今回は髙樹のぶ子さんの『ほとほと 歳時記ものがたり』を紹介します。
去年、髙樹さんの作品を読んで他作品も読みたいと探していたところ、表紙と「歳時記ものがたり」というワードに惹かれて手に取りました。
最近、時代小説も読むようになったからか好きなんですよ、古典。
ちなみに「歳時記」とは季節物を集めた百科事典のようなもので、江戸時代以降からは俳句などに用いる季語の辞典のようなものとなったようです。
目次
あらすじ
季語をテーマに、忘れられない人との不思議な出来事を描いた24篇。
感想
まずこの、それぞれの「季語」をキーワードにお話が展開するというおもしろい設定が魅力的です。
タイトルが全て季語で、それになぞらえた物語の展開にわくわくしました。
知らない季語もあって新発見を感じたり、季語という短い言葉の中に風情や美しさを改めて感じて、日本人の感性ってすごいなと惚れ惚れしたり。
そこに忘れられない存在との不思議で神秘的なエピソードが交わってくる。
裏表紙のあらすじにある「季語を縦糸、忘れられない人との邂逅を横糸に」という表現は、まさにピッタリなのです。
ふたつのキーワードとテーマがバランスよく紡がれていて、まずそのクオリティに感動。
そして切なくて美しくて、幻のようなお話の雰囲気に更に感動。
読んだことのある『私が愛したトマト』でも感じましたが、髙樹さんの描く不思議な非現実世界は、切ない、美しい、ゾッとする、妖艶という様々な種類があるけれど、どれも共通して神秘的、幻想的なのです。
その世界がたまらない……!
特にこの作品は。(まだ2冊目)
こちら季節ごとに収録されていて、短編で隙間時間にも最適なので、忙しくても少しずつ季節に合わせて読んでいくという楽しみ方もできるなと、再読計画を既にたてております。
比喩表現や着眼点もおもしろいです。
自分の意思と無関係に動いてしまう目を、謀反を起こしたようにと表現するところとか、私としてはツボです。
全部素敵なお話でしたが、中でもお気に入りのお話は『出目金』『秋出水』『寒椿』『小町忌』です。
忘れられない人との再会に感動したり、身を引き締められたり、考えさせられたり。
この本を読まれた方のお気に入りも是非聞いてみたいです。
人によって心打たれるお話はそれぞれで、結構バラけそう。
全編感想を書きたいところですが、そんなことをしていたら長くなってしまうので、24篇から厳選したものを語っていきます。
『ほとほと』
「ほとほと」という擬音語があるなんて知らなかったです。可愛らしくて優しい響きだ。
さらにそれを由来とした新年行事。これがお話の要です。
ほとほとの正体が偉大な存在だったということに驚いたと同時に、素敵で尊いお話だなと、ときめいた気持ちになりました。
『春の闇』
「窓」という絵の中の「春の闇」。そこに入り灯りを点けて回ったのは少年の忘れられない大好きな人だった。
その幻を見た彼はやっと現実を冷静に見ることができ、決別できるほど逞しくなって、かっこいい。
その時、彼が説教された言葉が彼をこれほどまでに強くしたのでしょう。
「君は全くバカだな、相手を泣かせたら自分が勝ったと思うなんてバカな子供だな。全くどうしようもないね」
本文P46より
そんな風に言ってくれる存在って貴重だなと痛感します。
泣かせることだけが強者ではない。
彼はハッとしただろうな。
『翡翠』
幻想的でした。怖ろしいようでいて美しいお話でした。
大きな過ちを犯したけれど、彼は誰よりも妻を愛していたのだなと、それがひしひしと感じられました。
緑の石の中できっと、彼の家族は穏やかに暮らしていることでしょう。
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『出目金』
原爆記念館で出会った忘れられない少年。
彼が体験した景色を、カプセル(被爆金魚鉢)という安全地帯で体験する。
安全地帯から見ても、その景色は怖ろしくて泣き叫びたくなるものでしょう。
実際に被爆した少年からすれば、この金魚鉢は狭くても天国のような場所だと言う言葉に、今を生きる私たちはなんて贅沢な環境にいるのだろうと気づかされました。
『秋出水』
かつて大きな川だった場所で、愛する人のカケラを拾い集めては回想する。
彼女が彼を愛していたことが、それだけで伝わってきます。
最後の拾い物サプライズが素敵過ぎて、でも切なくて苦しいです。
なんて素敵な彼だったのだろう。
ロマンチックで一番感動しました。
『寒椿』
愛する夫との再会がとても美しい情景として浮かび上がりました。
妻が他者へ微かな下心を抱いていて、それを夫が嗅ぎ取った時はドキリとしましたが、想いが強く伝わったようで安心。
きっとその微かな下心を妻から摘み取るために着物の椿柄を引きちぎったのでしょう。
『小町忌』
小野小町に恋焦がれるおじいさん、素敵でキュートでした。
惚れた人は骨になっても、どんな姿になっても魅力的。純愛だ。
そしておじいさんは、主人公に今まで欠けていた愛とか恋とかときめきとかの素晴らしさを教えてくれ、彼女を少し良い方向へ導いてくれました。
最後は感動。胸が熱くなる。
『竹落葉』
竹っておもしろい。竹についてもっと知りたくなりました。
竹にとって、生命のバトンタッチをする時期は秋だそうです。邪道最高。
主人公も天邪鬼と孤独を貫いて、最期を竹に囲まれた窪地で迎えるシーンはなんとも神秘的。
『紫陽花』
今までの不思議な雰囲気はなく、切なくて健気な恋模様。
現実的なお話なので、やるせなさへの共感を強く感じました。
がんばれ、恋する乙女。
『星月夜』
こちらも幻想的で不思議な空気を纏っていて、ふわふわした感じでした。
でした。だよ。
オチが残酷でした。鳥肌立っちゃいました。
悲しい。後悔してもしきれないだろうな。
何かに夢中になって周りが見えなくなることって、時に残酷な展開をもたらすのですね。
最後に
短歌や俳句を詠むように、短編を詠むような作品群でした。
日本の四季の美、改めて尊いと思いました◎
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