本好きの秘密基地

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春のこわいもの/川上未映子

今回は川上未映子さんの『春のこわいもの』を紹介します。

表紙の色味やタイトルのキラキラが可愛いのですが、こわいもの。

春のこわいものって一体なんぞや。

3月に入って春を感じることが多い今、良いタイミングと思ってのチョイスです。

 

目次

 

あらすじ

コロナ感染症が猛威を振るい始めた頃の東京で、男女6人がそれぞれダークな日々を送る6篇の短編集。

 

感想

あらすじにも書きましたが、全部がダークな雰囲気むんむんです

目が覚めるような刺激的なダークと、ふわふわした感じの掴みどころのないような不思議な気持ちになるダーク

なにはともあれ、結論、いろんな意味でのダーク(どんより、闇が深い)なお話です

「春のこわいもの」という明確な「こわいもの」は登場しません。

ただ、春を感じる時の「新しい季節に嬉しくなって穏やかさを感じる中にも、得体の知れない、なんだか落ち着かないザワザワする不安みたいなもの」ってあるじゃないですか。(伝わるかしら)

読後がまさにその気持ちと似ています

そういう意味で、このタイトルなのかもしれません。

春に感じる嬉しい気持ちとは裏腹にザワザワする感覚を物語に体現した感じです。

 

でも川上さんは、今回もやはり丁寧に言葉を紡ぐ方なので、描写も詩的で美しいので、ダークな題材なんだけれど、柔らかさがあります

なので「ダークなの!? こわいわ無理読めない」という心配はご無用かと存じます

うん。今作もとにかく言葉一つ一つを丁寧に慎重に置いていて、こちらもそれを大事に読みたくなりました。

詩的だけど想像しやすく、その表現おもしろいなと思いながら、ダークに浸っていました。

 

喜ばしいことに、だいぶコロナ感染については最近、落ち着いてきています。

このお話たちの舞台は、コロナ感染爆発直前か真っ只中

その頃のことを懐かしく思いながら、そういえばそんなことあったね〜と読めるのも、コロナを乗り越えて今を生きる私たちの特権ですね。

 

『青かける青』

書簡体で進むこのお話。

書き手は精神病を患っているかなと思っていたら、そうではないみたい。

それとも精神病の研究が進んで、違う病名や治療法ができた未来が舞台なのか。

悶々と考えていましたが、後に登場する『ブルー・インク』を読んだ時に、もしやこれは……? と考察しました

詳しいことは、そのお話にて書きたいと思います!

 

『あなたの鼻がもう少し高ければ』

美容整形や顔(外見)が全てという闇。

美容系のSNSなどを見て憧れる彼女たちの気持ちは理解できます。

理解できるけれど、ここまでのめり込むのはちょっと怖いかなと、個人的には思っちゃいます。(歳のせいもある)

考えが宗教じみていて、それを絶対だと信じて疑わなかったり崇めたりする危うさに鳥肌が立ちます。

面接のシーンは衝撃を食らい過ぎました。

そもそも面接やるのか、とも思いました……。

価値観が様々なのは了解していますが

「来るなら、顔ちゃんとしてから、来てほしいんだけど」

「なんでブスのまま来てんの」

本文41より

この畳みかけは、さすがに酷すぎないか。泣きそう。

私が言われたわけでもないのに、傷ついた気分になりました……笑

美人を武器にする商売だから、その指摘は間違ってはいないのかもしれない。

でも、素顔が「ちゃんとしていない」「ブスのまま」と表現されるのは、度を越えている

いやあ、世間は厳しいね!

でも、その後に戦友と二人でビールを飲んで他愛もない会話をするシーンで、ちょっと救われました。

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『花瓶』

死ぬのを待つだけの寝たきり老女が思い出すのは、自分が女だった時のこと

昔、恋愛に心を燃やしていた時のこと。

それを思い出して物思いに耽る老女は、心はまだ女だ

憧れます。

年老いても、自分を女として自覚していたい。私も。

 

『淋しくなったら電話をかけて』

客観的にお話が進むという、一風変わった手法。

常に「あなた」は鬱々してイライラしている感じて、目的も定まらずフラフラしている。

淡々と進んでいくけれど、なんとなくはっきりしない、わからない危うさを感じます。

何をしでかすかわからないというような危うさ。

特に何も大きいことはしていないけれど、油断していたら急に突拍子もない行動をしかねないといった感じ。

 

『ブルー・インク』

主人公の堂々巡り思考、その過程で開き直ったり、逆ギレしたりする様子に、私はちょっとイラっとしてしました。(心狭し)

なに自分を正当化してるのよ。元はと言えば君のせいでしょう!

これは女だからそう思うのか。それとも誰でも思うのか。はたまた、私だけなのか

最終的に興奮状態の延長戦という感じで、相手を良いように想像するという思考回路は、思春期の男の子のリアルな生々しさを目の当たりにした感じで、こっちまで心拍数が上がります。

これはあくまでも私の考察なのですが、失くした手紙というのは『青かける青』ではないかと思うのです

もしそうだとしたら、彼女は自分の秘めた想いを描いた手紙を失くされたわけだから、それであそこまで悔しくて悲しい気持ちになったんだろうなと感じます。

 

『娘について』

主人公のイラ立ちも理解できる。

最初は応援していたのに、途中から親友の成功をおそれて、チャンスを潰させる誘導をしたり、親友の母に意地悪くタブーな話題を持ち掛けて、母娘の関係をかき乱したりする。

人間らしい心理ではあるなと思います。

もちろん主人公は醜いことをしたのだけれど、相手が親友だろうと、先に幸せになって置いていかれたくないという思いから、蹴落とそうと陰湿なことをするのは、女の怖い一面を表しているなと感じます

女の友情は、こじれると怖ろしい……。

 

最後に

いろんな形の春。

その春の「こわい部分」が浮き彫りになった深いお話たちでした◎

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