に入れてきた。そう考えると腑に落ちます。
作家が生存しているときの作品の価値。これも自分の想像力を駆使して、価値が上がる作家なのかを想像できるかどうか。その判断は難しいですよね。大体亡くなってから、価値が上がるから。その先を読まなくてはならないわけですから。
本性が王様気質だった彼ですが、最後、またまたリングケースのくだりがあって、ちょっと彼なりの誠意を感じてかっこよくみえました。かっこよく登場してかっこよく去る。
ここまで来ると、一生忘れられない恋ってこの人なのかなと思うじゃないですか。
まさかの違う人だったというオチィィ! あれは前菜に過ぎなかったというのか……!
やられました。そっちか。(ひとりで盛り上がってすみません)
ここで#9が何なのか、どうして#9なのかが判明するのです。
一生、手放せない絵。一生、忘れない恋。
これだったのか。このことだったのか。たしかに手放せないし忘れない。私でもそうなる。こんなの、忘れろなんて方が酷だ。
聞こえなくてもいい、と思いながら、私は呟く。
「あなたは、どんな絵を描くのかな」
「いつか、見てくださいますか」
風に乗って、確かにそう聞こえた。
本文P263より
先ほどの情熱的で王様な彼とは真逆の、穏やかなロマンチックシーン。このシーンが一番好きです。静かに悶えました。(ちゃんと悶える)
ちなみに、数年後の二人のお話も愛ある真実が判明して、泣きそうでした。
この物語の中で、彼は一番素敵でした。こんな姿になってまで……泣
冒頭から謎に包まれていた絵画は、ここまで読めば
どんなに希少価値のあるものか
どうして彼女が誰にも詳細を明かさないのか
#9はタイトルなのか、作家名なのか
どうして#9なのか
はっきりと、そして、どっしりと伝わります。
この絵の背景には、二人しか知らない感情や真実があるのですね。
この物語を読んでいる時、行ったこともない上海に、私も旅している感覚になりました。知らない国なのに、登場人物とそこにいるような感覚。
私は中国に行きたいと思ったことがなかったのですが、私も上海や朱家角の放生橋(読み方忘れた)へ行きたくなりました。
「私、上海二回目なんだけど、完全に恋しちゃった。上海って、負けん気が強い美人みたい。力があって、輝いていて、怖いもの知らずで。みんな、その魅力に夢中になってしまうと思う」
本文P135より
このセリフに共感しました。凛とした美人な女性っていうイメージ。(行ったことないけれど)
最後に
原田マハさんの描くラブストーリーは、程よくロマンチックで私の好み確定です。
同じくラブストーリー路線と聞いているデビュー作『カフーを待ちわびて』も積読しているので、期待が高まります◎
これで私も再び、きゅんきゅん系恋愛小説を好めるようになれるかもしれません!