2017年(第14回)本屋大賞で6位にランクインした話題作です。
『楽園のカンヴァス』の続編というか、シリーズ第2弾みたいな感じの作品です。
アートに詳しくなくても誰もが知っている20世紀の有名画家パブロ・ピカソが今回の主役です。
有名人過ぎて知っているからこそ、他の作品の方に興味が走って後回しにしていましたが、『楽園のカンヴァス』が最高だったので、ついに手に取りました!
↓こちらが『楽園のカンヴァス』についての感想です!
目次
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あらすじ
9.11アメリカ同時多発テロを機に、戦争が始まった。戦争の宣言演説場所には通常、ピカソの「ゲルニカ」のタペストリーがあるはずだが、演説時には暗幕で覆い隠されていた。
キュレーターでピカソの研究者である瑤子は、夫のため、ピカソが「ゲルニカ」に込めた反戦メッセージのために、アートの力で世界に反戦を訴えようと試みるも、「ゲルニカ」に関わる壁に何度もぶつかる。
時代の違うピカソたちと瑤子たちが、同じ想いを持って、アートを武器に戦争と戦う物語。
感想
個人的なお話ですが、今年に入って過去の戦争について向き合うきっかけの物語に出会ったのはこれで3度目です。今年は戦争のお話に縁があるようです。
9.11は、当時小学生でしたが覚えています。でも、それがきっかけでアフガニスタン、イラク戦争が起こったことは、この物語で知りました。繋がりました。
これがきっかけだったのか……。
イラク戦争に関しては、これが空襲の口実になったみたいな感じらしくて、理不尽だなと思いました。もちろん、アフガニスタンのことも理不尽。
そして、暗幕のゲルニカ事件(演説の背景の「ゲルニカ」に暗幕がかけられていたこと)も、実際にあったことだったとは。
戦争や空襲に対しての後ろめたさ、無理して正当化しようとしていることがその件でバレバレじゃん!
本編の感想に戻ります。(今までも感想だったけれど)
『楽園のカンヴァス』を読んだことのある人に朗報です!
なんとティム・ブラウンが登場します。(わーい🙌)
嬉し過ぎた。異国の知らない場所で、知り合いに再開した気分。(知り合いじゃない)
ピカソが自信家であったことは『楽園のカンヴァス』を読んで知っていましたが、反戦や敵国挑発がタブーであった時代に、アートの力で堂々と訴えるという勇気と行動力は頼もしくてめっちゃかっこいい。(女グセめっちゃ悪いけれど)
ドイツの武官に「この絵を描いたのは、貴様か」と尋ねられて、「いいや、この絵の作者は、あんたたちだ」と言い放ったのも、まじでかっこいい。
この絵と同じ光景を作り出したのは、ゲルニカに空爆を仕掛けたナチス・ドイツじゃないか。
怯まずに堂々と、皮肉を言い放つ。スカッとするねえ!
当時ピカソの愛人で写真家だったドラも、凛々しくて強くてかっこいい。その中に嫉妬が見え隠れするのも人間味があって、いい!!
原田マハさんが描く主要キャラの女性はみんな凛々しくて強くてかっこいい。
瑤子も、ルースも、他作品の女性たちも。
きっと原田マハさん自身がそういう女性なんだろうなと思います。でなきゃ彼女たちの言葉や心理描写、人間性ががこんなに魅力的に描けないでしょ。
私はそう思っています。だから勝手に尊敬して憧れています。
本作の9.11の件で、伏線回収が見事で印象的な部分があります。
毎朝ベーグルを食べる習慣だった夫が、たまたまその日に限って好物のトルティージャを朝食に選んだ。
うちの向かいにあるデリのトルティージャを食べてから天国に行きたいよと以前言っていた。
「急に食べたくなってね。『最後の晩餐』ならぬ『最後の朝食』だな」
本文P37より
冗談のはずだったこの言葉が本当になってしまうというところが、悲劇を更に際立ったせているように感じました。つらい。
ちなみに次の章(第一章 創造主)で、この悲劇があの9.11だったと気づきました。
旅客機が突っ込む場面という文で気づいて、慌てて日付確認しました。
実際に起こった事件じゃん……!って。
国連も、ホワイトハウスも、いかなる国家戦力も、芸術を暗幕の下に沈めることはできないと証明するのよ。
本文P174より
「ゲルニカ」を絶対に展覧会に引っ張り出す。作品に暗幕をかけた人物に、反戦の訴えは隠すことができないと証明するために。ピカソや自分たちの訴えを隠そうとした人物に、やり返す。
この意地と執着が、すっごく響いたし、かっこよかったです。
未だに堪えない戦争。解説の池上彰さんもおっしゃっていますが、また「ゲルニカ」に暗幕がかけられる日が来ないとも限らない。
戦争を始めようとしているお偉いさんに、まずその前に「ゲルニカ」を見て思い直してほしいです。
※ここから先はネタバレ要素がありますのでご注意を!
作中でずっとお預けになっていたルース・ロックフェラーが提案したとっておきのアイデア、計画とは。
それはMoMAの展覧会ではなく、国連安保理会議場のロビーの壁に本物の「ゲルニカ」を掲げること。
予想外の結末に感動しました。
借りることができたので展覧会に出しまーす! という単純なオチを想像していましたら、斜め上を行かれました!(この裏切りがたまらなく嬉しいのである)
さすが原田マハさん。普通には終わらせない。めちゃくちゃ最高の結末。
「ゲルニカ」はこの世界のみんなのもの。
それをこのような展開で証明するとは! 最高!!
最後に
アートは武器になる。ピカソは情熱を持って、アートを武器に戦争と戦った。
アートの強さとピカソの偉大さが伝わる、そしてアートに情熱をかける人々の力にまたまた圧倒されたのでした◎