今回は北原一さんの『ふたり、この夜と息をして』を紹介します。
第9回ポプラ社小説新人賞特別賞を受賞したデビュー作です。
表紙の写真と金色の帯の色合い(写真になくてすみません!)、そして神木隆之介さんの推薦コメント。一瞬にして目を奪われました。
ちなみに表紙の写真も神木さんが撮り下ろしたものだそうです( ゚Д゚)
目次
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あらすじ
コンプレックスを隠して、それに気づかれないよう日々怯えて過ごす男子高校生。
新聞配達の時に通った夜明けの公園で、クラスメイトの女の子と遭遇する。
お互いの秘密の表面を見たものの、それ以上は踏み込まない、他言しない。
公園での出来事をきっかけに、彼の生活や気持ちにも変化が生まれるが、彼女の秘密が動く時、自身の秘密と向き合うことになる。
それぞれの苦しみと向き合い、受け入れていく、感動の青春小説。
感想
ちゃんと感動しました! 震えました!(西野〇ナ並みに)
感動の青春小説って、個人的にあまり響かないことが多いんです。なんかこう、先が読めちゃって、ありきたりだな~って思って、白けちゃうタイプなんです。(ひねくれていてごめんね)
なので、このお話も「感動の青春小説」という謳い文句に、ちょっと疑いの目というか、でも神木くんがこんなにも切ない秘密があるのだろうかって言ってるし読んでみるか……(神木ファンです)とか、そんな姿勢で読み始めたんですけれど。
これがデビュー作!?
と疑いたくなるくらい、完成度が高かったです。
描写や喩えも、わかりやすくておもしろい。
会話も自然で、テンポもいいし、たまに笑かしてくる。和むやりとりが行きかう。
全体的に違和感がないのです。
先が読める部分もあるけれど、たまに予想外な展開に転がるので、おお、そっちか! って楽しんで読んでいました。
主要な登場人物も、みんないい。素敵な人たちばかりで安心します。いい世界。
ひとつ難点があるとすれば、主人公の名前(夕作(ゆさ))が変わっているので、読み間違い多発。「ゆうさく」って読んじゃう。
ひどい時は「夕飯」と見間違えたり。
主人公の秘密はすごく理解できる。辛さも、想像しただけで痛い。
幼子は無邪気がゆえに、残酷な言葉を放ちますよね。特に深い意味もなく「へんなの」と言ったんだろうということもわかります。
でも言われた本人は気にしちゃうよね、コンプレックスになるよね。
陰湿ないじめも酷いし、それに屈する主人公に対する父親の態度も酷い。
そりゃ神経質にもなる。
私たちからしたら何の致命傷でもない雨や汗、摩擦も、主人公には重大で、窮屈で心休まらない毎日に、関係ない私まで胸が苦しかったです。
一方の彼女の秘密の真相は、たしかに切なかったです。
そういうちゃんとした意図があって、そんなことをしていたのか……。
プルースト現象に縋っていたいがための行為だったのか。つらかったろう……。
自暴自棄になってしまった彼女のために、主人公が取った行動は勇敢でかっこよかったです。その勇姿にめちゃくちゃ感動しました。
躊躇いながらも、コンプレックスをさらけ出すために仮面を引き剝がそうとするシーン、胸熱でした。
がんばれ……、がんばれ……!
って、読みながら祈るくらい、のめり込んでいました。
保健室の先生の言葉で、いくつか心に残る言葉があるのですが、ひとつここに紹介します。
「どれだけ深く繋がっても、どうしようもなく分かち合えないものっていうのは、誰もが持っているものだよ。伝えられないことがあったとしても、私が私の友達を好きだと思う気持ちには、嘘はないわけだしね」
本文P244より
親友でも、どんなに好きで信頼していても、言えない秘密はあって当然。全部を友達に話す必要はない。そんな優しい、説得力のある言葉に、私は感動しました。
エピローグ。
再会を喜ぶ主人公の気持ちがダイレクトに伝わるラストでした。見ているこっちも、嬉し泣きしちゃう。
主人公を思わず抱きしめたくなる。そんな読後感でした。
最後に
すごく充足感たっぷりの温かい感動を覚え、予想外にびっくりでした!
北原さん、今後の作品も期待しています◎