今回は夕木春央さんの『方舟』を紹介します。
週刊文春ミステリーベスト10国内部門、MRC大賞2022で第1位のダブル受賞。
そして2023年本屋大賞ノミネート作。
その他のミステリーランキングにもランクインするという、発売当初から話題になっていて、ずっと気になっていた小説。
表紙からは不穏感がだだ洩れで、読む前からドキドキします。
目次
あらすじ
おもしろい場所があると言うメンバーの案内で不気味な地下建築に辿り着いたサークル仲間たち7人。
日が暮れてしまったため、そこで夜を明かすことにした彼らに、更に道に迷っていた家族が加わる。
滞在中に地震が発生し、その影響で地下建築の出入り口が塞がれ、更には浸水が勢いを増すという非常事態が発生。出入口を塞ぐ岩を除くには、誰か1人が犠牲にならなければならない。
そんな極限状況の中、さらに事件が発生する。
生贄になっていもいいのは、なるべきなのは誰か。
感想
最近読んだミステリーの中で一番おもしろかったです。
これでもかってくらい次々と非常事態が発生して、追い詰められて、謎が増えるばかりで、先が気になってしょうがない。
まだ何も解決策や真相がわからないのに、その好奇心の熱にほだされている最中なのに、休憩挟まず追い打ちでどんどん、状況のやばさが増していきます。
そしてこの極限状態、誰もが信用できないという怖ろしさ。
探偵みたいなあの人も、主人公も、もしかしたら犯人なのでは……と疑り深くなってしまいます。
一度も退屈なシーンはなくて、読者側の私まで気が張り詰めっぱなしでした。
このお話のミッションは、この閉じ込められた地下建築「方舟」から無事に脱出すること。
唯一の脱出方法は、誰かが犠牲を払って出入口の障害物を排除すること。
全員が脱出することは不可能と言っていい状況。
浸水は進むので、水が満たされる前に脱出しなければ意味がない。
満水タイムリミット内に生贄を選ばなければならない。
さらに輪をかけて、無意味に思える殺人事件の発生。
生贄に妥当と思われるのは、殺人犯。
浸水と殺人に気を張りながら、一刻も早く犯人を特定して操作をしてもらわければならないという極限すぎる状況なのです。
そもそもなぜ殺人が起きたのか。
この地下建築「方舟」は誰が何の目的で建築し、住んでいたのか。
本当に脱出方法は、それしかないのか。
お話が進んでいき、あとは障害物が排除され次第、脱出する。
ここまでが本編で、ちょっと切ない余韻も残っていました。
そしてエピローグ。読む前は後日談が始まるのかなと予想していたのですが
そんな優しいものではなかった。
ここに来てなんと、どんでん返し。全てが反転しました。
犯人の手によって、その場の誰もが(私も)まあまあ序盤から騙されていました。
今まで悶々としていた時間はなんだったんだってくらい、易々と反転しました。
その可能性、まったく念頭に置いていなかった。痺れる。
でもこういうの好きなんです、私。
こうやって、最後の最後にびっくりさせられるの楽しい。
※ここから先はネタバレ区域に入ります。
< スポンサーリンク >
犯人、お見事でしたね。賢すぎる。
冷静沈着で、華麗にサラっと考えて行動する姿に、悪役なのにかっこいいと感じてしまいました。
自分が脱出するために手段を選ばない。
勝者はこの方。圧勝でしたね。
このお話一番の大トリックである出入口と非常口のカメラモニター差し替え。
本当は非常口からしか脱出できなかったのです。
しかし非常口から脱出するには浸水した水中を泳いで行かなければならず、タンクは2本しかない。
皆に本当の状況を知られたら、2人しか助からないので、これまでのことよりも酷い争いが起きるし、自分が助かる確率も低くなる。
だから皆には「出入口からしか脱出できない」という逆の状況に錯覚させ、本当のことを知る自分だけが非常口に行けるよう算段したのです。
一番最初にモニターを見て、外の状況を把握した犯人は、助かる可能性を誰よりも先に神からの啓示のように受け取ったようなものですね。
ノアの方舟と重なりました。
自分が殺人犯として生贄にされることこそが、犯人の計画。
思うツボだったわけですね。
殺人動機も推理とは違って、単純だけれど的確で、なんだか事務的にも見えます。
<動機についてまとめたよ!>
裕哉
推理:「殺人者を生贄にする」という状況をつくるために、殺人を起こしたかったから。
真実:彼は以前に地下建築を探索しているので、モニターの工作に気づいてしまう可能性があったから。
さやか
推理:彼女の撮った写真の中に凶器が移り込んでいて、自分の犯行だと気づかれる可能性があったから。
真実:彼女は外の写真も撮っていたので、モニターの工作に気づかれる可能性があったから。
矢崎幸太郎
推理:姿を見られると思ったから。
真実:タンクの残量が減ると困るから。
主人公も、もしかしたら助かっていたかもしれない。
あの時、自分も残ると言っていれば。愛情をむき出しにしていれば。
その2択の、選ばなかった方が、自分の助かる道だったとは。
主人公が最後、騒ぎ立てずに脱力した諦めは、心身ともに疲れ果てて、もう生きることに失望したからなんでしょうね。
最後に
イヤミスだろうなとか感じていましたが、その展開はあまりにも予想外でした。
予想を越えるおもしろさだったので、みなさんに読んでほしいです。
このおもしろさを実感してほしいです◎
< スポンサーリンク >