今回は沼田まほかるさんの『痺れる』を紹介します。
かなり前にブログ「郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる」のニードルにおすすめいただいた一冊で、積読しっぱなしでしたが、ようやっと読みます!(お待たせニードル!)
かわいらしいお花の萎れ具合が不穏な雰囲気を演出している表紙。
まほかるさんお初です。わくわくです。
目次
あらすじ
不穏な雰囲気が充満するホラー系、奇妙系、喜劇系とバラエティに富んだ、読後に痺れる9篇の短編集。
感想
30ページくらいのお話たちなのですが、濃ゆい!
どれもとんでもない結末で驚かされました。痺れました。
そんなオチが待っているなんて全然予想もできなかった。
でもちゃんと伏線はあるのです。そういうことかってなるのです。
ほんとこれは一度ハマれば、もう抜けられない。
ゾワゾワするのに、ハラハラドキドキするのに、おもしろい。
普通の、ありきたりな展開なんて、どこにもないの。
登場人物が強すぎて、物語も未知の領域で、ただただ圧倒されました。
そしてラスト数行で、気持ちいいほどに衝撃をくらい、痺れました。
これが短編でなかったら、深く深く吸い込まれて抜け出せなかったかもしれません。
おそるべし、まほかるワールド!
『普通じゃない』が特にお気に入りなのですが、『林檎曼陀羅』『ヤモリ』『テンガロンハット』『沼毛虫』もゾワゾワが刺激的で好きです。
『林檎曼陀羅』
認知症の人という特殊な視点で描かれるので、今までにない不思議な感覚で読みました。
時間軸もわからない、経緯もわからないというだけでゾワッっとするのですが、彼女が抱えているであろう秘密も絶対不穏なやつだと感じ取ってしまうので、とにかくずっとゾワゾワします。
そしてだんだん、彼女の秘密が独白のように流れてきて、恐怖するのでした。
愛なんだろうな。でも想像すると、怖いんだよな。
林檎が度々登場するのは、彼女の秘密を指しているのかな。
彼女の秘密=罪・禁断の果実。みたいな。
ちなみに「曼陀羅」とは、仏の悟りの境地を表現したもの。
とてもタイトルが秀逸だなと思いました。ぴったし。
『レイピスト』
初っ端から嫌な予感をさせる場面。
これはダメージきつそうなやつだ……と瞬時に予感したものの、あれ?
なんか、思っていた流れと、違くない……?
彼女が強かなのか。それとも彼女の精神的構造が特殊なのか。
トラウマになるとか、怯えるとか、そんな流れを予感していたのに、違ったぞ。
この出来事は、不倫相手との関係を改めて冷静に見つめ直すきっかけになったに過ぎなかったということか。強い。
不倫相手よりも、レイピストの方が人間らしくて好ましいってか!
そんなこと、思ってはいけない気がしますが、そういうことなんでしょうな。
それにしても、二度の堕胎を経験しても懲りずに……という感覚にも驚きというか、理解できないです笑
『ヤモリ』
主人公のことがあまり語られないので、怪しいというか、絶対この人何か良からぬことを抱えていそうだなと思い、何が起きるかハラハラしていました。
平穏な生活なのに、ゾワゾワ。
道に迷った青年も、ワケアリなのではと疑いましたが。
ついに二人の生活に終止符が打たれようという時に
ついにやってしまったね、主人公。
(正直待っていたよ、こういう奇抜な展開を)
ただでは帰らせないとは思っていたのよ。ああ、こわいこわい!
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『沼毛虫』
雰囲気が暗澹としていて、でも好きなんです、こういう雰囲気。
自分の娘ではなく、主人の娘を助けたギッツァン。
ここだけを見たら、忠義を尽くすという時代の悲劇に、感動というか苦しさみたいなものを感じて、胸がぎゅっとなって、泣きそうになりながら「ギッツァン!」と叫びたくなります。
でもね、まさかのラスト一行の衝撃。(お決まりの)
これには、ゾッとするものもあるけれど、どこか美しくも感じてしまうのでした。
沼毛虫がラストに絡んでくるのかと待ちわびていましたが、そこは結局ぼんやり。
沼毛虫はきっと実在していたわけではなくて、人の心に噛みついて良からぬ作用を及ぼすものの比喩なのかな……?
『テンガロンハット』
日常の人間心理ホラーみたいな感じでした。
でもマヌケすぎて笑っちゃう。
気をつけようと思いましたね。主人公みたいな目に遭わないために。
だってこんなの、日常絶対あり得るもの。
私なんか特に、この手に引っかかりそうだ笑
善意の押し売りにNOと言えず、ずるずると。キリがない。
善意に悪意を混ぜた感じ。全然人の話聞かないしね。
ラストは一番笑いました。お気の毒だけれど、罰が当たったのよ!笑
『TAKO』
『レイピスト』に似た感じです。
痴漢されることを楽しむって、そんなこと、あるんや……。
離婚した自分にまだ女としての価値があるということを、こうやって確認したかったのかしら。
いや、どっちかっていうと幼少期の出来事が根付いていて、そういう性癖が痴漢によって覚醒したというほうがストーリー的にあり得るか。
まあ、世の中いろんな人がいるからね。
ラスト一行に、またも面食らいました。
タコ男が■だったなんて、誰も予想できないでしょう。
『普通じゃない』
サスペンスっぽい雰囲気だったのに、主人公の完全犯罪計画とその実行に固唾を飲んでいたのに。
その雰囲気がラスト数行の「普通じゃない眺め」で台無しよ!(褒めています)
ゾワゾワしていたの。ちょっとどんな眺めか怖かったの。
でもその光景を理解して
……は!? え、歯!?(爆笑)
思わず声が出ちゃいました。自宅で読んでいて良かった良かった。
暗澹としたお話が多い中、これは不意打ちで強烈で、お気に入りです。
『クモキリソウ』
若干『テンガロンハット』っぽいかなと思いましたが、コミカルではなく、ミステリアスで妖艶な感じのお話でした。
匿名で贈られるクモキリソウが誰からだったのかが、一度も疑いもしなかった人物でびっくりです。
意外と深い絆が二人の間にあったのかしら。
『エトワール』
私から見ても不動で無敵で、魅力を感じてしまう女性、奈緒子。
なんだかミステリアスな存在でもあって、気になる存在。
主人公が嫉妬したり、疑ったり、取り乱すのもわかります。
そんな存在感が強い奈緒子が、じつは……!
おいおい、待ってくれよ吉澤。君、ちょっと怖いよ……!
不倫物がこんなぶっとんだ結末を迎えるとは、普通では終わらせないまほかるさん、さすがです。
最後に
暗澹とした雰囲気と、痺れる結末がクセになりそうなお話たちでした◎
ニードル、おもしろい本を紹介してくれてありがとう!