今回は真梨幸子さんの『殺人鬼フジコの衝動』を紹介します。
きれいだけどゾッとする装丁で、ずっとずっと気になっていたお話。
真梨さんの作品はおもしろいと読子さんのブログ「読子の本棚」で聞いたので、ならばずっと気になっているこのお話からデビューさせていただこうと決意。
では、殺人鬼の衝動、感じてまいります!
目次
あらすじ
一家惨殺事件の生き残りである藤子。
凄惨な日々から逆転するために計算高く行動するようになった彼女の人生は、それ故に狂い始めた。
多方面で被害者だった彼女はなぜ、伝説の殺人鬼と化してしまったのか。
感想
何度も発動する発作のような幻覚的衝動。
幼少期の経験から来る強迫観念や、トラウマの集合体が衝動となって一気に藤子を襲う緊迫感に圧倒されました。
衝動というだけあって、彼女の「どうしよう」「違う!」の渦は、迫力がすごくて、私の心拍数もどんどん上がっていく。
フラッシュバックに目がまわる。
タイトルそのまま、この一冊まるごと「フジコの衝動」の塊です。
波瀾万丈にも程があると思ってしまうほどの、荒波まみれの人生。
生まれ持って殺人鬼の才能があったわけじゃなくて、幼少期からのトラウマや願望の行き過ぎた結果が「殺人鬼フジコ」を爆誕させてしまったのだと感じます。
やっぱり育つ環境って大事なんだな。
育つ環境で人格までも左右されるんだろうな。
一概には言えませんが、そう感じてしまうのです。
時代は進歩して、子供側も考えや常識が変わってきたので、藤子が経験したような類のイジメは存在しなさそうですが、それでも気持ちがわかる。
子供だからって、周りの大人がイジメの原因を理解してくれない絶望感。
服や勉強道具、給食費などを十分に与えてもらえなかった藤子の苦労と惨めさが、読んでいて辛かったです。
そんな背景がイジメや今後のトラウマ、願望に繋がっているのだから、不憫でならないです。
ついに殺人を犯してしまった時の藤子の思考回路も、イカれているし発想も怖いのだけれど、それって結局、周りがそうさせたようなものだよな……と考えなくもないです。
藤子の必死の防衛が、結果として人を殺めてしまったわけだから。
藤子があんなにも拒絶していた母親に、いつの間にか自分もそうなってしまっていたという結末も皮肉じみていて、彼女の人生にますます同情してしまいます……。
装丁も印象的なこの本。
真っ白な鳥かごに、真っ赤な薔薇の花びら。
この2つは藤子の人生を表す象徴で、それに気づいたときは嬉しくなりました。
装丁にもちゃんと意味が込められている……!
※ネタバレ区域※
ここからはネタバレ区域です。ご注意ください!
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藤子の一生を描いた本編だけでも強いインパクトがるのですが、このお話をさらに強くするのがあとがきです。
はしがきのことをここで思い出します。
このお話は記録小説であることを。
その書き手と、託されて出版した作家の正体。
書き手は娘の早季子で、託された作家はその妹の美也子。
2人は母親のカルマに影響されながら生きてきたのです。
さらに驚くべき事実がここで発覚します。
藤子の一生のすごさに圧倒されて霞んでいましたが、藤子の家族を惨殺した犯人もここで浮き彫りになります。
ピンク色の口紅。
このワードで浮かぶのは茂子と、それを売っていたコサカさんの母。
計画的犯行なのか、突発的犯行だったのかは不明ですが
事件の糸をひいていたのは茂子。実行犯はコサカさんの母。
という真相が浮かび上がってきます。
あとがきが書かれた一か月後の新聞記事に、あとがきの書き手である美也子の一部が見つかったという報道が載って、鳥肌が立ちました。
消されたということ。
茂子とコサカさんの母が犯人であることは明確です。
藤子だけでなく、茂子も殺人鬼だったのです。
いや、藤子は茂子に都合よく使われた「人形」のようなものだったのです。
これはフィクションです。
でも、本当にあった事なのではないかと、何度も思ってしまいました。
それくらいリアリティが最後まで散りばめられた、興味深いお話なのでした。
最後に
メインの「殺人鬼フジコの一生」も強い興味を惹かれるのに、あとがきがそれを越えうる衝撃。
こわいもの見たさに、一度は読んでおきたいお話でした◎
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