今回は原田マハさんの『楽園のカンヴァス』を紹介します。
第25回山本周五郎賞受賞、『王様のブランチ』BOOKアワード2012大賞などの各メディアでも評判、話題になっている作品です。
私は原田マハさんの描くアート×ミステリー作品が大好きです。(この作品入れてもまだ3冊しか読んでいないけれど確定事項)
手に取った経緯も、そういう事です。(雑な説明)
目次
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あらすじ
アンリ・ルソー作の『夢』と酷似した絵画を持っているというコレクターが、その絵画を2名のルソー研究家に真贋(本物か偽物か)を期限内に確かめてほしい、そして説得力のある方にこの絵画を取り扱う権利を譲るという依頼をした。真贋の判断は、絵画に関連する「7章からなる物語」をヒントにして見極めていく事に。
『夢』と酷似した『夢をみた』はルソーの本物の作品なのか。そして突如浮上したこの絵画が秘めている謎は解けるのか。
感想
簡潔にこの作品を表現するならロマンを含んだ壮大なアートミステリー。
まあまあ長編で時間がかかりましたが、最後の方(第九章あたり)から続きが気になるくらい謎が出てきたり、その謎が繋がったり、解明されたりとおもしろさが加速していきました! そこからは一気読みしました。止まらなかった。止まれなかった。
この作品の素敵な部分はたくさんあって、アートミステリーとしても魅力的なのですが、全体的にロマンで溢れています。読んでいてうっとりします。
ミステリーなので緊迫感とかはもちろんあるのですが、その中に時々ロマンチックな展開が出てきて、これぞ芸術だなという感じ。
ルソーとヤドヴィガの関係
ティムと織絵の間に漂う空気
コレクターのバイラーが『夢をみた』に執着した理由
急に現れた謎の女性と著者の正体
暗号化されたあるメッセージ
最後の2行のセリフと描写
挙げるときりがないのですが、こんなにも謎めいたロマンと素敵展開が目白押しなんです!!
謎とロマンは相性が良いらしいです。どちらも引き立つ。
そのために、私は、この絵を描いた。そのために、私は、画家になったんだ。
君に、永遠の命を与えるために。
さよなら、ヤドヴィガ。私はいくよ。ーー幸せに。永遠に、幸せに。
本文P355より
この文に一番、儚さと美しさを感じました。感動してちょっと目頭熱くしました。
絵の中で君を永遠に生かす。
終始全部読まなくても、もうこの文だけでグッと来ません?(でも全部読むべきよ)
私は思想家のルソーが浮ぶほど、画家のアンリ・ルソーの事に関しては無知でした。この作品はルソーの人生や評価も書いてくれている「ルソー」の教科書みたいなものです。
この作品を読んで私はルソーの人柄が好きになりました。恵まれた環境ではないけれど、自信家で努力家、惚れた女性に絵を描いて贈るというロマンチストで純粋な心の持ち主。
かわいらしいくて憎めない人物だったんだなと思い、興味を持ちました。
彼が生きている間に評価されたかったですね……
※ここから先はネタバレ要素を含んでいたりしますので、まずいと思ったらすぐ引き返してください。
「彼の妻が、ルソーとともに『永遠を生きる』ために。どうしても、この作品を手にして、守り抜きたかったんだ」
本文P398より
怪物という異名を持つバイラー、実はいい人じゃん。(予測だけれど)
そして、ヤドヴィガは2人の男性から大切にされていたという隣人愛的感動。
さらに3人の関係が現代ではありえないクリアで愛しかない関係性。
ルソーを激推ししていた人物としてピカソが出てきます。どんな人物(性格)だったのか私は知らないのですが、少なくともこの作品に出てくるピカソはかっこいい。そんなイケイケピカソの名言を2つお納めください。
美とは、いくら思いを寄せても決して振り向いてくれない気位の高い女に似ている。なんとつれなくて、むしゃくしゃさせるものなんだ。
本文P186より
喩えが秀逸。美術についてとことん考える人の境地なんでしょうね。追求し過ぎてむしゃくしゃしちゃうのね。
傑作というものは、すべてが相当な醜さを持って生まれてくる。
この醜さは、新しいことを新しい方法で表現するために、創造者が闘った証しなのだ。
本文P189より
特にピカソを代表する「キュビズム」などの近代美術が分かりやすいです。ルソーもそう。これも画家にしかわからない境地です。かっこいい。
突然出てくる謎の女性についても
既視感がある、エキゾチックな……という特徴からして「ヤドヴィガじゃない?絵の中の」と思っていたら、それの更に上の事実が判明し、ひとり興奮していました。なるほどね、それなら似てるね!
物語の著者が判明した時は感動しました。最後はちゃんと2人は愛し合っていたのだろうなと伝わってきました。
ジュリエットの瞳がルソーに似ているっていうのも、もしや……?
『夢をみた』の真贋(多分真作)、下にブルーピカソがダブルワークとして埋もれている説、アルファベットの意味(多分PASSIONであってほしい)は謎のまま話は終息しました。謎を残したままというのが、読後にいろんな思いを馳せることができて、意見交換もできて(相手はいないが)楽しいです。
私個人の考察
『夢』と『夢をみた』はどちらも真作で、『夢』の下にブルーピカソが眠っているのではと思います。そしてヤドヴィガの表情や手の形からして『夢をみた』を描いた後、『夢』を描いたのかなと考えています。
最後の力を振り絞って、めい一杯の情熱と愛で、この2作を。
そう解釈しています。(みなさんはどう思う?)
最後に
ミステリーだけを目的に読みましたが、ミステリーもしっかりとある中に感動、愛や情熱ロマンも程よくあって、想像以上におもしろい作品でした。読後の心がポカポカでした。
ルソーの事、ルソーの作品をもっと知りたくなりました◎