本好きの秘密基地

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今だけのあの子/芦沢央 ※途中から若干ネタバレ含みます

今回は芦沢央さんの『今だけのあの子』を紹介します。

芦沢さんの作品としてすぐ浮かぶのは『悪いものが、きませんように』です。(読んだことはない※22年8月時点)

先にそちらを読みたいと思っていたのですが、読みたい欲は今回の作品が勝ったので、またの機会に。

これは完全にジャケ買いならぬ表紙買いしました。ジャケ買いでいいじゃん)

イラストが素朴でかわいい。タイトルの語感が好き&意味深で気になる。

プラスαで挙げるとしたら帯の全編、衝撃展開……今ふとアナタの頭をよぎった、想像をも超えますというコメント。好奇心くすぐられます。表紙デザインとのギャップ。

 

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あらすじ

女の友情や嫉妬に潜む謎をテーマにした5話からなる日常ミステリー短編集。

 

感想

帯の言葉通り全編が衝撃展開でした!

真相の予想ができなかったです。どうなるのか気になって気になって、真相が明らかになってやっと、そういうことか! ってなりました。そんな結末、私の頭には一度も浮かばなかった……。

女の友情ってドロドロしているイメージが強いのでイヤミスかと思いきや、その逆の構成で、読後感が穏やかな気持ちに包まれました。

女がみんな、嫉妬や憎悪に狂って破滅させようとするわけではないのだな。嫌がらせ、復讐とは無縁の純粋な女もいるのだな。(過去に何かあったのかよ)

始まりはめちゃくちゃ不穏な空気と発端で、このままドロドロして強烈な怖ろしさで終わるんだろうなというフラグが立っていたのに、まさかの素敵な終わり方でした。真相がわかった時はもう拍子抜け。

醜い心とか嫉妬に狂っている感じだったじゃん。なのにじつはきれいな心で素敵な動機。こんな形のミステリーってなかなかないのでは? 貴重です。

ひとつの話としてもおもしろかったのですが、全編ゆるく繋がっているというのも、おもしろポイントのひとつです。さっきの話に出てきたあの人か! という感じです。

 

芦沢さんの心理描写や情景描写、表現、喩えがきれいでわかりやすく、想像しやすいです。あまり聞いたことのない言葉もちょこちょこ使われていて、勉強になりました。語彙力アップしたい方、おすすめです

 

※ここから先は語る上で設定に触れる部分があるので、ネタバレ嫌だよっていう人は一旦帰って、読んだら戻ってきてください!

 

『届かない招待状』

共通の友だちは届いている結婚式の招待状が、親友と思っていた自分にだけ届いていないお話。

初っ端から不穏極まりない。こわいこわい。

私が同じ状況だったら、絶対に行かないし、周囲にも誘われていないことを正直に言っちゃう。行くこと前提でずっと話題に出されたり、当日顔出しづらいし余計苦しいし。

招待しなかった理由(正しくは招待するか迷った理由)が、伏線があったにも関わらず予想できなかったし、鳥肌が立ちました。いい意味で。

友人の気遣いに、真相がわかった瞬間の二人に、少し泣きそうでした。

 

『帰らない理由』

友人と異性の幼なじみ(主人公)が、今は亡き彼女の部屋でばったり二人きりになってしまい、お互いの諸事情でなかなか帰れないお話。

ここでの繋がりは1話目のお父さんが起こした事故

登場人物みんな必死になって自分の目的や秘密を隠し通そうとしていました。だから謎だらけ。

友人は喧嘩別れしたものの、約束を果たそうとしていて真の友情だなってグッときました

主人公は嘘がばれたくなくて必死でした。自分を守るためだった。自己中に見えた主人公の嘘も、結局は白状して、さらには今は亡き彼女の友人への本音を教えてあげた。それを知ってはじめて泣く友人。この流れは苦しかったけれど感動しました。

「親友」に裏切られたくるみが内心にどんな感情を抱えているのかを、つまみ食いをするように観察したいと思っていた。

本文P107より

言ってる内容は下衆だけれど、この表現がすごいなと思いました。つまみ食い。おもしろい表現。

 

『答えない子ども』

自分の子どもの絵が盗まれたかもしれないと情緒不安定になり、ママ友との間に亀裂が入りかけるお話。

この話は、他の話との繋がりが分からなくて整理したらなんと! 2話目の主人公が繋がっていました。苗字と「まーくん」で特定しました。素敵なお父さんになっていました。(整理しなくても解説に書いてあったよ……)

主人公は過保護でちょっと神経質な教育ママ。

真相、こちらもまさかの事実が判明。子どもの無言の訴えだったんだな。

教育ママってそんな自覚ないと思います。視野が狭くなっちゃって、子どもが本当はどうしたいのか気づけない。子どもも圧で訴えられない。

ママ友は正反対のタイプでしたが、最後かっこよかったです。そのかっこいい気遣いに感動しました

 

『願わない少女』

漫画家を目指す少女たちのリアルな心のすれ違いのお話。

『帰らない理由』『答えない子ども』でちらっと出てきた漫画家さんが繋がっています。

この話が一番、初っ端から不穏な状態でハラハラしました。

表面的には一緒の夢を追いかける親友。それが年月が経つにつれすれ違い、嫉妬に変わる。青春を謳歌している親友への嫉妬と、親友が違う人の元へと離れてしまう恐怖、依存。とてもリアルでした。

皮肉にも成功したのは自分で、その作品のモデルは親友との関係性。

この話だけはリアルすぎて、結末も悲しかったです。

 

『正しくない言葉』

老人ホームのお隣さんが、お嫁さんとちょっとした勘違い、気持ちのすれ違いで険悪な雰囲気になるお話。

『帰らない理由』に登場する被害者家族との繋がりがあります。

他のお話もそうでしたが、女の怖い部分を見てしまったと思ったら、本当は温かくて思いやりのある動機でした。

今までのお話の傾向からして素敵な動機なんだろうなとわかるんですが、具体的には想像できないまま真実に辿り着きました。わかっていても、やっぱり不穏な動機しか想像できない。私はまだまだです。同時に、この題材を素敵方向に持っていける芦沢さんはすごいです。

 

最後に

芦沢央さんの作品をはじめて読みましたが、新感覚なミステリーで虜になりました。

他の作品も(『悪いものが、きませんように』は絶対)読みたいです◎