今回は鏑木蓮さんの『白砂』を紹介します。
本屋さん巡りしていた時に、このきれいな表紙に目が行き、帯やポップの言葉にも心を掴まれて購入後もずっと眺めていました。
切ない系ミステリー。そして表紙の白鹿がどう物語に絡んでいるのか。
少々厚めですが、臆せず読んでいきます!
目次
あらすじ
苦学生二十歳の女性が何者かに鈍器で殴られ発見された。
彼女の自宅からなくなっていたのは、誰のものか不明のお骨。
犯人はなぜ彼女を殺めてまで、お骨を盗んだのか。
そのお骨の身元は誰なのか。
感想
被害者が不憫でならない。そういう意味で切ない結末でした。
タイミングというか、間が悪かったというか、なんというか。
お互いが終始冷静でいられたら、誤解も解消されてこんな悲劇は起きなかったのになと思うと、やるせないです。
でも犯人の立場になってみると、冷静ではいられないのもわかります。
二つの時間軸が交互に展開する形なのですが、最初はこの二つがどう繋がっていくのかわからなくて、ちょっとわくわくでした。
途中から結末が読めるようになってきたものの、最後の最後に予想外の事実が判明して、結末が読めても最後まで読んで良かったなと、不謹慎にも嬉しい気持ちになりました。
こういうサプライズな事実、大好物です。
会話の中での冗談や用語が独特な感じで、世代的に私には意味がわからないみたいな部分もありました。
そして方言なまりが多くて。
そこが読みづらさに繋がってしまったのですが、読み進めていけば慣れていって、途中から読みづらさはなくなりました。
このお話の謎を深めているのは、血縁関係の複雑さです。
被害者の遺体の引き取りを頑なに拒み続ける祖母。
愛孫でしょう? 何があってそんな頑固に拒否するの!
その理由が明かされ、少々納得。
人は理詰めで行動するわけではない。
目前の節子が、小夜の遺体を引き取らないのも、理屈ではなく感情なのだ。
本文P164より
この時はまだ、祖母が引き取り拒否をする理由がわからない場面でしたが、この言葉はその通りだなと思います。
人は何もかも理屈で動いているのではない。
理屈では説明できない、言葉や形にできない感情だって立派な理由なのです。
被害者が伝承文学に興味を持っていたことから、伝承文学についても触れられていておもしろいです。
浦島伝説は詰まるところ、この世に暮らす男とあの世に逝ってしまった女性との巡り合いがテーマなのだ、と小夜は考えていたらしい。
本文P320より
小夜の考えに、なるほどと思いました。
ロマンチックで、この説を推したいです。
このお話のテーマは複雑で切ない血縁関係ですが、もうひとつあります。
承認欲求や自分の生きがい、存在価値の求め方です。
これが今回の事件の、一番の原因でもあるように思います。
誰かを支えることで幸福や生きがいを感じる。
私も少しそんな感じだし、そういう人はたくさんいらっしゃるし、世のため人のためにも良いことであると思います。
でもそれが行き過ぎた結果が、この事件の根底にあるように感じるのです。
愛情も世話焼きも、過ぎるとこんなことを実行させてしまう。
難しい。ままならない。
※ネタバレ区域※
ここからはお話の謎に迫りますので、未読の方は見ちゃいけないですよ!
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このお話の謎は
・犯人は何故お骨を盗んだのか。
・盗まれたお骨は誰のものなのか。
・何故、小夜は殺められなければならなかったのか。
なのですが、単純なように見えて奥が深い真相でした。
お骨を盗んだ理由は思っていたよりも事務的で、拍子抜けでした。
愛かと思っていたのに……!(愛もあっただろうけれど)
自分の生きがいのために、夫の支えになるために、愛する夫に微量な毒を盛る。
看病したいがための計画が、想定外にもそのせいで事故を起こし亡くなる。
毒を盛っていた証拠隠滅のために、私物も骨も、少しも残してはならなかった。
散骨という形を取ったのもそのためだった。
盗まれたお骨に執着していたのも、完璧な証拠隠滅のためだった。
愛情もあったかもしれなけれど、この行動は自分のためだった。
これはさすがに読めなかったです。
衝撃です。
小夜がペンダントにしていたおかげで、辿り着いた真相。
という辺りも切ないですね。
小夜が殺められた理由も切ない切ない。
ペンダントの正体を知らない犯人は、彼女がペンダントを夫にねだったと思い込み、素直に甘えられる彼女を強烈に恨めしく思ってしまった。
憎み続けてきた従妹と重なってしまった。
犯人の気持ちも、はち切れるほどの思いがわかるから、切ないです。
いろんな意味での嫉妬に狂ってしまって、理性なんて働かなくなるでしょうし。
でも、誤解されたまま殺められた小夜の不憫さも増しますね。
最後に
人間は表面上だけでは、肝心な部分は掴めない。
切なくて美しく、人間心理の深さに驚かされるお話でした◎