今回は斎藤彩さんの『母という呪縛 娘という牢獄』を紹介します。
ずっとずっと気になっていたこちらの本。
ついに読みましたぞ!
私事ですがお盆から不調で沈黙していました。ただいま!
この作品はその絶不調前夜に読了したものです。(2023.8.13頃かな)
目次
あらすじ
2018年、母親を殺めて遺体をバラバラにし遺棄した娘の事件のルポルタージュ。
娘と筆者とのやりとりから見える事件の背景、その後、娘の心理。
親子の関係性、距離感、過干渉について考えさせられる、とてつもなく深いノンフィクション。
感想
予想外な読後感でした。感動の震えが止まらない。
余韻も凄いです。
衝撃的な事件のノンフィクションということで、母娘の間に一体何があって、どうしてそうなってしまったのかを知りたいと思って読んだのですが、そりゃあんな怨恨極まる印象を与える形の事件なので、経緯は壮絶です。
おかしい、やばい、狂っているの3拍子です。
娘が受けたたくさんの理不尽や暴力は、あまりにも度を越していて、読んでいても苦しいです。
それなのに感動してしまうとは。
まさかそんな感情を終盤で覚えるとは思ってもみませんでした。
娘・あかりと母・妙子の囚人と看守のような関係性。
あかりの点数、評価、合否に対する妙子の求め方が、私の目には異常でびっくりでした。
89点でも十分に高得点だと思うのですが、90点台でないと責められて、度を越えた罰を与えられるなんて、私の知る世界ではあり得ないです。
自分がどうしたいのか、何になりたいのかを伝えても受け入れてもらえず、母の夢を叶えなければならない。
それでも、それが不本意でも、母の望む進路のために勉強を頑張るのに、結果がダメならば「嘘つき」「裏切った」と過剰な受け取り方をされ、罵声を浴びせられ、詰問、罰(拷問的虐待)を受けなければならない。
これを長い年月。これが日常。
耐えられないよ……泣
監視され、罵詈雑言を吐かれなじられ、暴力という罰を与えられる。
リアル囚人生活だ。
鉄パイプとか熱湯とか、酷すぎて見ていられません。
立派な虐待です。
妙子の、父や普通レベルの学生、看護師に対する傲慢な値踏みや言動も、うわまじか酷いこと言うな……と引いちゃいました。
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そんな生活の中、あかりは自力でこの生活を変えようと、何度も何度も懸命に行動していました。
そう、こんな悲惨な事件が起こる前に彼女は自ら動いていたのに。
逃げなきゃと悟って家出をしたり、SOSを送ったり、こっそり寮完備の職場の面接へ行って自立しようとしたり。
でもそれら全て、ことごとく妙子に見つけられ、つぶされる。断たれる。(まじでラスボス級モンスターだわ)
妙子はどこまでもあかりを追いかけて捕まえて、執着する。
頑張って行動しても全てつぶされ報われないあかりがかわいそうという言葉では足りないくらい惨めに思えてきます。
あかりのSOSが妙子に潰されず、周囲に伝わっていたならば、もっと早くに解放されて、自分の道を納得して選べたのかな。
一番悔しいのはあかりだろうけれども、読んでいて私はすこぶる悔しい。
妙子も妙子で、上手くいかなくて、あかりを責めたくなくても責めてしまって、そんな自分を責めていたのかもしれません。
でも、それでもあんまりだ。
十数年よ。青春丸つぶれよ。
犯した罪は許されないし、消えもしないけれど、母の重圧や言動に今まで耐えてきた彼女はすごかった、頑張ったよって声をかけてあげたい気持ちになります。
あかりはずっと妙子の殺害は否定し続けていたのですが、ある時ついに認めます。
罪を認めて、本当のことを話そうと決意したきっかけが意外にも素敵で感動的で、そしてどれだけ彼女が今まで孤独を背負っていたのかということも伝わってきて、泣いている彼女を強く抱きしめ、一緒に泣きたくなりました。(全然赤の他人なのにそうしたくなるの)
「お母さんに敷かれたレールを歩み続けていましたが、これからは自分の人生を歩んでください」
本文P259より
という裁判長のシンプルながらも希望がはち切れそうなお言葉がどんなに嬉しかったことか。
これからは自分で決めて、好きに生きていい。
彼女がずっと欲しかった言葉。
弁護士団や父、裁判官たちが自分を理解してくれて、受け入れてくれたという喜びと感謝を、彼女はどれほど心強く感じたことか。
理解してくれる。ただそれだけのことで感激できる彼女はいつも孤独でつらかったでしょうし、しっかり人間の心を持っているはずだと、私は思うのです。
彼女の今後を強く応援したい。
最後に
ノンフィクションとは思えぬ程の濃密で過激な人生で、でも最後はそんなことがあったからこそ感極まる。
もう二度とこんな悲劇が起きないよう、それぞれが自らの親子関係を立ち止まって俯瞰してみたり、誰かのSOSに気づけるようアンテナを張っていける世の中になれたらと思うお話でした◎