今回は畑野智美さんの『大人になったら、』を紹介します。
表紙がかわいい。正真正銘の表紙買いです。
色味も私好みで、躊躇もなく手に取りました。
8年ぶりの恋かあ。このフレーズだけでウキウキしちゃいます。
目次
あらすじ
長年付き合っていた恋人に振られて以降、人を好きになることもなく、日常も仕事も現状維持で過ごしてきた主人公に降りかかるのは、周囲からの「結婚しないの?」「昇進試験受けないの」などの急かす言葉たち。
そんな彼女も、自然とある人を意識し始め、少しずつ好きになっていく。
大人であるがゆえに不器用な、ある恋が始まるお話。
感想
今まで読んできて「大人の恋愛小説」と感じたものは、都会的でおしゃれな、甘くて苦い雰囲気のお話でした。
こちらも間違いなく「大人の恋愛小説」なのですが、雰囲気が違う。
現実的にお話が進んでいくので親近感や共感が持てて、大人だからこその不器用さが良い具合にアクセントを利かせています。
ロマンチックではないけれど、たどたどしさが微笑ましいし、盛り上がらずに進んでいく感じも、背伸びをしない感じも、リアルで入り込みやすく、違和感もないです。
自然な、知り合いや自分のお話のような恋愛模様です。
多分、恋愛小説が苦手な人でも読みやすいと思います。
押しつけがましくないというか、とにかく庶民派。(?)
サラっと読めて、読後は春の陽だまりにいるような心地いい感じです。(急に詩的)
普段小説を読まない人にもおすすめです。かなり読みやすいと思います。
主人公が30半ばで、パートナーなし、仕事も低空飛行という設定ですから、やっぱり周囲からうるさいくらいに口出しされる標的なんです。
現実でもそう。それくらいの年齢になると女性は未だに、多方面から謎の急かし攻撃を食らいます。
彼らも悪気があって言っているんじゃないのはわかるんですけどね。
本人からしたら放っておいてほしいですよね……。
その洗礼を受けている中で、今までなんとも思っていなかった人を、あるきっかけがあって意識し始める。
でも大人だから。彼女は大人だから。
いろいろ弁えてアタックしないという、読者からしたらもどかしい展開です。
起承転結の「転」辺りに差し掛かった時、これ一体どうなっちゃうの……とソワソワしましたが、意外にもあの人が大胆行動に出たので、私まで嬉しい。
ロマンチックが始まるのかとドキドキしていたら。
やっぱり彼女は大人なので。もちろん大人なので。
気づいたらもう最後の一文を読み終わってしまいました。
この最後の一文が素敵なんです。
この街の春は、東京よりも遅く来る。
本文P309より
2人の関係の進展と、この地域の季節をかけた一文。
ゆっくりゆっくりと2人歩み寄っていく姿と、穏やかな恋愛が始まる予感が目に見えるような素敵な一文です。
恋愛で深く傷を負って臆病になった2人同士なら、この先もずっと穏やかに、一緒に歳を取っていくんだろうなと思います。
< スポンサーリンク >
登場人物も個性的で、なかでも新入社員くんが個人的に印象深いです。
THE今どきの子っていう感じなのですが(固定概念)
正論でバトルを仕掛けてくるので「こいつ……、大人の世界は正論だけではやっていけないんだぞ!」と思いつつも、憎めないんです。
むしろ後半からは人懐っこいわんちゃんのようで、見放せないです。
固定概念またまた出ちゃうけれど(あくまでイメージと思ってください)、あの人も数学の講師特有の恋愛に奥手という雰囲気がよく出ていて、それでも一生懸命、最終的に大胆な行動に出るので、応援したくなる人物です。
よく通うバーのマスターが口にしたセリフが素敵だったので、ここで紹介します。
「もういい大人のはずなのに、子供である自分を見せられる相手を僕は好きになる」
本文P132より
かっこいいし、その通りです。
一生添い遂げるなら、自分の子供みたいな面も見せられるような、信頼できる人が良いですね。
恋愛も気が進まない、昇進試験を受ける気も進まないという彼女を、短期間で両方その気にさせるんだから、恋の力ってすごいですね。
恋は原動力になりますね。
最後に
すんなり世界に入り込める恋愛小説でした。
2人の今後がずっと穏やかに続きますように◎
< スポンサーリンク >