今回は川上弘美さんの『ぼくの死体をよろしくたのむ』を紹介します。
めちゃくちゃパンチのあるタイトルじゃありません?
どういうこと!? って気になりません?
そして表紙の魚。
本当に、一体これはどんなお話なの?
好奇心が抑えられませんでした。これはもう、さっさと読むしかありません。
目次
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あらすじ
日常に潜むちょっと不思議で、たまにファンタジーな、様々な恋と愛の形が浮かび上がる18編の物語。
感想
どれも短いお話だけどインパクトがすごい。心地よいインパクト。
予想外の展開に転がっていって、驚いて、ドキドキワクワクしながら読み進めていくと、クスっと笑えて、温かい。
対象は様々ですが、恋とか愛とかがテーマにあるのだけれど、押し付けがましくない。だから受け止めやすいのかな。
『鍵』
出だしは何の変哲もない恋愛小説という感じなのに、お買い物帰りらしき一目ぼれ相手の右手に握られているものが予想外過ぎて1ページ目から早速おもしろい。
その後明らかになっていく彼の生活も、まさかの設定でおもしろい予感しかしない。
でもあっけなく終盤に来てしまい、甘くてほろ苦い、余韻が程よく残るお話でした。
要点しか並べないくらいに短いお話だからこそ、印象的なのです。
『大聖堂』
お話はすごく平凡な日常だけれど、謎の生き物が存在することによって、ちょっとファンタジーにも見える。だけどやっぱりただの日常。
私もその謎の生き物を飼ってみたい気がする。
『ずっと雨が降っていたような気がしたけれど』
失うのが怖いからストックを。消耗品なら私もたまに買う。
恋人、大切な人のスペアはさすがに考えたことなかったわ……。
主人公が恋人に「どうしてあたしと一緒にいるの」と聞いたら「いたいから」
じゃあ、そうじゃなくなったらと聞いたら「知らねえよ、そんな先のこと」
そんな先、という言葉に、あたしは嬉しくなる。そんな先。そのころまでに、きっと世界なんて滅びている。
本文P50より
素敵な断言をするなあ。かっこいい。
先のことを心配し過ぎる主人公と正反対の恋人。彼の言葉で、心配性の彼女がこんな風に思えるようになるなんて、恋って素晴らしいです。
兄がちょっと、優しいふりして攻撃的な感じなので、こわいです。
きっと周りに期待され過ぎて疲れてしまったんだろうな。
『二人でお茶を』
こちらも正反対な2人。関係性が羨ましいくらい素敵です。
いや、トーコさんが素敵なの!
帰国子女だからこそ、日本人のお堅い部分がはっきり見えて、おかしいと言える。
周りの目を気にしないで、素直に自分を表現できる。素敵じゃないか!
個性を大事ににできて、好きなものを好きと言える彼女が、私は好きです。
「一緒に住んでいる人が好きなものを、大事にしたいの、あたくし」
本文P66より
トーコさあああん!(やかましい)
そんなこと言われたら老若男女問わずイチコロだよ。
『銀座 午後二時 歌舞伎座あたり』
ファンタジー味が強めのお話です。わかりやすく言うと『借りぐらしのア〇エッティ』系です。
ここに最初のお話に出てきた彼が登場するんです。右手に握られていたものが出てきて「あの人じゃない!?」と、ひとりでクスっとしていました。ニヤニヤ案件。
ここでも恋が生まれるのですよ。意外とモテ男。
もう会うことはないという素振りを見せて去った彼。だけど
わたしたちは出あいがしらに、道でぶつかったのだ。それって、ボーイ・ミーツ・ガールの基本中のの基本、ではないか。
本文P84より
あまーーーーーい!
これで締めくくるの最高です、川上さん!
『なくしたものは』
リレー方式に語り手が変わるというおもしろい構成。おもしろいところまで飛躍してしまうのでクスっとします。
『儀式』
神様の1日。これもおもしろい発想だなと思いました。
神様がちょっと身近なものに感じます。
私もどっかですれ違っているのかな。それとも知り合いにいたりして。
『バタフライ・エフェクト』
こちらもなかなか思いつかないおもしろい設定でした。
少しずつ2人が近づいていく感じだったので、当日に運命の出会いを果たすのかと思いきや。共通項はあるものの、事実上何も起きなかった……!
思わせぶりに完全に引っかかった。
その後の展開も、すべてを白紙に戻したような展開で軽く放心状態でした。(大袈裟)
最後の終わり方は残酷なようでいて、きれいでもありました。
『二百十日』
タイトルの言葉をはじめて知りました。勉強になりました。
9月1日頃のことで、台風の時期を指すそうです。(ためになったね~)
魔法が使えるおじさんのお話で、奇妙だけれど、ほっこりしました。
『お金は大切』
こちらも魔法なのか呪いなのか、そういう感じの奇妙なお話。
現代版の妖怪話みたいな、不思議なまま幕を閉じるお話。
お金を受け取った代わりに、恋愛ができなくなる。
これは彼女が彼を独占したくてかけた呪いなのか、ただの嫌がらせなのか……。
『ルル秋桜』
趣味や愛するものって人それぞれで、正解も不正解もない。
何を愛そうが、それを否定する資格は誰にもない。
そう思わされます。
『憎い二人』
タイトルから、登場する男二人組が極悪人なのかと思ったら、全然穏やかでした。
つまり友だちは歳の差とか関係ないよってことかな。
『ぼくの死体をよろしくたのむ』
死にたがりな父のお話。遺言の言葉(タイトルね)ちょっとかっこいいけれど、無責任だな、おい!
人が生きてゆくよりどころにしていることは、さまざまだ。それと同じで、人が死にたくなるみちすじも、千差万別だと思うのだ。
本文P203より
父は気持ちがが弱いから死にたがっていた。
自分は強いけれど、自分を消したくなる衝動で死にたくなる。
死を選ぶ動機は弱さだけじゃないと思うと、生きている全ての生き物が、前触れもなく消える可能性が大いにあって、危うい存在なのだなと感じました。
『いいラクダを得る』
「逆行サークル」の活動がしょうもなさすぎて笑いました。
で、先生、結局「いいラクダ」って何ですか? 幸運っていうことかな?
『土曜日には映画を見に』
恋愛結婚もそれはそれは素敵だけれど、こういうお互いを干渉せずに、でも1日は2人で過ごす時間を作って夫婦するのも素敵な形だなあ。と思えるお話でした。
見た目とか趣味じゃなくて一緒に暮らせるかどうかですね。
『スミレ』
近未来的なお話設定がおもしろい!
なるほどな~、精神年齢に合わせて見た目も変わる場所かあ。需要ありそう。
夢を見ているみたいでおもしろかったです。
少し寂しい気持ちながらも、最後は現実味があって納得です。
『無人島から』
家族解散。私は家族大好き人間なのでこんなことになったら無理、泣く。
でも元お母さんの「自分の子じゃなくても、みはるのことは、きっと好き」という言葉に安心と感動をしました。(私は部外者なのに)
『廊下』
美術館にある不思議な廊下。そこでは〇〇に会える。
不思議な廊下の謎に気付いたとき、予想外の真実にも気づきました!
他の女つくって家出したのかと思ってたのに、そういうことか……。
切ないやら、鳥肌が立つやら。複雑な感情になった読後感でした。
最後に
入り口は日常なのに、その先はちょっと不思議な世界。
構成と発想が新しくて、ワクワクが止まりませんでした◎