今回は東野圭吾さんの『秘密』を紹介します。
98年度ベストミステリーとして話題となった東野圭吾さんの代表作。
第52回日本推理作家協会賞受賞の作品です。
東野圭吾作品、読んでいきたいけれどたくさんあって迷う。
ひとまず代表作のひとつのこちらをと思い、ずっと積読していたので、ついに読みます!
目次
あらすじ
妻と娘がバスの転落事故に遭った。
亡くなった妻と、奇跡的に意識を取りもどっした娘の体が入れ替わっていたことが発覚するも、それは夫婦二人だけの秘密として生きていく事に。
娘の体が成長していくに連れて、二人の関係はすれ違い、崩れ始めていく。
特殊な家族の形は、これから先どうなっていくのか。
最後に本当の、もうひとつの「秘密」が発覚する感涙ミステリー。
感想
最後の最後に涙腺崩壊爆弾がドドンと炸裂。
きつい。つらい。切ない。でも、感激。
正直ね、娘の体が思春期を迎えた時期の主人公の言動には、虫唾が走る思いでモヤモヤ&イライラだったのですよ。
心配なのはわかるけど、嫉妬心もわかるけど。
でも娘(妻)に対する過干渉で強烈な束縛には、読んでいてもう、不快で不快できつかったです。
だからその時点では、このお話の個人的評価は微妙な感じでした。
でもね、ここからだったんですよ。このお話の一番の肝は。
終盤の動きで、切ない気持ちの波が一気に来ました。高波警報発令しました。
苦しくて切ない気持ちになるという災害が発生です。
全てのセリフに重みを感じて、もう何言っても泣きそうになる。
そしてラストは予想外な「秘密」の発覚で、驚きと、また涙腺の緩み。
タイトルの『秘密』は、二人(もしくは三人)の生活を表しているのかと思いながら読んでいましたが、本当の「秘密」は最後に発覚した「妻の秘密」なのかもしれません。
妻の覚悟と夫に対する愛情が、強くて、逞しすぎて、健気で、泣けるのです。
自分と決別して、永遠に一人で秘密を背負って生きていこうとすることが、どれほど覚悟のいることか。
そしてそれは夫のために心を鬼にして決断したことでしょうし、夫への無償の愛も感じます。
妻の秘密に気づいた主人公の気持ちも、考えるとすっごく苦しいです。
最後の新郎との会話シーンで、その苦しさと切なさがより強く伝わってきて、私は想いを改めました。
文句なしにこれは名作だ。
結論、このお話は噂通り名作でした。
ずるいくらい感動させられました。
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もうひとつ話題として取り上げたいのは、加害者と被害者の気持ちや生活です。
加害者となってしまった運転手さんは亡くなられたので、残された加害者家族の生活になるのですが。
運転ミスをしてしまった原因や、彼らの複雑な家庭事情も考えさせられる要素がたくさんです。
こちらも切ないというか、やりきれない真実。
でも最後には、残された人たちは報われる形で、温かい気持ちになりました。
被害者家族も、表面上は気丈に振る舞っていても内心は……みたいな感じで、わかる人にしかわからない気苦労さというものが滲み出ていました。
心と体の入れ替わりを題材にしたお話は、結構見かけます。
ただ、入れ替わったことによって、お話がどう展開していくのかで、その物語の重みは違ってきます。
まさにこの『秘密』には重みがある。
当事者たちの葛藤や想いが、設定はSFっぽいのに現実味があって、感情移入しやすいのです。
妻の、娘のために進路や生き方を見定める行動力や、思春期の体と自身の心が矛盾してしまう葛藤。
夫の、人格は妻で外見は娘という特殊な人物への、異性と父親で揺れる気持ちのコントロール。
人格が入れ替わるということは、お互いにとって壁や試練の連続であるという部分がとてもリアルで、その生活の難しさを痛感しました。
そして、自分を捨てて娘として生きていく覚悟を決めた妻から、自分そのものの大切さについても考えさせられました。
最後に
ミステリーというよりは、家族愛や絆の色が強めでした。
いろんな要素の詰まった作品で、まさか感動小説と思っていなかったので、そんな驚きも手に入る名作でした◎