今回は湊かなえさんの『カケラ』を紹介します。
写真にはないのですが、帯の「あの子、大量のドーナツに囲まれて死んでいたらしいよ」というインパクト大の意味深不可解な言葉を、私の好奇心レーダーが感知。
文庫化まで待つ体勢だったのですが、あとちょっとのところで我慢の限界に。
※文庫発売は2023年1月20日です。(まじであとちょっとだったのに)
大量のドーナツに囲まれて……。何がどうなってそうなったのよ。
真相を探ります。(ドキュメンタリーかよ)
目次
あらすじ
有名美容外科医の主人公は、昔の同級生の娘が大量のドーナツに囲まれて自殺したことを耳にした。
この事件の詳細を知るために、昔の知人や関係者にインタビューをしていき、彼女の生き方、事情に近づいていく。
彼女はなぜ、ドーナツに囲まれて自殺をしたのか。
感想
さすがイヤミスの女王です!
途中で感動的なラストを迎えそうな流れができていたのに、そっちに振り切ったか!
つらい、切ない、苦しい。
お母さんのやるせなさ、後悔してもしきれなさが、重くのしかかってきました。
自殺を決意した彼女の心境も、想像するとすごく胸が苦しいです。
お母さんのために決意して変わった自分。
変わった自分を見てもお母さんは受け入れてくれると信じて会いに行ったのに。
違うんだよ、お母さんは受け入れられなかったんじゃないんだよ。人違いなんだよぉぉ!!
君があまりにもママに似ていたからなんだよ……!
勘違いしたまま、気持ちがすれ違ったまま、取り返しのつかないことになってしまうなんて残酷だよ……。
と、心の中で私は彼女に叫ぶのでした。一人で悔しい気持ちに苛まれるのでした。
こんなにお互いを想い合っているのに。大好きなのに。最後がこんななんて……!(まだ言う)
ドーナツに囲まれていたのも、意図してではなく偶然にしても、運命のいたずらが過ぎる。苦しい。
読んでいる間ずっと、そのドーナツ美味しそうで食べたかったです。食欲そそられます。(急な心の切り替え)
横網さんが小学生時代に同級生に言われた言葉が、シンプルなんだけど殺傷能力高い上に少しリアルで、まるで自分が言われたみたいに傷つきました。
「横網さんには(親しく)そう呼ぶ権利はないから」
それ言っちゃう? どんだけ酷いのあなた。仲間外れ以上よ。泣くよ。
でも小学生って素直だから、そういうことサラっと言いそうだな……。
横網さんが未だに根に持つのわかります。トラウマ。
この発言をした子もまあまあ酷いんですけど、高校の先生と父親もなかなかの酷さです。
事の発端はこの二人の言動ですしね。
先生は自分の価値観を正義と信じているから厄介。
父親は自由人すぎて、自分のことしか考えないし、そのためならどんな手でも使っちゃう傲慢さ。さらに身内だから逃れられない。厄介。
この二人のせいで、周りからお母さんが悪者扱いされることが、読者の私としても胸が痛くて苦しかったです。
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6人のインタビューと録音音声によって構成されているお話なのですが、どの人も容姿に対するコンプレックスを抱えていたり、そういう時代があったり。
コンプレックスの克服の仕方は、美容整形だったり、自然と克服したりとさまざま。
インタビュー中に、自殺した彼女を語る時も容姿のことを口にする。
結局印象って容姿に左右されやすい。先入観。
そんな現実を突きつけられたような気持にもなります。
だからといって、いや、だからこそ!
どんな人でもコンプレックスを抱えているからこそ、他人の容姿に関して軽々しく口に出してはいけないと強く思いました。(当たり前なんだけれども)
そして容姿を褒めたつもりでも、本人は嫌がる可能性もある。
口に出さないよう気をつけたいところですが、悪気なく自然と言葉にしちゃうのも事実。(堂々巡りしているような)
明らかに悪口のような言葉だけでも、言わないように意識したいですね。
「見たまんまが個性になるならまだしも、一重瞼は愛想が悪いとか、ブスは性格が悪いとか、まあ、これは逆もあるかもしれないけど、見た目で性格まで決め付けられることがあるでしょう?
そりゃあ、二重にしてくださいって、サノちゃんみたいな商売が繁盛するようになるわ、ってこと」
本文P138より
そうなのよ。先入観。個性を生かすとか大切にとか最近は耳にしますが、この先入観があるから、個性を出せなかったり、隠したりするの。
先入観はなかなか消せないけれど、少しずつ薄れていってほしいです。
そうしたら少しは、どんな人でもコンプレックスを受け入れて、他者からの容姿に関する言葉に傷つけられず、生きやすくなるのになって思います。理想論だけれど。
「いじめ」と「いじり」の違い。それを気持ちよく論破する名言がありましたので、みなさん、これだけでも、ぜひ知っておいてほしいです。
いじりっていうのは、いじられた側に得がないと、そう呼んじゃいけないの。いじった側がおもしろいことを言ってやったって悦に入っているだけなら、それはいじめ。自分の気分を良くするために、他人の尊厳を踏みにじっているんだから、そう認定して当然でしょう?
本文P242より
他人のコンプレックスなどをいじる人は「愛だ」とか言いますが、本当に愛の時もありますが、それを決めるのはいじられた側なのです。
いじる時は、相手の喜ぶいじりをしてください。(?)
タイトルになっている「カケラ」には、多様性を訴える意味が込められているのだと思います。
人は良いところも悪いところもあって当然。いわば、私たちはパズルのピースのように凸凹なカケラ。
いろんな形のカケラだから、しっくり嵌ったり、嵌らなかったりする。
自分の嵌る場所を探せばいい。どうしても無理なら、その時は美容整形なり何なりしてもいい。
違って当然。悪い部分があって当然なのです。
最後に
ミステリーとしても、状況がコロコロ変わっておもしろいお話ですが、容姿のコンプレックスから発生する問題も考えさせられました◎
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