今回は深木章子さんの『敗者の告白』を紹介します。
表紙がきれいで、じつは手元にこのシリーズを既に揃えております。(収集癖)
深木さんの作品は1冊読んだことがあるのですが、どんな雰囲気をお持ちなのかは未だ掴めていません。(1冊で判断はできないね)
これを読んで深木さん作品の雰囲気を掴めたらなと、少しソワソワしております!
目次
あらすじ
会社経営者の妻子が別荘で転落死した事件。妻子が遺した告発文が元となって、夫が逮捕された。
しかし妻子と夫の供述、一家の関係者の証言により、事件の真相が二転三転する。
誰が嘘をついていて、誰が本当の事を告白しているのか。
そして、本当の事件の真相はなんなのか。
感想
めちゃくちゃに振り回されました。深木さんの手のひらで踊らされました。目が回る。
何回ひっくり返るのってくらい、展開が目まぐるしかったです。
何度も迷子状態に陥りました。
被害者の告発文も、被告人の供述も、言っていることがバラバラ。誰が本当の事を言っているのかわからないのです。みんな怪しい部分があるのです。
それを踏まえて、一家の関係者の証言が順番に語られるのですが、そこでも状況が二転三転。証言者が変わる度に、一家の裏事情や彼らの関係性が露わになって、想像していた人物像も変わる。
誰しも秘密や本音を隠して生きているのはわかるのですが、こんなに炸裂すると何を信じていいのかわからなくなりそうです。
何人かの証言を読み進めていくと、ある人物の人間性が明らかになり、同時にその人の言動の信憑性も欠けていきます。
全ての証言を読み終えて、もう事件の真相は見えたも同然だと思ったのです。(自信満々で確信していた)
実際に、それを踏まえた予想通りの判決が出されました。
これで事件は幕を閉じた! めでたしめでたし!
だと思うじゃないですか。
やっぱりこの人の供述が正しかったのね〜って納得したのも束の間です。
なんと後日、密やかに弁護士がその真相をひっくり返してしまった( ゚Д゚)
え、まって、あなた裁判で無罪主張してたじゃないの。 裁判官も検察官側もその主張に異議なしだったよね? 真相はクロだと知った上で、その真相に蓋をしたってこと……?(予想だにしないどんでん返しにパニック)
裁判が終わっても、ここに来てまだ覆るのか。
油断ならないな。
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たしかに弁護士の役割は、被告人を弁護することだもんな。
探偵ではないから真実に辿り着いたとしても、被告人に不利な結果ならば伏せる。知らぬふりをする。
実際、現実はどうなのかわからないけれど。
現実もそんな感じなのだとしたら、ちょっとおそろしい世の中です。
裁判は真実を明らかにする場ではなくて、法律に沿って双方が議論をする場。
そんな現実を知ってしまって、複雑な気持ちになります。
弁護士が辿り着いた事件の真相は、おそろしくて切ないものでした。
そして最初から全てが自作自演だったことに驚きです。
その可能性、考えつかなかったです。疑いもしなかった。
彼の自作自演の犯行に巻き込まれた息子が一番の被害者で、とにかくつらいです。
何の罪もなく大人の事情に振り回されて、おとなしくいい子に生きてきたのに。
意味もわからないまま突然殺意を向けられて、逆らうこともできずに。
挙句の果てに死後は利用されて、結果、誤解されたまま世間に異常者のレッテルを貼られて。
一番不憫でならない……。
犯行動機も、想像していたのとは少しずれていました。
復讐したかった相手は、妻子ではなくて友人の方だったのです。(そっちかぁ……)
殺めるよりも精神的苦痛を生涯ずっと負わせたい。
でも結局、そこは思惑通りには行かず、友人は前向きに生活しているので、彼は友人にまたも敗れた形になりましたが。
この事件はプライドの高さも要因のひとつになっています。どんな場面でもプライドは高すぎると邪魔になりますね。ろくなことにならないですね。
でもプライドがなさ過ぎても、それはそれで問題なのよね。(脱線しかけている)
プライドがへし折れてしまった彼が、最後どうなったのか。
その顛末もびっくりでした。衝撃的。
びっくりだけど、納得もしたりして。
何はともあれ、潔さのある幕閉じでした。
タイトルの「敗者の告白」とは何を指すのか。
途中までは被害者の告発を指していると思っていたのですが、最後まで読み終えると、タイトルの本当の意味が浮かび上がってきます。
それは真の犯行目的を果たせず、友人に敗れた人生を送る元被告人の独白。
つまりこの人生において敗者となった彼の告白なのです。
本当の意味に気づくと、物語に深みが生まれますね。
最後に
何度もひっくり返る展開に最後まで目が離せない。
そして裁判や法律のあり方について考えさせられる一冊でした◎
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