今回は絲山秋子さんの『御社のチャラ男』を紹介します。
もうタイトルだけでおもしろいです。(もちろん中身も気になる)
表紙のピタゴラスイッチみたいな装置(なのか?)も興味をそそられます。
一体どんなチャラ男に出会えるのでしょうか!
目次
あらすじ
社内でチャラ男と呼ばれている三芳部長。
彼を知る人たちが語るチャラ男のエピソード集。
感想
スカッとして、ハッとさせられる。
おもしろい皮肉の宝庫。
周りの人たちの語彙力センスが最高です。
チャラ男への思いに共感するし、チャラ男への皮肉がおもしろいです。
気持ちいいくらい物申してくれるし、表現がとにかく秀逸なのです。
スカッとする上に笑えて、つい声をあげてしまう。たまに拍手を送りたくなる。
彼らの語彙力は嫉妬するくらい、的確で、その通り。
代弁してくれてありがとう!
(べつに世の中のチャラ男に恨みはないが)
おもしろい皮肉たちの中にも、稀に愛を感じる部分があって、憎いはずのチャラ男が愛らしく感じるときもあります。
憎いけど、憎めない。
彼らはチャラ男を鬱陶しく思っているけれど、ちょっと心のどこかで愛しちゃっているんだろうなと感じます。(私も読んでいてそうなりました)
まあ、絡むとやっぱりウザいんだけどね。(口が悪い)
でも、放っておけない存在。無視できない。
それがチャラ男。
いろんな視点から見るチャラ男。
どの視点のチャラ男もチャラいし、鼻につく。
それを巧みな語彙力で批判したり、皮肉を言ったりする皆さん。
痛快です。
そんなチャラ男を擁護しているときでも、やっぱり遠回しに皮肉じみている。
社員同士の会話も、各々の考えも、おもしろい比喩や揶揄で溢れている。
勤め人の平凡な日常を垣間見ているだけのはずなのに、断続的におもしろい言葉が飛び交って、ずっと絶妙なおもしろさが漂っていました。
チャラ男、めちゃくちゃ言われてるじゃん。
チャラ男、片想い状態じゃん。
何度も何度もそう思って、かわいそうかな~とも思うけれど笑ってしまうのです。
チャラ男はもちろん濃ゆい存在なのですが、エピソードを語る周囲もキャラが濃いです。
みなさん意思や考えがしっかりとあって、だからこそ、この強烈にほとばしる皮肉が溢れんばかりに出てくるのだなと、なぜか嬉しい気持ちになって読んでいました。
そして、チャラ男のことだけでなく、世の中に対する彼らの意見を読んで、考えさせられたり、ハッとしたりもするのです。
お話の中で度々
「御社のチャラ男は……」
「当社ののチャラ男が……」
という会話が出てきます。
それがまた、皮肉の中にキャラクター化する愛があって、最高だと思うのです。
愚痴なんだけれど、ふざけてそう呼ぶことで、笑い話に昇華できる。
チャラ男(部長)も悪くないかなと思える瞬間のひとつです。
お話の終盤に登場する無敵の言葉「それがどうした」
ああ、たしかにこれは無敵のパワーワードだ!
自分が悪いわけでもないときに文句を言われたら、これ使えるなと考えましたね。
とてつもない武器を手に入れました。
でも乱用したら疎まれるので、いざってときにね。笑
そんなこんなで、最終章「その後のチャラ男」では、とんでもない展開になったので、今までとは違う意味で、お話に釘付けになったわけですが。
チャラ男のプライドが邪魔して
「ご心配おかけしましたとしたら大変申し訳ないと思います」
本文P302より
という往生際の悪い、かっこ悪い大人の謝罪に爆笑しました。
さすがチャラ男。最後の最後まで、やってくれるな。
その後も暴走は加速の一途を辿るのですが、これはチャラ男にしか成しえないと少し感服の気持ちさえ浮かぶのでした。
< スポンサーリンク >
名言たち
個人的にお気に入りの言葉たちをここにまとめておきたいと思います!
「そもそも、波長が合わないから好きになろうとするんです。口には出さない不満や毒が外に出る前に、なんとか中和しようとするんですよ」
本文P16より
相手が誰かの陰口を言うと、その誰かを援護するようなことを言いたくなるときってあります。でも悪い人じゃないよって。
そういうからくりだったのか……!
「残業減らせえとか有休取れえとかって、簡単に言うてくれるなと思うんだけど、いつまでたってもそうならんのって、日本人が英語できないのと同じなんだと思う」
本文P42より
ネイティブな発音をするとからかわれるから、恥ずかしくてできない。
残業も有休も、実際に行動を起こすと白い目で見られがち。
本当だ。一緒だ。
自分の言葉と妄想に酔っているだけで、できもしない、自分では耐えられっこないことを要求してくる男。一番気をつけなきゃいけない変態じゃないかそれは。
本文P45より
変態!笑
注意しなくてはいけない、ではなくて、変態。おもしろい表現です。
思考停止は楽なのだろう。だけど思考停止を覚えてしまったら、臨機応変に「自分なりの考え」なんて出てこなくなる。一度切ったそのスイッチはなかなか入らないし、そういうやり方を覚えてしまった人間というのは、躾に失敗した動物と同じくらい頑迷だ。
本文P106より
考えることの大切さ、大事さを教えてもらったお言葉です。
なぜ人間は、ものごとを一般化したがるのだろう。なぜ説明したがるのだろう。なぜ皆が一緒だと思いたがるのだろう。
本文P111より
言われてみればそうですね。
きっとそこに安心を求めているのかな。
人事にチャラ男枠というものがあるのか知らないが、辞めてもまた別のチャラ男が来る。うちの会社もそうかもしれない。そうやってチャラ男は入れ替わり立ち替わり世の中を回遊しているようだ。
本文P164より
たしかに、どこにでも似たような人がいる。
チャラ男が回遊しているっていう表現がまたツボに入ります。
世の中を削っても削っても、吟醸酒みたいに済んだ味は得られない。器を小さくしたって、濃縮された地獄が出現するだけだ。
本文P272より
どんなに敵や気に入らないものを視界や周囲から排除しても、キリがない。
むしろどんどん色濃くなっていく。
糾弾し過ぎも、自分の心に良くないですね。
最後に
とにかく痛快でおもしろいので、手に取っていただきたい一冊です。
今まで言葉にできなかった気持ちがこの本で代弁されていて、スカッとしました◎
< スポンサーリンク >